11. 異常・損傷と対策

想定していた期間より、早期に軸受が損傷した場合、再発を防止するため、その原因を的確に見出すことが重要となります。
また、損傷前の音響・振動や温度の変化を把握していることも効果的な対策を見出したり、更なる寿命延長を検討するために役立つことが多々あります。

軸受の損傷

軸受は正しく取扱えば、疲れ寿命に達するまで使用できます。しかし、想定時間より早く損傷し、使用に耐えられなくなることがあります。主に早期損傷は、故障、または事故と呼ばれる性質の使用限度であり、取付け、取扱いなどの組立不良と使用中の温度、潤滑剤の選定ミスなどの設計検討不備によるものです。
 

 初期故障期偶発故障期摩耗故障期
特徴僅かに稼動しただけで、故障安定稼動後に故障が起こる時期部品寿命により故障が増加する時期
主な発生原因材料欠陥、組立不良、設計不備、操作ミスメンテナンス不良、使用環境変化寿命
(摩耗・疲労、経年劣化)
主な故障低減策慣らし運転、異音・振動・温度確認保守品質維持または変化に応じた保守改善、潤滑剤交換、適正運転の徹底予防保全(事前予知に基づく部品交換など)
バスタブ曲線(故障率曲線)

バスタブ曲線(故障率曲線)

発生時期と推定原因

発生時期と推定原因

運転状態と推定原因

運転状態から、推定される主な原因には下記のようなものがあります。
 

運転状態主な推定原因
騒音低い金属音
  • 転動面の打痕
高い金属音
  • すきまの過小
  • 潤滑不良
不規則音
  • すきま過大
  • 異物侵入
  • 転動体表面の欠陥
  • 潤滑剤の不適当
漸次変化する音
  • 温度上昇によるすきまの変化
  • 軌道面での欠陥進行
異常温度上昇
  • すきまの過小
  • クリープ
  • 潤滑剤の不足または過多
  • 負荷荷重大
精度低下
  • 不純物、または潤滑不十分による軌道面、または転動体の損傷
スムーズでない運転
  • 軌道面・転動体の損傷
  • 異物侵入
  • すきま過大
潤滑油の汚染
  • 潤滑不良
  • 異物侵入
  • 早期摩耗

走行跡と荷重のかかり方(深溝玉軸受の場合)

軌道面は転動体との転がり接触で走行跡がくすんだ色になります。この着色自体は異常でありません。下図(a)~(d)は一般的に見られる走行跡です。しかし、下図(e)~(h)の走行跡は軸受に悪影響を与え、多くは短寿命になる可能性があります。

正常な走行跡
内輪回転 ラジアル荷重

内輪回転
ラジアル荷重

外輪回転 ラジアル荷重

外輪回転
ラジアル荷重

内輪または外輪回転 一方向アキシアル荷重

内輪または外輪回転
一方向アキシアル荷重

内輪回転 ラジアルおよび アキシアル荷重

内輪回転
ラジアルおよび
アキシアル荷重

短寿命になる可能性がある走行跡
内輪回転 アキシアル荷重および ミスアライメント

内輪回転
アキシアル荷重および
ミスアライメント

内輪回転 モーメント荷重 (ミスアライメント)

内輪回転
モーメント荷重
(ミスアライメント)

内輪回転 ハウジング内径が楕円

内輪回転
ハウジング内径が楕円

内輪回転 軸受内部すきまがない (運転すきまがマイナス)

内輪回転
軸受内部すきまがない
(運転すきまがマイナス)

走行跡と荷重のかかり方(ころ軸受外輪の場合)

外輪の軌道面は、転動体との転がり接触で走行跡がくすんだ色になります。走行跡が軌道面につくことは異常でなく、それにより負荷条件を知ることができます。

内輪回転 ラジアル荷重

内輪回転
ラジアル荷重

内輪回転 モーメント荷重 (ミスアライメント)

内輪回転
モーメント荷重
(ミスアライメント)

内輪回転 ラジアル荷重

内輪回転
ラジアル荷重

内輪回転 アキシアル荷重

内輪回転
アキシアル荷重

ラジアル荷重および モーメント荷重 (ミスアライメント)

ラジアル荷重および
モーメント荷重
(ミスアライメント)

(i)、(j):単列円筒ころ軸受N形の外輪
(k)、(l)、(m):複列円すいころ軸受KBE形の外輪

軸受の損傷と対策

フレーキング(スポーリング、はく離)
損傷状態
軸受が荷重を受けて回転した時、内輪/外輪の軌道面または転動体の転動面が転がり疲れによって、
うろこ状にはがれる現象。
原因
  • 過大荷重
  • 取付不良(ミスアライメント)
  • モーメント荷重
  • 異物侵入、水浸入
  • 潤滑不良、潤滑剤不適
  • 軸受すきまの不適
  • 軸/ハウジングの精度不良、ハウジングの剛性むら、軸のたわみ大
  • さび(錆)、腐食ピット、スミアリング、圧痕(ブリネリングからの進展)
対策
  • 荷重の大きさの確認と使用軸受の再検討
  • 取付方法の改善
  • 密封装置の改善
  • 休止時の防せい
  • 適正粘度の潤滑剤の使用、潤滑方法の改善
  • 軸/ハウジングの精度確認
  • 軸受内部すきまの確認
損傷例
  • 自動調心ころ軸受の内輪
  • 軌道面の片列のみに生じた全周にわたるフレーキング
  • 過大アキシアル荷重によるもの
損傷写真

損傷写真

フレッチング
損傷状態二面間の相対的繰り返し微少滑りによって生じる摩耗。
軌道輪と転動体との接触部や はめ合い面に生じます。
赤褐色または黒色の摩耗粉を発生することからフレッチングコロージョンとも言います。
原因
  • 潤滑不良
  • 小振幅の揺動運動
  • しめしろ不足
対策
  • 適正潤滑剤の使用
  • 予圧をかける
  • しめしろ確認
  • はめ合い面への潤滑剤塗布
損傷例
  • 深溝玉軸受の内輪
  • 内径面に生じたフレッチング
  • 振動によるもの
損傷写真

損傷写真

圧こん
損傷状態金属の微粉、異物などをかみ込んだ時に軌道面または転動面に生じるへこみ。
取付時などの衝撃による転動体ピッチ間隔にできるへこみ。
原因
  • 金属粉などの異物のかみ込み
  • 取付け時、または輸送中の衝撃
  • 過大荷重
対策
  • ハウジングの洗浄
  • 密封軸受の改善
  • 潤滑油のろ過
  • 取付け、および取扱い方法の改善
損傷例
  • 円すいころ軸受のころ
  • 軌道面全周に生じた無数の大小圧痕
  • 異物のかみ込みによるもの
損傷写真

損傷写真

電食
損傷状態電食とは、軸受の軌道輪と転動体との接触部分に電流が流れた場合、薄い潤滑油膜を通してスパークし、
その表面が局部的に溶融し、凹凸となる現象。
なし地状に見える部分は小さなへこみ(クレータ、またはピットと呼ばれます)の集合体であり、軸方向の縞模様の凸凹をフルーチング(またはリッジマークとも呼ばれます)、円周方向に生じる溝をグルービングと呼びます。
原因
  • 外輪と内輪間の電位差
  • 高周波を発生する機器や、基板の周辺にて使用される場合は、高周波の電位差が原因になります
対策
  • 軸受部に電流が流れないように電気回路を設ける
  • 軸受の絶縁
損傷例
  • 円筒ころ軸受の内輪
  • 軌道面に生じたピットを伴う帯状の電食
損傷写真

損傷写真

焼付き
損傷状態回転中、急激に発熱し軌道輪、転動体および保持器が変色、軟化、溶着し、破損に至ります。
原因
  • 潤滑不良
  • 過大荷重(予圧過大)
  • 回転速度の超過
  • すきま過小
  • 水浸入/異物の侵入
  • 軸/ハウジングの精度不良、軸のたわみ大
対策
  • 潤滑剤、および潤滑方法の検討
  • 軸受選定の見直し
  • はめあい、軸受すきま、予圧の検討
  • 密封装置の改善
  • 軸/ハウジングの精度確認
  • 取付け方法の改善
損傷例
  • 自動調心ころ軸受の内輪
  • 軌道面が変色、溶融し保持器摩耗粉が圧延され、付着
  • 潤滑不足によるもの
損傷写真

損傷写真

変色
損傷状態温度上昇や潤滑剤との反応などによって、軌道輪、転動体、保持器が着色すること。
原因
  • 潤滑不良
  • 潤滑剤との反応による油焼け
  • 過負荷による温度上昇
対策
  • 潤滑剤、潤滑方法の改善
損傷例
  • アンギュラ玉軸受の内輪
  • 軌道面に生じた青紫色の変色
  • 潤滑不良による発熱が原因
損傷写真

損傷写真

かじり
損傷状態かじりとは、滑り面などに生じる部分的な微少焼付きの集成によっておこる表面損傷。
軌道面、転動面の円周方向の線状の傷。
ころ端面のサイクロイド錠の傷。ころ端面に接するつば面に生じる傷。
原因
  • 過大荷重、過大予圧
  • 潤滑不良
  • 異物のかみ込み
  • 内輪/外輪の傾き、軸のたわみ
  • 軸/ハウジングの精度不良
対策
  • 荷重の大きさの確認
  • 予圧の適正化
  • 潤滑剤、潤滑方法の改善
  • 軸/ハウジングの精度確認
損傷例
  • スラスト円すいころ軸受の内輪
  • 内輪つば面に生じたかじり
  • 摩耗粉混入、過大荷重による油膜切れが原因
損傷写真

損傷写真

組込み傷
損傷状態取付け、取外しなど取扱い時に軌道面および転動面に付いた軸方向の線傷。
原因
  • 取付け、取外し時の内輪/外輪の傾き
  • 取付け、取外し時の衝撃荷重
対策
  • 適切な治工具の使用
  • プレス機の使用による衝撃荷重の防止
  • 取付け時、相互間の芯合わせ
損傷例
  • 円筒ころ軸受の内輪
  • 軌道面に生じた軸方向の線傷
  • 取付け時の内輪、外輪の傾きに よるもの
損傷写真

損傷写真