7. はめあいとすきま

はめあい選定が不適切であれば、軸受損傷としてクリープ、すきま選定が不適切であれば、軸受損傷として焼付きが発生しやすくなります。

はめあい

はめあいとは、軸受内輪内径と軸径の関係、または軸受外輪外径とハウジング穴径のように、互いの はまり合う軸と穴の寸法や公差を設定し、軸と穴の関係を定めることです。
機械加工時のバラツキを公差とすると、はめあいは下記のように分類されます。

はめあい

はめあいの重要性

産業用モータのような、内輪回転荷重 (内輪:しまりばめ、外輪:すきまばめ)にて、軸と内輪のはめあいが負荷荷重、はめあい面粗さ、運転中の温度等によるはめあいの減少によって、はめあい面に すきまが生じると、フレッチング(※)やクリープ(次頁参照)が発生しやすくなります。
そのまま使用し続けると、はめあい部の摩耗、振動、または異常発熱が発生します。
(※)二面間の相対的繰り返し微小滑りによって生じる摩耗

過大なしまりばめ(しめしろ量大)で軸受を軸に組込むと、 内輪材料の引張強さを超えた応力集中によって、内輪割れが発生しやすくなります。
内輪割れが生じない場合でも、組込み時の内輪膨張による軸受内部すきま減少によって、異常発熱に至る可能性があります。

使用条件を考慮した はめあいが重要です。

内輪フレッチング

内輪フレッチング

かじりを伴った内輪クリープ

かじりを伴った内輪クリープ

内輪割れ

内輪軸方向の割れ

内輪焼付き

内輪の焼付き

クリープ

転がり軸受が少ないしめしろで軸に取付けられ、内輪に荷重を受けて回転すると、内輪と軸との間で円周方向の有害な滑りを生じることがあります。

この有害な滑りは、クリープと呼ばれ、下記理由により、しめしろが減少し、発生しやすくなります。

荷重方向に対して、軌道輪が静止している(内輪または外輪静止荷重)と、軌道輪を はめあい面で移動させる力は発生しません。
一方、荷重方向に対して、軌道輪が回転していて(内輪または外輪回転荷重)、そのはめあい面にすきまがある(発生する)と、円周方向にクリープします。
内輪回転荷重のケースを例に、しめしろ減少の理由を以下に示します。

  • 内輪はラジアル荷重がかかると、負荷圏では径方向に圧縮され、全体としては少しだけ広がり、円周長さが僅かに長くなり、しめしろが減少します。
  • 軸への圧入により、表面が粗さレベルで塑性変形し、しめしろが減少します。
  • 運転中の軸受温度上昇によって、しめしろが減少します。
かじりを伴った内輪クリープの例

かじりを伴った内輪クリープの例

クリープ発生メカニズム

クリープ発生メカニズム

内輪と軸のしめしろが減少し、内輪と軸との間にすきま(c)がある場合、はめあい断面における内輪側(内輪内径)の円周長さ:π(d + c)は、軸側(軸外径)の円周長さ:πdより長くなります。

よって、軸が1回転する時、軸の回転方向と逆方向に遅れることになります。(左記アニメーション参照)

はめあい面のすきまをcとすると、1回転にπcだけ軸の回転方向と逆方向に移動する。

はめあい選定

はめあい選定

内輪回転荷重:荷重は内輪回転に追従しません(内輪負荷圏が変化します)
外輪静止荷重:荷重は外輪回転に追従します(外輪負荷圏が変化しません)
内輪静止荷重:荷重は内輪回転に追従します(外輪負荷圏が変化しません)
外輪回転荷重:荷重は外輪回転に追従しません(外輪負荷圏が変化します)

軸のはめあい

軸のはめあい
(はめあい公差域:f, g, h, j, js, k, m, n, p, r)

軸のはめあい
はめあい寸法公差
  1. 基準寸法
  2. 軸のはめあい公差域
  3. IT公差等級
    IT公差等級:ISOが規定する公差の等級であり、ITはInternational Toleranceの略です。

ハウジング穴のはめあい

ハウジング穴のはめあい
(はめあい公差域:F, G, H, J, JS, K, M, N, P)

ハウジング穴のはめあい
はめあい寸法公差
  1. 基準寸法
  2. ハウジング穴のはめあい公差域
  3. IT公差等級
    IT公差等級:ISOが規定する公差の等級であり、ITはInternational Toleranceの略です。

内部すきま

内部すきま(単に「すきま」と呼ぶこともあります)とは、軸受の内輪・外輪と転動体の間の遊び量である。すなわち、内輪、または外輪のいずれか一方を固定し、他方の軌道輪を上下、または左右に動かしたときの動き量です。

内部すきまの大小は、疲れ寿命、振動、騒音、発熱など、軸受性能に大きく影響します。

一般に、安定した測定値を得るため、軸受に規定の測定荷重を加えて、内部すきまを測定します。

そのため、測定されたすきまの値は、測定荷重による弾性変形量(接近量)分だけ、理論内部すきま(ラジアル軸受では、「幾何すきま」とも言います)の値より、わずかですが、大き目になります(「測定すきま」 と呼んで区別することがあります)。

したがって、理論内部すきまは、この弾性変形によるすきまの増加量を補正して求めることになります。ころ軸受では、この弾性変形量が小さいので、無視することができます。

ラジアル内部すきま / アキシアル内部すきま

内部すきまの減少

初期すきま


組込前の(内部)すきまです。

 

初期すきま

残留すきま

軸受組込み後のすきまです。
軸またはハウジングにしめしろを与えて、軌道輪を取付けると、軌道輪は膨張または収縮し、すきまが減少します。

残留すきま

有効すきま

運転中のすきまです。
一般的に軸よりハウジングは放熱性が高いので、内外輪間に温度差が生じ、熱膨張差によって、すきまが減少します。

有効すきま

有効すきまと軸受寿命の関係

有効すきまと軸受寿命の関係

理論的には、軸受の有効すきま(Δ)がごくわずかに負であるとき、寿命が最長となります。
そして、更に負になると、左図のように、寿命は急激に減少します。

このため、実機の各種誤差を考慮し、有効すきまが零より わずかに大きな すきまになるように軸受すきまを選定します。

軸受内部すきまは、軸受寿命にとって、非常に重要であるため、ISO/JISで小刻みに分類されています。

内部すきまの選定

ラジアル軸受の内部すきまは、C1、C2、普通(CN)、C3、C4、C5の順で、徐々に大きくなります。

普通すきま(CN)より、大きなすきま(C3、C4、C5)を選定するケース
  1. 軸のたわみが大きいなど、取付誤差を許容しなければならない場合
  2. 中空軸に蒸気が通るなど、内輪温度が高いと想定する場合
  3. 重荷重や衝撃荷重を考慮し、しめしろが大きくする場合
  4. 高速回転を考慮し、内輪しめしろを大きくする場合
  5. 内外輪ともに、しまりばめの場合
軸受内部すきま
普通すきまより、小さなすきま(C2)を選定するケース
  1. 回転時の音響や振動を厳しく抑える場合
  2. 内外輪ともに、すきまばめの場合
  3. 軸の振れを抑えるなど、組立後のすきま調整をする場合

内部すきま記号

内部すきま記号

※ 非互換性すきまは、そのレンジが小さいため、内外輪の入れ替えができません。
深溝玉軸受、円筒ころ軸受および、自動調心ころ軸受の場合、すきま記号の直後に”E”を付記することがあります。これは、より低騒音を目指したNSK独自の音響記号です。

内部すきま記号