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精機製品・技術レポート:NSKリニアガイドの玉通過振動

リニアガイドでは、循環式転がり案内による転動体(鋼球)が非負荷領域から負荷領域に入る際に、わずかながら振動を生じる(図1参照)。鋼球は、非負荷領域すなわち循環孔部分ではなんの荷重も受けないが、負荷領域すなわちリニアガイドのレールとベアリングにはさまれた領域では、剛性を左右する予圧荷重及び外部荷重を受けて弾性変形する。この鋼球の荷重変動が急激に生じると、わずかではあるがベアリング自身の姿勢を変化させる。これがリニアガイドの玉通過振動である。
図2に、固定されたレールに対し鋼球とベアリングとが移動する様子を示す。鋼球がその直径Dwだけ移動することにより次の鋼球が負荷領域に入るが、鋼球は並進と回転運動とを行なうため、そのときベアリングは2Dwだけ進むことになる。したがって、ベアリングが2Dw進むたびに、玉通過の影響を受ける。つまり玉通過振動のピッチは2Dwであることがわかる(図3)。

図1:鋼球の非負荷領域と負荷領域&図2:鋼球の移動量とベアリングの移動量&図3:玉通過振動のピッチ

玉通過振動は、鋼球の負荷状態が急激に変化することに起因するので、その変化をなだらかにすれば、この振動を小さくすることができる。そこでNSKでは、ベアリングの非負荷領域と負荷領域との連結部近傍の軌道溝に緩やかな傾斜を設ける“クラウニング加工”を施し、鋼球荷重の変動を緩和させている。
以上は、ベアリング単体についてのことである。リニアガイドはテーブル組立体として使用される場合が多く(図4)、組み付けられたとき4個のベアリングが同一面に拘束される。そのために、お互いのベアリングの干渉効果により、ベアリング単体時に比べ、玉通過振動は大幅に緩和される。実験によると、図4のような場合、玉通過振動の振幅は、単体時の1/10以下になることが確認されている。また、この干渉効果はベアリング数を増すほどよくなるので、研削盤など極力振動を嫌う機械では、1テーブル当たりのベアリング数を6個以上にするほうがよい。
以上のように、リニアガイドでは玉通過振動という問題があるが、実際には、図4のテーブル面から上方500mmの位畳で0.25μmという僅少なものである。滑り案内や非循環式転がり案内では、このような問題はないが、スティックスリップ、ころのスキュー、転動体のミクロスリップ(転動体ユニットの経時移動)などが問題となる。

図4:テーブル組立体