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NSKの鋼材清浄度評価技術(NSK-UT法)

2026年9月
コア技術研究開発センター
第一研究開発室

1. はじめに

転がり軸受(以下、軸受)は、自動車やさまざまな産業機械の回転部に使用される機械部品であり、大きな荷重を支えながら円滑な回転運動を実現しています。基本構造はシンプルで、外輪、内輪、転動体、保持器の4つの部品で構成されています(図1)。

ここで、軸受内部に加わる荷重に注目すると、転動体と内輪、転動体と外輪の、非常に狭い接触部で荷重を支えることになります。このため、接触部には非常に大きな力(接触応力)が加わります(図2)。たとえば、非常に小さな接触面で大きな荷重を支えるようなイメージです。軸受が回転すると、接触部に大きな力が繰返し作用するため、さまざまな故障が生じることがあります1)。そういった故障のなかの一形態である「はく離」とは、繰返しの力によって金属に疲労が蓄積し、軸受の表面がうろこ状にはがれてしまう現象のことです(図3)。なお、はく離は軸受の耐久性を決定する故障モードであり、ISOやJIS規格では、「はく離が生じるまでの時間」が、軸受の「寿命」と定義されています2)。そこで、NSKの材料研究領域では、「はく離を予測する」、「はく離を防止する」という点に着目した研究開発に力を入れています。

図1 転がり軸受の基本構造

図1 転がり軸受の基本構造

図2 軸受内部に加わる接触応力

図2 軸受内部に加わる接触応力

図3 はく離の外観1)

図3 はく離の外観1)

2. はく離発生の原因

はく離の特徴について少し詳しく説明します。一言ではく離といっても、さまざまな形態があることが知られています3)。その中で、「介在物起点はく離」と呼ばれる形態があります(図4)。軸受の内輪、外輪、転動体には軸受鋼が用いられていますが、鋼には、必ず「非金属介在物」(以下、介在物)と呼ばれる不純物が存在します。介在物は鋼とは性質が異なるため、軸受に力が加わるとその周囲に力が集中しやすくなります。この現象を応力集中と呼びます。応力集中が繰返し発生すると、介在物の周囲から小さなクラックが生じます。そのクラックが少しずつ広がり、最終的に軸受表面がはがれ落ちる現象が「介在物起点はく離」です。介在物は金属内部の小さな弱点となるため、介在物を起点とするはく離の起こりやすさには、鋼材中に含まれる介在物の大きさや量、すなわち鋼材清浄度が大きく影響します。ここでは、鋼材中の介在物が少ない状態を「清浄度が良好である」と表現します。一般に、清浄度が良好な鋼材で転がり軸受を製造できれば、はく離寿命を延ばすことができます。

図4 介在物起点はく離の模式図

図4 介在物起点はく離の模式図

3. はく離を抑制する手段
3.1 鋼材メーカーの製鋼プロセスにおける介在物の低減 

介在物は、鋼材の製造過程でどうしても残ってしまう不純物です。そのため、鋼材メーカーでは製鋼プロセス中で介在物の生成をできるだけ抑えるとともに、発生した介在物を溶鋼中で浮かせて取り除く、いわゆる浮上分離を行っています。こうした製鋼技術の改善により、鋼材の清浄度は年々向上しています。図5に、その指標の一つである「鋼材中の酸素量」の推移を示します。鋼材中の酸素は、酸化物系の介在物をつくる要因の一つです。設備投資や製造条件の改善などにより、近年の製鋼プロセスは高度化しており、酸素量を減らすことで鋼材清浄度は年々向上しています4)。

しかしながら、製鋼技術をどんなに向上させても、鋼材中の介在物を完全にゼロにすることは工業的に不可能です。そのため、軸受の長寿命化・高信頼性を達成するためには、鋼材清浄度を精度よく評価して、適切な鋼材を選定・使用する必要があります。

図5 NSK軸受鋼の鋼中酸素量の推移4)

図5 NSK軸受鋼の鋼中酸素量の推移4)

3.2 鋼材清浄度評価法

一般的に、鋼材清浄度の評価には、光学顕微鏡を用いて介在物を直接観察する方法が用いられます5) 。この方法では、鋼材の一部を小さく切り出し、樹脂に埋め込み、表面を鏡面研磨し、介在物を観察できる状態にします。このようなサンプルをいくつか準備し、顕微鏡で直接観察しながら介在物を探し、所定の範囲に含まれる介在物の大きさや数を評価します(図6)。この方法の利点は、介在物を直接観察するために、介在物の種類(酸化物、硫化物、窒化物など)に関する情報を得られることです。

図6 光学顕微鏡を用いた介在物の評価方法

図6 光学顕微鏡を用いた介在物の評価方法

しかし、顕微鏡を用いた従来の方法では、準備を含めて非常に多くの手間と時間がかかります。また、十数時間かけても評価できるのは鋼材のごく一部に限られます。介在物は鋼材中にまばらに存在するため、評価できる体積が小さいと稀に存在する大きな介在物を見逃す可能性があります。このように、従来の方法には鋼材全体の清浄度を把握することが難しいという課題がありました。

4. NSK独自の清浄度評価技術(NSK-UT法)

NSKは、より効率的で信頼性の高い評価方法として、独自の超音波探傷法(Ultrasonic Testing、以下NSK-UT法)を用いた鋼材清浄度評価技術を開発しました。超音波には、材質が変わる境界や内部の欠陥に当たると反射する性質があります。身近な利用例は医療分野のエコー検査で、この性質を利用して体内の様子を画像化しています。鋼材の非破壊検査分野でも活用されており、反射される超音波を読み取ることで、介在物などの欠陥を検出することができます6)。NSK-UT法は、同じ考え方を鋼材内部の微小な介在物の検出に応用しています。

NSK-UT法の概要を図7に示します。鋼材を水中に浸漬させ、超音波センサー(プローブ)を配置します。鋼材全体を調べられるように、鋼材を回転させながら、プローブを長さ方向に少しずつ動かします。プローブから発信された超音波は鋼材内部を伝播し、介在物があると反射します。この超音波の反射波(エコー信号)をプローブで受信することで、介在物を検出します。NSKは、超音波の周波数、鋼材の回転数、プローブを動かす速度、鋼材の金属組織など、さまざまな検査条件を最適化しました。その結果、50 µm程度という、非常に小さな介在物を検出できるようになりました。

図7 NSK-UT法の概要

図7 NSK-UT法の概要

超音波の反射源が本当に介在物かを確認するため、NSK-UT法で検出した位置をもとに鋼材を切断・研磨し、実際にその場所に介在物が存在することも確認しています(図8)7)。

図8 NSK-UT法で検出された介在物の一例

図8 NSK-UT法で検出された介在物の一例

5. NSK-UT法の活用例

次に、開発したNSK-UT法が実際にどのように活用されているかについて、「鋼材メーカーの選定」、「量産後の清浄度モニタリング」、「高精度はく離寿命予測法の確立とNSK軸受の基本動定格荷重の向上」の3つの取り組みを紹介します。

5.1 鋼材メーカーの選定
5.1.1 課題

新しい鋼材メーカーを選定する際の課題の一つは、鋼材清浄度です。前述したように、設備投資や製造条件の改善によって世界的に鋼材清浄度は向上しているものの、鋼材メーカーによって清浄度の安定性に差があります。したがって、軸受用途に適した清浄度の鋼材を安定して製造できる鋼材メーカーを見極めることが重要となります。

5.1.2 取り組み

まず、日本のコア技術研究開発センターだけでなく、グローバル拠点(NSKテクノロジーセンター)にNSK-UT法を展開しました。加えて、各拠点と評価条件や判定基準を共有することで、コア技術研究開発センターで管轄している日本の鋼材メーカーで製造された鋼材だけでなく、各テクノロジーセンターで管轄している海外の鋼材についても、速やかに且つ同等に評価できる体制を整えました。

その上で、新しい鋼材メーカーを評価・承認する段階ではNSK-UT法を実施し、鋼材の清浄度が、NSKが軸受用途として必要と考える社内規格を満たしているかを確認しています。図9に評価・承認時のフローを示します。

図9 新しい鋼材メーカーの評価・承認時の清浄度改善フロー

図9 新しい鋼材メーカーの評価・承認時の清浄度改善フロー

評価結果がNSK社内規格を満たさなかった場合は、検出された介在物の化学成分や形態などを調査し、鋼材メーカーとともに改善に取り組んでいます。具体的には、NSK-UT法を実施することで鋼材中のどの位置・どの深さに、どの程度の大きさの介在物が存在しているかを把握できます。そこで、検出された位置を正確に切断・研磨して介在物を確認し、その形態を把握します。その後、その介在物の成分を分析することで、どの製鋼プロセスで発生した可能性が高いかを推定できます。これらの評価結果を鋼材メーカーと共有し、清浄度がNSK社内規格を満たさなかった原因を明確にしたうえで、対策方針を検討しています。

5.1.3 効果

決定した改善対策を製造プロセスに反映した後、改めて鋼材をNSK-UT法で評価し、清浄度がNSK社内規格の範囲内に収まるよう、鋼材メーカーと協業して改善に取り組んでいます。取り組みの効果の一例として、図10に同一メーカーの鋼材の改善前から改善後までの清浄度指標の変化を示します。縦軸は清浄度指標を示しており、棒グラフが低いほど清浄度が良好なことを示します。

図10 清浄度改善前と改善後の清浄度推移

図10 清浄度改善前と改善後の清浄度推移

上記の鋼材メーカーでこれまでに製造されていた鋼材では、清浄度指標がNSK社内規格値を大きく超えていました。この指標は値が大きいほど清浄度が悪いことを示すため、改善が必要な状態でした。そこで、検出された介在物の化学成分、形態、製鋼プロセス記録を総合的に調査したところ、介在物が発生した可能性の高い製造プロセスを特定できました。その製造プロセスを見直し、改善対策を反映することで清浄度が改善され、最終的にはNSK社内規格の範囲内に収まる結果が得られました。さらに、清浄度を含む材料品質だけでなく、監査を通じて製鋼プロセスも評価することで、鋼材メーカーの実力を総合的に判断しています。この取り組みを国内外のNSKテクノロジーセンターに展開することで、一定水準を満たす良好な清浄度を持つ鋼材を製造できる適切な鋼材メーカーを安定して採用できるようになりました(図11)。

図11 NSK承認済みのグローバル鋼材メーカーの清浄度(イメージ)

図11 NSK承認済みのグローバル鋼材メーカーの清浄度(イメージ)

5.2 量産開始後の清浄度モニタリング

NSKでは、新規採用の鋼材メーカーの評価・承認時だけでなく、NSK向けの量産開始後もNSK-UT法を実施しています。抜き取り頻度は、製造プロセスや承認時の評価結果などに応じて決定しています。量産開始後の清浄度モニタリングで清浄度の悪化やその兆候が確認された場合は、評価・承認時と同様に、検出された介在物の化学成分や形態を鋼材メーカーと共有します。そのうえで、清浄度が悪化した原因や、悪化の兆候が見られた理由を明確にし、対策方針を検討しています。(図12)。また、評価・承認時と同じように製鋼プロセスの評価も継続しています。この活動サイクルを継続することで、量産開始後も一定水準を満たす良好な清浄度を持つ鋼材を安定的に調達し、信頼性の高い軸受を提供できる体制を構築しています。

図12 量産開始後の清浄度モニタリング例

図12 量産開始後の清浄度モニタリング例

5.3 高精度はく離寿命予測法の確立とNSK軸受の基本動定格荷重の向上

NSKは、NSK-UT法を材料調達だけでなく軸受製品の性能向上にも活用しています。例えば、NSK-UT法によって得られる介在物の大きさや数のデータを活用し、はく離寿命を高精度に予測する技術の開発にも取り組んできました8-9)。加えて、はく離寿命を高精度に予測する技術を用いて、基本動定格荷重Cをより実態に合った値へ見直しました。基本動定格荷重Cとは、軸受の寿命を計算する際に用いる代表的な荷重の指標です。なお、ラジアル軸受では基本動定格荷重をCrと表記します。今回の見直しにより、同じ使用条件で比較した場合、ラジアル玉軸受では寿命換算で約1.3倍、ラジアルころ軸受では約2倍の寿命向上が見込めるようになりました10-12)。高精度はく離寿命予測法の確立および基本動定格荷重の向上については、下記NSK Technical Reviewに詳しい解説がされていますので、併せてご覧ください。

6. おわりに

軸受の「介在物起点はく離」を抑制するには、鋼材中の介在物を適切に評価し、清浄度の良好な鋼材を安定して使用することが重要です。NSKはそのための評価手法としてNSK-UT法を開発し、国内外の拠点で評価できる体制を構築しています。この技術を活用し、鋼材メーカーの評価・承認、量産開始後の清浄度モニタリング、軸受寿命の高精度予測を進めることで、より長く安心して使える軸受の提供につなげていきます。

参考文献

1) 日本精工株式会社、“ベアリングドクター(軸受の損傷と対策)”
https://www.nsk.com/jp-ja/tools-resources/troubleshooting/

2) 日本産業規格 JIS B 1518:2013、“転がり軸受―動定格荷重及び定格寿命”

3) 三田村宣晶、“転がり軸受の疲れとその研究動向”、トライボロジスト、53-10 (2008)、641–646

4) 日本精工株式会社、No. 1103産業機械用転がり軸受カタログ:
https://www.nsk.com/content/dam/nsk/jp/ja/catalogs/pdf/bearings/1103.pdf

5) ASTM Standards E45-25、“Standard Test Methods for Determining the Inclusion Content of Steel”

6) ASTM Standards E588-03、“Standard practice for detection of large inclusion in bearing quality steel by the ultrasonic method”

7) 日本精工株式会社、“世界初!超音波探傷を用いた高精度の転がり軸受寿命予測”、Webマガジン「NSK Stories」
https://www.nsk.com/jp-ja/company/stories/2023/worlds-first-highly-accurate-prediction-of-rolling-bearing-life-applying-ultrasonic-testing/

8) 日本精工株式会社、“No.2601 NSK Micro-UT™を用いた転がり軸受の高精度はく離寿命予測法の確立”、NSK Technical Review
https://www.nsk.com/jp-ja/tools-resources/research-and-development/technical-review/2026/micro-ut/

9) Hiroki Komata, Sho Hashimoto, Tomoki Doshida, Hiroyuki Uchida, Koji Ueda、“Spalling Life Prediction for Rolling Bearings Using a Model with Stress Intensity Factor and Statistical Evaluation of Non-Metallic Inclusions”、Tribol. Online、19-6 (2024)、547-559

10) 日本精工株式会社、“Micro-UT法を用いた高精度寿命予測(世界初)で転がり軸受の動定格荷重アップを実現”、プレスリリース
https://www.nsk.com/jp-ja/company/news/2023/nsk-develops-world-s-first-highly-accurate-bearing-life-prediction-method-applying-ultrasonic-testing-increases-basic-dynamic-load-rating-of-nsk-rolling-bearings/

11) 日本精工株式会社、“転がり軸受の基本定格寿命(計算寿命)を延長~「Micro-UT法を用いた高精度寿命予測」を実用化し、転がり軸受の基本動定格荷重を向上~”、プレスリリース
https://www.nsk.com/jp-ja/company/news/2024/nsk-extends-basic-rating-life-estimated-life-of-rolling-bearings/

12) 日本精工株式会社、“No.2602 転がり軸受の基本定格寿命(計算寿命)を延長~「NSK Micro-UT™を用いた高精度寿命予測」を実用化し、転がり軸受の基本動定格荷重を向上~”、NSK Technical Review
https://www.nsk.com/jp-ja/tools-resources/research-and-development/technical-review/2026/cr-up/