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カラフルな色素増感太陽電池を作製可能にする技術

2026年9月
技術開発本部 コア技術研究開発センター
第二研究開発室

1. はじめに

近年、脱炭素社会の実現に向けて次世代の太陽電池技術への期待が益々高まっています。現在主流であるシリコン太陽電池や化合物系太陽電池に代わり、軽量化・低コスト化が期待できる有機系太陽電池の開発が活発化しています。

色素増感太陽電池(Dye-Sensitized Solar Cell:DSC)は、有機系太陽電池の一つであり、DSC研究で培われた材料設計やデバイス構造に関する知見は、現在注目されているペロブスカイト太陽電池の開発にも活かされております1)。色素増感太陽電池は、優れた意匠性を有する太陽電池を実現できる特徴を持ちます。しかしながら、従来は発電性能の向上を重視した開発が主流であったため、濃色かつ単色を基調としたデザインのものがほとんどでした(図1)。本稿では、軸受やグリース開発で培った材料選定・配合技術およびトライボロジー技術(摩擦や摩耗/はく離の評価技術)をエネルギー再利用分野に展開し、独自に開発した薄色電解液及びインク受容層によって、世界で初めてカラフルな色素増感太陽電池(図2)を作製可能とした技術を紹介します。

図1 従来の色素増感太陽電池2)

図1 従来の色素増感太陽電池2)

図2 NSKで試作したカラフルな色素増感太陽電池

図2 NSKで試作したカラフルな色素増感太陽電池

2. 色素増感太陽電池の概要

色素増感太陽電池は、増感色素を吸着させた多孔質酸化チタン膜を形成した透明導電膜付き透明基板と対極触媒膜を形成した透明導電膜付き透明基板との間に電解液を封入した構造を有します(図3)。このように色素増感太陽電池は、比較的シンプルな構造で構成されるため、特別な装置を用いなくても組み立てることができます。発電原理は、光を吸収した増感色素が励起状態(図4:①)となり、電子が酸化チタンに移動します(図4:②)。注入された電子は酸化チタンおよび透明導電膜を通って外部回路へ流れ、電力として利用されます(図4:③)。一方、電子を失った色素は電解液(還元体)から電子を受け取って再生(図4:④)され、電子を失った電解液(還元体)は電解液(酸化体)に変化します(図4:⑤)。電解液(酸化体)は対極触媒から電子を受け取って電解液(還元体)に再生する(図4:⑥)というサイクルで発電します3)。

紹介するNSKの色素増感太陽電池技術は、“NSKビジョン2026”の方針「あたらしい動きをつくる。」に基づき開発しました。

NSKでは、グリースや保持器の開発において、要求される機能を実現するため、化学構造に着目して油や添加剤を選定・配合し、最適な材料設計を行っています。また、軸受や周辺部材の摩耗・腐食・電食などを低減するため、材料表面に被膜や改質層を形成し、寿命・信頼性向上を狙う開発も行っています。

今回、これらを応用したカラフルな色素増感太陽電池を作製するために、

  • 増感色素本来の色を再現可能な独自の“薄色電解液“
  • 色素ペンやインクジェット印刷で酸化チタン膜を染色させるための“インク受容層”

を開発しました。

図3 色素増感太陽電池の構造(断面図)

図3 色素増感太陽電池の構造(断面図)

図4 発電原理

図4 発電原理

3. 開発技術
3.1 薄色電解液の開発

色素増感太陽電池において、電解液は増感色素が放出した電子の循環を担う重要な部材です。しかし従来広く使用されてきたヨウ素系の電解液は濃い褐色(図5)を呈するため、せっかく鮮やかな増感色素を用いても組み立てた際に増感色素本来の色調が損なわれてしまうという課題がありました。 

そこで、NSKはグリースや保持器の開発で培った、必要な機能を有する材料の選定・配合の知見を活用し、色素増感太陽電池の電解液に必要な機能である、

  • 酸化還元材料 (電子の授受により酸化体と還元体を可逆的に行き来できる材料。グリースの酸化防止剤に同等の性質を有する材料がある。)
  • 添加剤 (有機溶媒に溶解することができて電気を流す材料)
  • 有機溶媒 (酸化還元材料や添加剤を溶解することができる材料) 

をそれぞれ選定・配合し、独自の薄色電解液(図6)を開発しました。これにより増感色素本来の鮮やかな色味を持ちつつ発電できる色素増感太陽電池を実現できるようになりました。

図5 従来の電解液の外観

図5 従来の電解液の外観

図6 開発した電解液の外観

図6 開発した電解液の外観

3.2 インク受容層の開発

色素増感太陽電池では通常、酸化チタン膜を増感色素溶液に浸漬して染色します。しかし、この方法では増感色素が膜全面に均一に吸着してしまい、場所ごとに異なる増感色素を選択的に吸着させることが困難です。さらには酸化チタン膜そのままでは、色素ペンやインクジェット印刷で場所ごとに異なる増感色素を染色しようとしても酸化チタン上にインクが定着せずほとんど染色しないため、従来の色素増感太陽電池の作製方法や構造ではカラフルで複雑なデザインを表現することは困難です。そこで、NSKでは、印刷用紙などで用いられるインク受容層4)に着目し、酸化チタン膜上にインク受容層を形成することで、色素インクを局所的に保持し、酸化チタン膜に多色で自由なデザインを染色することを目指しました。しかし市販のインク受容層では、色素ペンでの筆記時にペン先との摩擦により酸化チタン膜がはがれてしまう問題があったことから、NSKはインクを保持する微粒子種を選定するとともに、軸受開発で培った摩擦・はく離挙動の評価技術を活用して微粒子同士を結着させる役割を担うバインダー樹脂の種類と配合量を最適化し、必要な発電量は維持しつつ筆記時の耐剥離性を大幅に向上できる独自のインク受容層の開発に成功しました(図7)。

図7 色素増感太陽電池パネル作製工程(従来工程と開発工程)

図7 色素増感太陽電池パネル作製工程(従来工程と開発工程)

3.3 色素ペンやインクジェット印刷で描画して作製した色素増感太陽電池の試作例、性能

開発した“薄色電解液”及び“インク受容層”を用いて、色素ペンもしくはインクジェット印刷で描画して作製した色素増感太陽電池の試作例、性能を以下に示します。

3.3.1 色素ペンで描画して作製した色素増感太陽電池

色素ペンで描画して作製した5.4 cm×5.0 cmサイズの色素増感太陽電池(有効発電面積:16.0 cm2)の試作例、性能について以下に示します。酸化チタンの染色は、色材の三原色のシアン色素、イエロー色素、マゼンタ色素の溶液をマーカーペンに充填して色素ペンを作製し、筆記で行いました。

色素ペンで描画した色素増感太陽電池(図8)は、700 lux※の白色LED光の照射条件下で、「8.90 µW (変換効率:0.26%)」が得られ、蓄電回路を介してLED点滅回路や電子オルゴールの動作を確認できました。この結果から、本太陽電池は教材や電子工作で用いられる簡易な電子回路を駆動できる発電能力を有することが分かりました。

※明るいオフィス、会議室、店舗の明るさ相当

図8 色素ペンで染色した酸化チタンで作製した色素増感太陽電池

図8 色素ペンで染色した酸化チタンで作製した色素増感太陽電池

3.3.2 インクジェット印刷で描画して作製した色素増感太陽電池

インクジェット印刷で描画して作製した15 cm角サイズの色素増感太陽電池(有効発電面積:182.3 cm2)の試作例、性能について以下に示します。酸化チタンの染色は、色材の三原色であるシアン、イエロー、マゼンタ、及び補助色としての青紫の増感色素の溶液を、産業用インクジェットプリンタで順番にインクジェット印刷で行いました(図9)。色素増感太陽電池(図10)は、700 luxの白色LED光の照射条件下で、「458.6 µW (変換効率:1.2%)」が得られました。これは室内光を利用して発電・作動する電卓などの機器に必要とされる発電量であり、低消費電力電子機器向け電源への応用が期待されます。

図9 色素染色酸化チタン外観(導電膜付基板側より見た外観写真)

図9 色素染色酸化チタン外観(導電膜付基板側より見た外観写真)

図10 インクジェット印刷で描画して作製した色素増感太陽電池パネル

図10 インクジェット印刷で描画して作製した色素増感太陽電池パネル

4. 本技術の適用例

“薄色電解液”と“インク受容層”を用いて、色素ペンによる手描きやインクジェット印刷による多色描画で色素増感太陽電池を作製できるようになりました。本技術により実現した色素ペンによる自由な描画性と、特別な装置が不要でシンプルで簡単に作製可能という特長に着目して開発したものが、ペンで描いた絵で発電できる太陽電池作製キットです。

本キットでは、

手順1.マイナス極に色素ペンで絵を描く

手順2.電解液を滴下する

手順3.プラス極を重ねる

手順4.クリップで固定する

手順5.発電確認用回路を接続して光を照射して発電を確認する

というシンプルな手順で太陽電池を作製することができます(図11)。

最大の特徴は、自分で描いた絵がそのまま太陽電池になる点であり、このような教材は2026年8月時点で世界初(NSK調べ)になります。

また、本教材は

  • 発電とアートを融合した体験型教材
  • 再生可能エネルギーを楽しく学べる
  • 科学と創造性を同時に学習できる

という教育的価値を持ち、2026年10月からペクセル・テクノロジーズ株式会社より「色素増感太陽電池実験キット PEC-TOM03」という製品名で試験販売が開始される予定です5)。将来的にはSTEAM教材として学校教育、科学館、自由研究教材などへの展開が期待されております。 

図11 ペンで描いた絵で発電できる太陽電池作製キット体験手順

図11 ペンで描いた絵で発電できる太陽電池作製キット体験手順

5. おわりに

本稿では、NSKのエネルギー再利用関連新技術として、カラフルな色素増感太陽電池の作製を可能にする技術を紹介しました。NSKでは培ってきた材料選定・配合技術およびトライボロジー技術を応用し、独自の「薄色電解液」と「インク受容層」を開発しました。これらの技術により、色素ペンでの描画やインクジェット印刷を作製工程に取り入れることを可能とし、世界で初めてカラフルな太陽電池を作製できるようになりました。

本技術で作製した色素増感太陽電池は、近年注目されているペロブスカイト太陽電池(2025年におけるモジュールでの最高変換効率:18.6%6))と比べると発電性能の面では及びません。しかし、本技術は高効率化を目的とするのではなく、デザイン性を活かした用途への適用や、創作体験を通じて再生可能エネルギーを楽しく学べる教育的価値を有しており、ペロブスカイト太陽電池とは異なる特徴と価値を提供します。今後はさらなる性能向上と実用化を進め、再生可能エネルギーの普及や理解促進への貢献を目指してまいります。

参考文献

1) “A decade of perovskite photovoltaics”, Nature Energy, Vol. 4, No. 1 (2019), pp.1.
https://www.nature.com/articles/s41560-018-0323-9

2) ペクセル・テクノロジーズ株式会社 HP
http://www.peccell.com/shikiso.html

3) 荒川裕則、“色素増感太陽電池”、シーエムシー出版

4) 三菱製紙株式会社、“インクジェット用紙/イメージング材料”
https://www.mpm.co.jp/rd/field-inkjet-imaging.html

5) ペクセル・テクノロジーズ株式会社、“新型『色素増感太陽電池キット』の試験販売受付を10/1開始“、プレスリリース
http://www.peccell.com/newsw/wp-content/uploads/2026/09/%E5%AE%9F%E9%A8%93%E3%82%AD%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9A%E3%82%AF%E3%82%BB%E3%83%AB%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9.pdf

6) Green M.A., Dunlop E.D., Yoshita M., Kopidakis N., Bothe K., Siefer G., Hao X. and Jiang J.Y., “Solar Cell Efficiency Tables (Version 66)”, Progress in Photovoltaics, Vol. 33, No. 7 (2025), pp.795-810. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/pip.3919