メインビジュアル

上海モーターショーで見えた中国自動車メーカーの躍進

多くの方は、中国で「新エネルギー自動車」(NEV)がすでに新車販売の3分の1を占めていることに驚かれるかもしれません。技術の進化、政府の強力な支援もあり、中国のカーメーカーはグローバルで存在感を高めています。

今回は、NSK中国テクノロジーセンターのリーダーに、中国の自動車産業の動向や、EV関連の最新技術、Auto Shanghai 2023 (上海モーターショー)で発表されたNSK新製品の反響などについて聞きました。

NSKブース@上海モーターショー、中国独自のNEVソリューションを提案

プロフィール

陳峰(Chen Feng)
恩斯克(中国)研究開発有限公司 副総経理
兼 自動車軸受技術センター所長

徐亜運(Xu Yayun)
恩斯克(中国)研究開発有限公司
自動車軸受技術センター 高級経理

中国NEVの躍進

自動車とは何か、どのように作るべきかなど、技術や製品へのアプローチという点では、過去100年間、日本、ヨーロッパ、アメリカが世界をリードしてきました。しかし今日、電動化とコンピューターを活用したAI化などが自動車業界の様相を変えつつあり、中国のバッテリー製造や家電製品の大手メーカーがこぞって、自らの分野でのノウハウを自動車の電動化における競争力として活用しようとしています。

中国では、バッテリー電気自動車(BEV)やプラグイン・ハイブリッド電気自動車(PHEV)を含む新エネルギー車(NEV)の販売は、政府の手厚い補助金の効果もあり大きく伸びました。こうした補助金は2022年に終了しましたが、NEVの販売は増加し続けています。2022年新車販売の26%をNEVが占め、2025年までに新車販売の20%という目標を既に達成し、2030年までに40%という目標を大幅に前倒して達成しそうな勢いです。

中国は現在、NEVを世界に輸出しており、中国の自動車メーカーは技術改良を続けながら、東南アジア、南米、欧州や日本を初めとする中国国外での販売拡大に取組んでいます。

パラダイムシフト

従来の内燃機関(ICE)車は、複雑なエンジンとトランスミッションシステムを持ち、何百もの可動部品を必要とします。対照的に、BEVのドライブトレインの可動部品はわずか数十個程度です。このため、自動車設計の重点は、機械的なものよりも電気的なもの、あるいはソフトウェアに焦点を当てたものに変化しつつあります。極端に言えば、自動車を作ることは、スマートフォンや家電製品を作ることとさほど変わらなくなるのかもしれません。

技術の変化と新領域における激しい競争に後押しされ、BEVの開発期間はICE車よりも大幅に短縮されています。ICE車のモデルチェンジには4~6年かかりますが、BEVの新モデルは2~3年サイクルで開発されています。BEVに注力する中国の自動車メーカーは、この短い開発期間を活かして、経験を積み重ねながら、市場のニーズを迅速に捉えていこうとしています。

開発のスピードアップと充実

中国のNEVメーカーの開発サイクルが短いため、NSKも、開発や生産のリードタイムを短縮させる必要があります。対応のスピードが優先されるため、自動車メーカーからはこれまでの半分以下の時間で見積もりと試作品を準備することが求められ、この要求に応えられない会社はサプライヤーの対象から外されます。

急速に進化するニーズに対応するため、私たちは中国の研究開発センターを更なる強化し、試験や分析など研究開発のスピードアップと充実を図っています。自動車メーカーにNSKエンジニアを常駐させ、お客様とのコミュニケーションを継続的に行い、フレキシブルでスピーディーな対応を心がけています。さらには、お客様に対してNSKから積極的にソリューションを提案しています。

ブランディングを重視した新モデル

これまで、中国のNEVメーカーは圧倒的な低価格を重視し、デザインや機能、内装などの機能は後回しにされてきました。ところが近年、中国のNEVメーカーは消費者が高機能な製品を求めるニーズに対して積極的に対応を始めています。多くの新モデルは、世界一流のデザイナーによる洗練された外装と、ドライバーと同乗者の両方に配慮した快適で機能的な内装を備えています。

また、中国のNEVメーカーは、部品にも高い要求を求め始めました。サプライヤーの提案をそのまま受け入れるのではなく、技術的な理解を深め、自社の設計哲学やブランドの方向性に合致する部品を要求してきています。

従来、中国のNEVメーカーは、競争の激しい厳しい市場で生き残るために価格を低く抑えなければなりませんでしたが、現在では、レベルアップしており、ICE車からシェアを奪い、今後は海外市場で地位を確立するための鍵として、コスト・パフォーマンスに目を向けています。部品メーカーにとっては、コストを上げずに性能を向上させる必要があるということを意味します。目標予算内で従来の性能を大幅に超えるソリューションを提案し実現するのは難しいことですが、拡販の機会が拡大しているともいえます。

NSKはここ数年、多くの新しいソリューションを開発・提案し、上海モーターショーでもお客様にご好評をいただきました。

NSKブース@上海モーターショー

今年の上海モーターショーの特徴

今年の上海モーターショーは大きな変化点となるものでした。今年ほど、海外のメディアが中国のモーターショーに関心を示したことはなかったでしょう。中国のNEVメーカーが高品質な新モデルを発表し、国内外から注目を集めました。

日本や欧州と違い中国市場は、道路環境など独特のニーズがあり、その巨大な市場規模と相まって、各社は中国ニーズと合致した開発を進めています。多くの場合、部品メーカーはこれまでは最初に日本やヨーロッパで新製品を発表し、その後、中国などの展示会に出展することが一般的でしたが、中国自動車産業の勢いが増す中、今年は、上海モーターショーが多くの素晴らしい技術や製品の初出展の場となりました。多くの企業が中国市場への取り組みを強化していると言えます。

NSKの提案は?

上海モーターショーでは、カーボンニュートラルやNEVの「走る」「曲がる」「止まる」の技術革新を可能にするNSKの幅広い電動化製品を提案しました。NSKは中国NEVメーカーと緊密に連携しており、新しいトレンドや技術の変化を見据えた多数の新製品を展示しました。

「走る」においては、その重要なトレンドの一つが高電圧化であり、現在のNEVモデルの多くが採用している400ボルトシステムに代わって、急速充電が可能な800ボルトシステムの採用が広がっています。高電圧化により、電食が起こりやすくなり、駆動モーターやドライブトレインのベアリングやその他の部品にダメージを与える可能性があるため、その課題の解決が期待されています。

この電食に対してNSKは、コストや使用部位、求められる機能に合わせて、電気を遮断する樹脂被膜軸受と樹脂モールド軸受、また、電気を逃がす導電ブラシの3つの新しいソリューションを市場に投入しました。

さらに「走る」の性能向上には、eAxle構造の多様化に対応できる、シンプルな構造の平行軸タイプの2速変速eAxle向けソリューション「セレクタブルワンウェイクラッチ(OWC) & 電動クラッチパック」や「EV駆動力切り離し機構(ディスコネクト)用OWC」が注目を集めました。

「曲がる」では、車重が大きいEVにも対応したEPSなどの課題を解決するシングルピニオンEPSを提案し、「止まる」には自動ブレーキの高応答性など安全技術の高度化に貢献する「電動油圧ブレーキ用ボールねじ」を紹介しました。

今後の取り組み

お客様の足元から将来までの電動化に対するNSKの様々な電動化製品群を通じて、自動車産業の新しいニーズやカーボンニュートラル実現に貢献するソリューションを提供していきます。