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未来志向の工作機械に向けたボールねじ送り系の状態安定化機構
『 NSK Feed Drive Adjuster™ 』

NSK Feed Drive Adjuster を搭載したボールねじ送り系

少子高齢化や労働人口減少、環境問題への対応など、社会が大きな変化を迎えるなか、ものづくりの分野にも大きな変革の波が押し寄せています。
直近の JIMTOF2022 ( 第31回日本国際工作機械見本市 )では、持続可能なものづくりの姿を模索する出展が数多く見られました。 NSK も、環境負荷低減への取り組みや持続可能なものづくりに貢献できる新製品や技術を数多く取り揃え出展しました。
そのなかにあって、未来技術として発表したアイテムがボールねじ送り系の状態安定化機構『 NSK Feed Drive Adjuster ( NSK フィードドライブ・アジャスター ) 』です。ものづくりに携わる方々から大きな反響があったこの NSK Feed Drive Adjuster について、開発者に取り組みの背景や目指すところを聞きました。

開発者プロフィール

新井 覚
産業機械技術総合開発センター
エグゼクティブ・チーフエンジニア

工作機械の未来にはどのような展望がありますか?

現在の社会情勢を考慮すると、これからのものづくりでは、属人的な調整スキルに頼らずに自動化と環境負荷低減をバランスよく複合化して結果を出すことが求められるようになっていくでしょう。そこでは、誰も見たことがない従来の概念を超越した考え方や方法が必要になっていきます。
そのようなブレイクスルーを支援するのが、ビッグデータの活用やデジタルツインの構築に代表されるデジタル技術です。カンやコツなどの技能に頼ってきたこれまでのやり方を、大量のデータを収集して AI やモデルベースシミュレーションを駆使することで新たな価値の創出に繋げる DX のアプローチで根本から変えなければ、ものづくりは新しい社会のなかで取り残され、急激に衰退してしまうかもしれません。
工作機械に関連する分野においても、デジタル技術の活用を通して、今まで見えてこなかったさまざまな課題やそれらに対する解決策が明確に見出されてくるのではないかと考えています。

社会情勢を踏まえたこれからのものづくり
社会情勢を踏まえた
これからのものづくり

これからのものづくりにおける NSK の役割は?

これまで NSK は、さまざまな産業とのかかわりのなかで摩擦にかかわる独自の知見を蓄積してきました。高度なデジタル技術で支援される新時代のものづくりでは、このような摩擦にかかわる知見を高いレベルの解決策に昇華させて、その説明責任を果たすことが重要であると考えています。
工作機械に結集された技術のなかには、裏付けが明確でない伝承や過去の実績に頼って適用されているものが少なくありません。デジタル技術を使いこなせばこなすほど、ますます『 なぜそれをやるのか 』、『 なぜそれでよいのか 』に対してしっかりとした説明が求められます。
当然その説明においては、軸受やボールねじなどの転がり要素部品だけではなく、工作機械全体としてのパフォーマンスを総合的に洞察できていなければなりません。お客さまの事業に対する考え方や機械設計の本質を深く理解し、『 機械 + 要素部品 』が『 1 + 1 = 2 』以上となる価値、例えば『 壊れず、止まらず、人が介在しない機械 』を生み出すために、お客さまにどこまでも寄り添い支援する役割を担っていければと考えています。

工作機械における説明責任がもたらす価値の例

NSK Feed Drive Adjusterの位置付けは?

NSK Feed Drive Adjuster と名付けた『 ボールねじ送り系の状態安定化機構 』は、前述のような背景や考え方を踏まえて、高度な自動化や環境負荷低減に対して明確に歯切れよく説明責任を果たす未来のものづくりに向けたソリューションとして開発しました。
ボールねじ送り系では、ボールねじのナットが直線運動によって発熱することでその熱がねじ軸に伝わり軸方向へ伸びてしまいます。これに対して通常は、ねじ軸を支持する軸受荷重の異常や送り系の故障を防ぐために、一方のねじ軸端部においてねじ軸の伸びを逃がす軸受支持構造が適用されます。
しかしこの構造では、ねじ軸が伸びた際に送り系の支持剛性が低下してしまうため、工作機械上での加工の精度や品質が悪化する課題がありました。
NSK Feed Drive Adjuster は、この課題に対して工作機械の設計視点に立った独自の考え方にもとづいて解決を目指したことに大きな特徴があります。

ボールねじ送り系の比較
(クリックで拡大)

本機構を取り付けたボールねじ送り系では、ねじ軸が伸びても独自の工夫で常に安定した軸方向剛性を確保しながら軸受を支持し続けることが可能です。すなわち機械が変形しても剛性は変化しないため、適切な変位計測システムを併用することで一貫した加工の精度と品質が得られるわけです。ねじ軸の伸びに伴う加工状態の変化は、従来であれば人の経験にもとづいた加工条件の調整などを要していたわけですが、その対応を完全に排除することも夢ではないかもしれません。
構成の面では、NSK Feed Drive Adjuster は外部からの動力を必要としません。加えて、古い機械へ後付けで組み込むことも可能です。
さらには、 NSK 製のボールねじとの組み合わせで高い制御性を発揮できるような工夫も施しています。単に優れた要素部品としてではなく、機械設計と要素技術の親和性を高め、これからより一層進んでいくものづくりのデジタル化と相まって前提となるハードウェアの安定性と信頼性を担保するアイテムに育てていきたいと考えています。
NSK Feed Drive Adjuster には、工作機械の本質に根差して、お客さまとともにものづくりの未来を切り開いていきたいという思いとNSKならではの考え方を反映させているのです。

工作機械ユーザへのメリットは?

工作機械ユーザへのメリットの例

NSK Feed Drive Adjuster の導入は、工作機械ユーザの方々にとっても極めて大きなメリットがあります。
例えば工作機械の熱変形や剛性の変化を安定させるために必須であった暖機運転が不要になり、電源を入れた直後から加工が始められるいわゆる『 機械のコールドスタート 』が実現できます。
またこれまでの高精度加工では当たり前だった恒温室環境下でなくても、温度が安定している場所であればその状態を恒温室に見立てて金型などの高精度加工が実現できるかもしれません。そうなれば真夏や真冬の厳しい温度条件下でも高精度な仕上げ加工が可能になり、恒温室を維持するコスト自体が削減できます。
NSK Feed Drive Adjusterは、単に工作機械の性能を上げるためのハードウェアではありません。人による調整スキルに頼らない自動化や環境負荷低減といった新しい価値を創出して、誰も見たことのないものづくりの姿を実現します。

実用化の目途は?

JIMTOF2022 では、NSK Feed Drive Adjuster に対して多くの反響をいただきました。この技術を早期に市場へ展開できるように、鋭意開発を進めていきます。