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「走る」「曲がる」「止まる」でかなえる、
安全で快適な未来のモビリティ社会

自動車の三大要素「走る(DRIVING)」「曲がる(STEERING)」「止まる(BRAKING)」の基本と今後の進化について紹介します。

プロフィール

井上 英司
自動車事業本部 自動車技術総合開発センター
新製品開発部 部長

自動車の三大要素「走る」「曲がる」「止まる」とは?

私は、自動車とは「自由に好きなところに行けるクルマ」のことだと考えています。自動車の基本は、自由に曲がって、好きなところで止まって、目的地まで安全にどこまでも走っていくことです。この3つの基本的な機能、「走る(DRIVING)」「曲がる(STEERING)」「止まる(BRAKING)」は、自動車の三大要素と呼ばれています。
「走る」は、自動車の最も基本的な機能です。エンジンやモータなどの動力源が生み出した力をタイヤに伝えて車を動かし、加速など、ドライバー(運転者)が求める動きを実現しています。
「曲がる」は、ドライバーがハンドルを回した力をタイヤに伝えて、自動車の進む方向を変える機能です。今後は自動運転の進化によって大きな変化が見込まれます。
「止まる」はドライバーがブレーキを踏んだときにタイヤに力を加えてスピードを落とし、車を停止させる機能です。安全性のさらなる向上のため、電動化のニーズがあります。
どの要素も、安全で快適な走行には必要不可欠であり、自動車には非常に高い信頼性が求められます。

「走る」を支える技術

ドライバーが求めているスピードで走るためには、エンジンとタイヤの間で力を調節する「トランスミッション(変速機)」が必要です。トランスミッションは、自転車の変速ギアのようにタイヤの回転数やトルク(負荷の大きさ)を最適化します。従来のエンジン車では、エンジンの中で燃料を燃やして、走るためのエネルギーを生み出します。自動車が止まっている状態から発進するときと、街中を走っているときでは、タイヤの回転数やトルクが異なります。そのため、ドライバーの求める走りに応じて、エンジンとタイヤの回転数やトルクの関係を調節する、つまりスムーズでしなやかな変速をする役割をトランスミッションが担っています。
「走る」の一番の課題は、エネルギーロスの削減です。1トンほどもある乗用車を走らせるには、とても多くのエネルギーを使います。CO2排出量を削減し、環境への影響を最小限にするため、少ないエネルギーで走る車が社会から求められています。そのために、これまでも多くの技術が生み出されてきました。例えば、オートマチック・トランスミッション(自動変速機、AT)は、進化が著しい機構です。30年ほど前は3速だったギア段が最近では8速や10速まで世の中に出てきており、ATの多段化が進んできました。これにより、回転数とトルクのバランスを細かく変えることができ、エンジンの力をタイヤにより効率良く伝えることができます。

エネルギーロス削減に貢献する、ハブユニット軸受

また、エネルギーロスを減らすためには、力を伝える部品の回転部分で摩擦力を減らすことが必要です。ATには、歯車が回るときの摩擦を減らすためのベアリングや、摩擦材製品など、NSKグループの製品が幅広く使われています。タイヤの部分ではハブユニット軸受が使われ、走るときにタイヤにかかる車の重量や、曲がるときにかかる横方向の力を支えています。雨水や泥、雪などさまざまな環境での耐久性と信頼性を持ち合わせ、スムーズな回転を実現しています。
一方で、どんなにエンジンの効率を良くしても、本来自動車を走らせるのに必要となる倍以上のエネルギー量を消費してしまいます。そのため、停車させているときにはエンジンを停止するアイドリングストップの機能をはじめ、エンジンを動かす機会を減らす機能が取り入れられてきました。エンジンと電気を併用し、減速時に車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収、再利用できるハイブリッド車(HEV)や、電気の力のみでモータを動かして走る電気自動車(EV)など、クルマの電動化も進んでいます。

また、エネルギーロスを減らすためには、力を伝える部品の回転部分で摩擦力を減らすことが必要です。ATには、歯車が回るときの摩擦を減らすためのベアリングや、摩擦材製品など、NSKグループの製品が幅広く使われています。タイヤの部分ではハブユニット軸受が使われ、走るときにタイヤにかかる車の重量や、曲がるときにかかる横方向の力を支えています。雨水や泥、雪などさまざまな環境での耐久性と信頼性を持ち合わせ、スムーズな回転を実現しています。

エネルギーロス削減に貢献する、ハブユニット軸受

一方で、どんなにエンジンの効率を良くしても、本来自動車を走らせるのに必要となる倍以上のエネルギー量を消費してしまいます。そのため、停車させているときにはエンジンを停止するアイドリングストップの機能をはじめ、エンジンを動かす機会を減らす機能が取り入れられてきました。エンジンと電気を併用し、減速時に車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収、再利用できるハイブリッド車(HEV)や、電気の力のみでモータを動かして走る電気自動車(EV)など、クルマの電動化も進んでいます。

EVの航続距離の課題を解決する
「シームレス 2スピード eアクスル コンセプト(Gen2)」

EV走行での課題の一つは、航続距離です。一度の充電で長い距離を走るには多くの電池を搭載する必要があり、電池を積むスペースを確保しなくてはなりません。そのため、自動車に使われるさまざまな部品の小型・軽量化が求められています。小さなモータで大きな力を出力するには、モータを高速回転させる必要があります。そのため、高速回転に耐えうるベアリングや減速機が求められています。また、電池のエネルギーをより効率的に変換し、走るためのエネルギーを減らすことも、航続可能距離を延ばすことにつながります。そこで、NSKが提案する解決策が「シームレス 2スピード eアクスル コンセプト(Gen2)」です。NSKがこれまで培ってきた複数の技術を活用し、省スペース化、モータの高速化に対応しながらも、静かでなめらかな変速をすることができ、快適な走りを実現します。

「曲がる」を支える技術

ドライバーがハンドルを回すと、ハンドルの根元から細い棒のような部分でタイヤに力が伝えられ、自動車は曲がることができます。ドライバーの曲がる意思をハンドルからタイヤへと伝える部品をステアリングといいます。

コラムタイプEPS

ステアリングも、電動化が進んだ製品の一つです。油圧式のステアリングが搭載されている車の場合、ハンドルを操作しなくても油圧を発生させるためのエネルギーを消費し続けます。一方、ステアリングを電動化した電動パワーステアリング(EPS)が搭載された車では、必要なときだけモータでアシストするので消費エネルギーを削減できます。NSKが得意とするコラムタイプのEPSでは、ハンドルの根元にトルクセンサという部品がついていて、ドライバーがどのように車を動かしたいかを読み取ってタイヤに伝えます。

自動運転につながる「ステアバイワイヤ」

また、最近では、自動運転の技術が進んでいます。自動運転社会へ変化していくなかで、ドライバーと自動車への関わり方も変化していくことが考えられます。将来的には、必要なとき以外ハンドルが収納されている車や、そもそもハンドルが無い自動車ができるかもしれません。現在の自動車のハンドルとタイヤは、ステアリング機構で機械的につながっていますが、今後は、ハンドルとタイヤが分離した構造で、曲がる方向を電気の信号で伝える仕組みが主流になっていくと予想しています。自動運転につながる製品として、NSKが培ってきたEPS技術を活用し、「ステアバイワイヤ」の開発をしています。ハンドルとタイヤが機械的に接続されていないため、路面からの不快な振動の遮断や自動運転制御による危険回避が可能になります。このように新たな価値の実現に取り組んでいます。

「止まる」を支える技術

ドライバーがブレーキペダルを踏むと車が減速して止まりますが、踏んだ力は倍力装置という部品によって増幅されて伝わります。増幅された力で発生させた油圧力がブレーキパッドを動かし、走っているタイヤの部分を挟み込んだり締め付けたりすることで、制動力が生まれて自動車が止まります。
従来のガソリン車では、倍力装置を動かすために、エンジンが動いているときに生まれる吸入負圧を利用していました。しかし、HEVではエンジンが稼働していないタイミングが生まれますし、EVではエンジンがないので、吸入負圧が利用できません。そのために、HEVやEVでは、「止まる」部品の電動化が進んでいます。
また、近年は緊急自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ、AEBS)が搭載された車が増えています。緊急自動ブレーキは2021年から段階的な義務化が予定されていて、今後なくてはならない技術です。
電動ブレーキでは、NSKが世界トップクラスのシェアを持つボールねじを組み込んだ、「電動油圧ブレーキ用ボールねじアクチュエータ」が使われています。ボールねじという部品は、動作の効率が良く、応答性が高いので、力を精密に制御することに向いており、安全なドライブ技術の高度化に貢献しています。

「止まる」でも導入が進む自動制御システム
「止まる」の電動化に貢献する
「電動油圧ブレーキ用ボールねじアクチュエータ」

サステイナブルなモビリティ社会への貢献を目指して

これまでNSKは、自動車の進化を支える多くの製品を開発してきました。今後は、「走る」「曲がる」「止まる」の電動化に貢献する製品技術を開発していきます。電動化により、必要なときに必要なだけエネルギーを投入できるので、省エネルギーが期待できます。また、電気でいろいろな制御ができるので、事故防止など安全性の向上にもつながります。電動化だけでなく、CO2排出量の削減や安全性の向上など、クルマを取り巻く環境の変化が激しいことは言うまでもありません。従来の製品の枠から踏み出して、社会のニーズや変化に対応した製品を生み出していきたいと思います。クルマを運転する人、乗る人にとっての安心や喜びを考えながら、サステイナブルなモビリティ社会に貢献できるよう取り組んでいきます。