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カーボンニュートラルに向けた
環境にやさしい材料を使った世界初のベアリング

NSKは、カーボンニュートラルな社会の実現に取り組んでいます。この一環として、2021年11月に、100%植物由来のバイオマスプラスチック保持器を搭載したエアコンファンモータ向けのベアリングを世界で初めて開発しました。今回は、この開発を担当したエンジニアに、開発の背景、それぞれの想いなどを聞きました。

プロフィール

相原 成明

コア技術研究開発センター
第二研究開発室
グループマネジャー

本多 信太郎

コア技術研究開発センター
第二研究開発室

石和田 博

産業機械技術総合センター
E&E軸受技術センター
グループマネジャー

吉間 大樹

産業機械技術総合センター
E&E軸受技術センター

植物由来のプラスチックを100%使った保持器を開発

相原NSKは、企業理念に地球環境の保全を掲げ、長年にわたり環境に貢献する技術や製品、材料の開発に取り組んでいます。主力製品であるベアリングは、摩擦を減らし、動きをスムーズにすることで、省エネルギーに貢献する環境にやさしい製品です。

ベアリングの構造

私たちの部署では、製品に使用されるプラスチックやゴムなどに関する研究を行っています。材料のCO2削減につながる取り組みを検討し、開発したのが再生可能な植物由来の資源を原料にしたバイオマスプラスチックのみで作った保持器です。ベアリングは、複数の部品で構成されおり、外輪と内輪の間に、転動体としてボールやころが入っています。その転動体を一定の間隔に配置し、ベアリングをスムーズに回転させるために保持器が使われており、保持器はベアリングの重要な構成部品です。

今回のプラスチックの材料はトウゴマ

本多従来のプラスチックの保持器には、石油由来のプラスチックを使用することが多く、石油由来のプラスチックを使う場合、地中から材料となる石油を採掘する必要があり、また製品使用後に焼却する際もCO2が排出されます。一方で、今回開発したバイオマスプラスチック保持器は、トウゴマという植物が資源となっています。植物は光合成により大気中のCO2を吸収して成長しますので、焼却時にCO2を排出したとしてもその量は植物が吸収していた量と同じになり、CO2の排出量は実質ゼロとなります。また、バイオマス資源は植物を栽培、収穫、搾油して生産されるので、この工程におけるCO2排出量は、化石を資源にした場合よりも比較的少ないです。100%バイオマスプラスチック由来の保持器の適用により、ライフサイクル全体におけるCO2排出量は、従来品(ポリアミド66を使用)に対して91%削減することができます。

バイオマスプラスチックを100%使った保持器

品質を確保しながら、環境にやさしい材料を使った保持器を開発するためには、これまで100年以上にわたりベアリングを開発、製造してきたNSKのノウハウが活かされたと思います。保持器は、実際に使う時には熱や荷重などに耐えられる強さが必要となりますが、金型に材料を流し込んで成型する時や、組み立てる時にはしなやかに変形できることも求められます。こういった保持器の材料として求められる条件に対し、NSKのコアテクノロジーの一つである材料技術を活用し、材料の特性を評価し、従来品に匹敵する耐熱性、強度を確保しながら、環境にもやさしい保持器の開発を実現しました。

相原また、今回の保持器の開発では、リアルデジタルツインも活きてきました。リアルデジタルツインとは、効率的に質の高い開発を進めるためにNSKが推進している開発手法です。リアルに起こっている現象をのぞき込む「洞察力」と、デジタルを活用してモデルを作り本質を理解する「推理力」の両方を活かして、既成概念を打ち破るようなソリューションを生み出すことです。今回の開発でも、まずはデジタル技術を使って、起こり得ることを解析、成形の可否や出来栄えを予測し、その上でデジタルで検討した条件をリアルの試作に反映することで、試作品を何個も作る必要がなく、トライ&エラーの回数を少なくすることができました。効率良く開発を行うことができ、その結果、開発期間を従来の3分の1にまで短縮できました。環境問題への関心が高まる中、スピーディーな開発により、カーボンニュートラルに貢献する開発品を世界に先駆けて発表でき、嬉しく思います。

お客様に製品の価値を納得いただけるように

本多今回の開発が環境にやさしい材料としてバイオマスプラスチックに注目が集まるきっかけになればいいなと思いました。私にとっては初の開発品で、こうして発表できたことは、嬉しくもあり、今後も頑張らなくてはという気持ちになりました(笑)。環境にやさしい材料はコストアップにつながってしまうので、今後は、環境負荷の削減とコストの削減を両立できるような開発をしたいと思います。これからも、お客様の顔を思い浮かべながら取り組んでいきます。

相原私は以前、ベアリングの構成部品として使える生分解性プラスチックの開発を行なっていました。生分解性プラスチックは、土壌中に放置することで分解されて自然に還るプラスチックです。当時は残念ながらお客様に採用いただけるまでには至りませんでした。今回の開発品は、世の中で使ってもらえるように、お客様にとっての嬉しさやコストに見合った価値があることを納得いただけるようにアピールしていきたいです。物事の結果には必ず原因がありますので、一つひとつの原因をしっかりと追究して、NSKからこの取り組みを広げられるように取り組んでいきたいと思います。

そして、バイオマスプラスチック保持器を組み込んだベアリングの開発へ

石和田今回、バイオマスプラスチックをエアコンのファンモータ向けベアリングの保持器として採用しました。エアコンの内部には、空気の流れを作るためのファンが内蔵されているのですが、そのモータにベアリングが使われています。ベアリングがファンモータのスムーズな回転をサポートすることにより、モータの使用電気量が減るので省エネにもつながります。また、エアコンは、人に近い環境で使われるため静粛性が求められ、ベアリングが静かに回転することが必須です。加えて、ベアリングの長寿命化はエアコンが長期にわたって静かに動くことにもつながるので、ベアリングの信頼性も重要となります。

バイオマスプラスチック保持器を搭載したベアリング

吉間エアコン市場の環境は、新型コロナウイルスを背景に、空気の質への関心が向上し、換気機能付きのエアコンなど、先進国での買い替えの需要が見込まれます。また、新興国の所得の増加を背景に、今後中国やインドなどでのエアコン保有台数が拡大すると見られています。エアコンは普及率が高く、電力使用量も多いため、高い環境意識が持たれている製品です。エアコン向けのベアリングにバイオマスプラスチック保持器を使うことで、従来のプラスチック保持器を搭載した製品で実現していた静粛性や高信頼性、省エネという点に加えて、材料の面からも環境にやさしいという付加価値をつけることができます。
製品の材料の変更は生産性や成型寸法精度に大きく影響するため、リアルデジタルツインの活用により、成型時に従来の生産設備、条件で問題ないかをシミュレーションした上で、試作評価で製品としての品質を検証、確認しました。その結果、本材料を使用することで、軽量で、低摩擦で、形状の自由度が高いというプラスチックの特長を維持しながら、従来品と同等の性能を持つ製品を半年という短い期間で開発することができました。

今後も需要を先読みしたベアリングの開発を

石和田バイオマスプラスチック保持器を搭載したベアリングは、環境にやさしいという新たな視点から提案をすることができる製品です。今後は、リングやグリース、シールなどベアリングの他の構成部品に関しても、環境にやさしい材料を適用できないかを検討していきたいと思います。私たちの部署では、エアコンなどの産業機械製品向けのほかにも、自動車の電動化に関係するベアリングの設計を担当しています。電動化や、通信機器の拡大など、市場の変化により、ベアリングにもより高度な技術が求められてきます。ベアリングとしての性能を向上させながら、環境への貢献にもつながる製品を世の中に生み出していきたいと思います。

吉間今回の製品に対して、お客様には、環境貢献商品ということで興味を持っていただき、一部のお客様からはサンプルのご要求もいただいております。今後も、世の中のニーズを先読みして、お客様にいち早く提案できるように、社会の動向を見ながらオールNSKで製品開発に取り組んでいきたいと思います。