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人に寄り添うロボットを実現するために
NSKが挑む、新たなロボティクスの世界

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製造現場などで使用されるAGV(無人搬送車)や人型ロボットなど、ロボティクス分野が急速に広まっている近年。NSKでは、既存の技術を組み合わせて、新たな価値を提供する試みが始まっています。開発しているのは、極めて静音性に優れた走行を可能にする「ダイレクトドライブ車輪ユニット」。開発品に込められた思いに迫ります。

プロフィール

尾崎 学士

尾崎 学士
新領域商品開発センター
技術開発第一部
グループマネージャー

近藤 圭

近藤 圭
新領域商品開発センター
技術開発第一部
主務

本郷 康貴

本郷 康貴
新領域商品開発センター
技術開発第一部

「NSKが提供できる価値は何か?」を
ロボティクス分野で突きつめた

新たに開発された「ダイレクトドライブ車輪ユニット」は、すでに多くの実績を持つNSKの高性能ダイレクトドライブモータ「メガトルクモータ™」の技術を応用しながら、モノを載せる・動かすという用途に焦点をあて、"人に寄り添うロボット"を実現する車輪ユニット。大きな特徴は、トラブルが起きた際にも人の力で容易に動かせるバックドライビリティや、新規に開発した専用ドライバで容易に走行を制御できること。そして、人に違和感を与えず、あらゆる場所で使うことのできる高い静音性。開発のきっかけはNSKのある製品でした。

尾崎 学士さん
尾崎 学士さん(新領域商品開発センター 技術開発第一部 グループマネージャー)

尾崎以前、私たちの部署では、病院などで視覚障害のある方や高齢者を案内する「ナビゲーション機能付き障害物回避先導ロボットLIGHBOT™(ライボット)」を開発しました。ロボットが人のそばで働くことを考えたとき、大きなネックになるのが音です。どんなに優れた機能をもっていても、動くたびに大きな音がすると普及させることは難しい。LIGHBOTをさまざまな場所で実際に使っていただくうちに、静音性に優れたロボットにはたくさんの可能性があると感じたのが、開発のきっかけです。

近藤 圭さん
近藤 圭さん(新領域商品開発センター 技術開発第一部 主務)

近藤大きな荷物を運ぶ工場などでは、すでにAGV(無人搬送車)が使用されていて、競争も激しくなっています。一方で、私たちの強みである静音性の高い機構は、たとえば病院や図書館、ホテルなどで人を案内したり、モノを運んだりするロボットに適しています。そう考えて、2016年から試作をはじめ、必要な機能やスペック、開発の方向性を固めていきました。

本郷私は入社して初めて参加するプロジェクトがこのダイレクトドライブ車輪ユニットでした。入社後、LIGHBOTを見て、いつかロボティクスの分野にも関わりたいと思っていたので、参加することになったときは非常に驚きました。

本郷 康貴さん
本郷 康貴さん(新領域商品開発センター 技術開発第一部)

尾崎ロボティクスの分野には大きな可能性があります。そうした状況のなかで、「NSKができることは何か?」を突きつめて取り組んだのが、このダイレクトドライブ車輪ユニットと言えます。

製品ではなく"サービス"を考えて取り組んだプロジェクト

これまで培ってきたNSKの技術を活かしながら、新たなロボティクスの市場を目指して生まれたダイレクトドライブ車輪ユニット。技術的な面だけでなく、マーケティングの面でもNSKにとっては新しい挑戦でした。

ダイレクトドライブ車輪ユニット
ダイレクトドライブ車輪ユニットが組み込まれたロボット。
走行音が静かなので、病院や図書館などでの活躍が期待される。

尾崎ダイレクトドライブ車輪ユニットはメカ部分をはじめ、制御やソフトなど、必要になる要素技術の範囲が非常に広く、イメージとしてはシステム開発に近い。開発費や人員など多くのリソースを割くだけに、どういうコンセプトで、どんな使い方をしていただけるのかというマーケティングのビジョンをしっかり描いて、上層部やメンバーにも伝えた上でプロジェクトを進める必要がありました。

近藤NSKの根幹となる事業はベアリングをはじめとする精密部品の開発・製造です。もともと、お客さまのリクエストや課題をヒアリングして、そのニーズを満たすものを作り出すのは得意なんです。しかし、ダイレクトドライブ車輪ユニットは、プロジェクトのスタート時点で特定のお客さまがいるわけではないので、使うイメージを私たちが描き、提案していかなければなりません。製品を作るというよりも、「何のための開発なのか。どんな人に、どのように使ってもらいたいのか」というサービス全体を意識して、取り組むことが非常に重要でした。開発にあたり、図書館や病院などさまざまな場所に足を運び、現場で働く人にお話を伺いましたが、「便利なロボット」という理由だけではなかなか普及しないことを痛感しました。現場で働く方や利用者はもちろん、経営者やロボットの充電を行う人など、関わる全員が幸せにならないと、サービスロボットは使い続けてもらえない。だからこそ、私たちがどんな未来を描きたいかをしっかりイメージすることが大事でした。

専用ドライバ
ダイレクトドライブ車輪
ダイレクトドライブ車輪ユニットは、走行を制御する「専用ドライバ」(左)と、
車輪やモータが格納されている左右一対の「ダイレクトドライブ車輪」で構成される。

本郷メガトルクモータを車輪として使うのは、新しい発想で、これにより、騒音源である減速機を使わずに済むため、走行音が低減されています。設計の際には、既存のメガトルクモータの構成部品をそのまま使うのではなく、新たな使い方に最適なスペック面、コスト面を検討する必要がありました。専用ドライバに実装される回路や、モータに内蔵される精度の高い動きを可能にする角度センサーなどを内製することで、車輪に適したスペックで、かつコストを抑えることに成功しました。試行錯誤を繰り返して開発しただけに、初めて動いた瞬間は本当にうれしかったですね。

近藤新しい開発には、失敗したり、悩んだり、いろいろなことがあります。でも、最初に動いた瞬間、ほんの一瞬ですけれど、その喜びが忘れられない。その瞬間を知ってしまうと、どんなに大変でも開発を続けられるようなところがあるんです。今回のプロジェクトを通して、モノづくりの楽しさ、開発設計の楽しさを、改めてメンバー全員が共有できたのも非常に良い経験になりました。

伸び続けるロボティクス分野で
豊かな暮らしに貢献したい

お客さまの幸せ、サービス全体を考えて開発に取り組み、開発を進めているダイレクトドライブ車輪ユニット。今回のプロジェクトを通じて、メンバー全体の意識も変わってきたと三人は振り返ります。

近藤あるお客さまが、ロボットを作ったものの動かすことができない、という課題を抱えていました。そこで、ダイレクトドライブ車輪ユニットを試験的に使っていただいたところ、お客様の望んでいた動きが可能に。そのとき、お客さまがとても喜んでくださる姿を見て、人に寄り添うロボットの市場はあるんだと自信がつきました。目標は、ダイレクトドライブ車輪ユニットを使った製品によって、本来の仕事に専念できたり、その場所を利用する方が便利になったりと、一人でも多くの方の豊かな暮らしに貢献すること。今、完成しているものは車輪ユニットですが、ゆくゆくは上の部分、つまりロボット全体を作ってほしいという声にも応えられればと思います。

尾崎ベアリングをはじめ、市場から求められているものを作る姿勢はこれからも変わりません。でも、今回のプロジェクトを通して、世の中が何を求めているのかを自分たちで感じて、開発する姿勢が身についてきたと思います。出展する「2019国際ロボット展」でしっかりとお客さまの声を聞いて、2020年は次のフェーズに進みたいですね。

本郷これからはお客さまのフィードバックを受けながら、ブラッシュアップしていく段階。早くダイレクトドライブ車輪ユニットを使ったロボットを見てみたいですね。

尾崎ロボティクスの分野はこれから間違いなく伸びる分野。遠くない将来、ダイレクトドライブ車輪ユニットを使ったロボットが、病院や図書館、オフィスなど、私たちの日常生活を下支えするようになってほしいというのがいちばんの願いです。この開発をきっかけに、NSKがロボティクスの新しい市場を作っていきたいと思っています。