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NSKが東京モーターショー2019にかけた思い 「あたらしい動きをつくる。」

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「OPEN FUTURE」をテーマに130万超の人を迎えた「東京モーターショー2019」

2019年10月24日から11月4日までの12日間の日程で開催された「第46回東京モーターショー2019」。「OPEN FUTURE」をテーマに、数多くの未来志向の展示を用意した今年のモーターショーには、なんと130万人を超える人が足を運びました。来場者数が100万人を突破するのは、約142万人だった2007年以来ですから、12年ぶりの記録です。

そんな大盛況なイベントということもあり、NSKの展示ブースにも数多くの人に来場いただけました。そこで、今回の展示ブースの内容を、コンセプトをとりまとめたチームの一人であるNSK社員に直接聞きました。

展示ブースのコンセプトは「あたらしい動きをつくる。」

下村洋輔さん

「今年の展示ブースのコンセプトは『あたらしい動きをつくる。』です」と話すのは、自動車事業本部自動車技術総合開発センターパワートレイン技術開発部の下村洋輔。今回のブースのコンセプト設定から展示製品の制作までを取りまとめた担当者です。

「当社は軸受やボールねじといったさまざまな機械要素部品を得意とし、自動車産業においてはトランスミッション用製品や電動パワーステアリングなどの各種自動車製品を生産・供給してきました。これまでに培った技術をもって、未来の社会に貢献していこう、この先も成長していきたいと考えています」

そのために常日頃から社会情勢などをリサーチしたところ、見えてきたことがあるそう。

「リサーチの結果、当社の技術が生かせる3つの領域が見えてきたのです。ひとつが、再生エネルギー。環境問題への対策から、今後は再生可能エネルギーが主流になるだろうという予測です。次に、そのエネルギーの利用や貯蔵というインフラ。そして自動運転。この3つの領域で、当社の技術をもって社会に貢献していこうと考えました」

そうした思いを表現するのが「あたらしい動きをつくる。」というコンセプト。この言葉は2016年に創立100周年を迎えたNSKが、次の10年を目指すために打ち立てた「NSKビジョン2026」にも使われています。

「今回の展示では、コンセプトに合わせ、社会のニーズに応えるだけでなく、自らニーズを発掘し、"世界に先駆けた動き"を生み出そうという強い意志を込めています。クルマを含めたモビリティのあり方が変貌する未来に、人とクルマの関係はどう変わるのか? 確実な答えは誰も出すことはできません。ただ、どんな未来が訪れても、私たちの技術と発想が確かな存在感を示すはず。人とクルマの理想の関係を求めて、世界に向けて『あたらしい動き』を発信したいと考え、このような展示にしました」

展示ブース
展示ブース:左奥が「クラスター・ローバー・モジュール・コンセプト」、右側手前から「走行中ワイヤレス給電」、「波力発電」

展示ブースには、中央台に「シームレス2スピードeアクスルコンセプト」「ステアバイワイヤ」「電動油圧ブレーキ用ボールねじアクチュエータ」を並べ、それを「波力発電」「走行中ワイヤレス給電」「クラスター・ローバー・モジュール・コンセプト」が囲むというレイアウト。

中央台に並べられた展示は、今最もホットな技術と言えるものばかりです。「シームレス2スピードeアクスルコンセプト」は、2速のギヤを備えたモーターユニット。搭載する車体構造に対して自由度の高いeアクスルは、車両電動化のために欠かせないアイテムと言えるでしょう。

「この製品は、歯車の代わりにオイルを介したトルク伝達を行うトラクションドライブ減速機を採用しており、従来よりも約30%もの小型軽量化を実現しているのです。2速ギヤとトラクションドライブを組み合わせることで、優れた加速力と高い最高速度だけでなく、スムーズな走りと航続距離の延長を提供することが可能になりました」

ステアバイワイヤ」式ステアリングは、ハンドルの動きを電気信号に変換してタイヤを動かすシステム。NSKでは、自動運転車両の安全性・快適性を高める技術として開発を進めています。

「今回展示したのは、トラックなどの大型車にも搭載可能な高出力の『ステアバイワイヤ』式ステアリングです。大型車にとって非常に難しい狭い場所への駐車などのシチュエーションで自動運転が可能となれば、ドライバーにかかる負担が大きく軽減されるでしょう」

電動油圧ブレーキ用ボールねじアクチュエータ」は、ブレーキを電動化させる技術。モーターの回転運動を、ボールねじを用いて直線運動に変換し、ブレーキを素早く正確に作動させます。ボールねじに高い技術を備えるNSKらしく、アクチュエータの小型・軽量化を実現。今後、実装義務化が予想される「衝突被害軽減自動ブレーキ(緊急自動ブレーキ)」にも適し、自動運転時代にひとつ上の安全・安心を提供する技術です。

「さらに注目してほしいのは、中央台の周りに展示した技術です。再生可能エネルギーを生み出し、それを伝え、そして使うという、川上から川下までの技術がそろっているところに注目してほしいですね。つまり、『波力発電』で電気を作り、『走行中ワイヤレス給電』で伝え、『クラスター・ローバー・モジュール・コンセプト』で電力を使うわけです」

波力発電」とは文字通り、海の波の力を使った発電システムで、いわゆる再生可能エネルギーとなります。「走行中ワイヤレス給電」は、路面に埋め込んだコイルから走行中のEV(電気自動車)に電力を送る技術。そして「クラスター・ローバー・モジュール・コンセプト」は、EV用の駆動モジュールで、箱型の自動運転の車両に使われることが想定されています。

ちなみにブースの端には、最近の恒例となっている「軸受組立体験コーナー」も。今年も大勢の人に楽しんでいただくことができました。

再生可能エネルギーの普及に一役買うNSKの技術

波力発電の展示

再生可能エネルギーを生み出す技術として展示ブースに出品されたのが『波力発電』。海に浮かべたブイが波の力で上下に動く力を使って発電します。

驚くのは、そのスケール。なんと、海に浮かぶブイの直径は約11m。内部にはボールねじが納められ、そのナット部が波の動きにあわせて上下に動くことで発電を行います。

ブースのコンセプトに引き続き、波力発電の展示を担当した下村に話を聞きました。

「社内で『波力発電』というキーワードを耳にしたのがきっかけです。波力発電を開発しようとしているスウェーデンのベンチャー企業から、当社に『ボールねじを作れませんか』と相談されスタートしたプロジェクトだと聞いています。計画中の発電機には、大きなボールねじが必要ですが、その製造は非常に難しく、技術的に受注できる企業が少ないということもあり、当社に問い合わせが来たのでしょう。波力発電は日本ではまだ多くの方に知られていない再生可能エネルギーの利用手段です。なので、今回の東京モーターショーで展示を行うことで、世の中に広く認知したいと思いました」

下村洋輔さん

再生可能エネルギーの新たな試みとして期待される波力発電ですが、実用化は5、6年先になるのだとか。

また新たな試みを支える発電技術の肝となるのが「ボールねじ」。波力発電では、波によって上下するブイの動きをボールねじによって回転運動に変換し、発電します。ボールねじは発電効率を高めるためにスムーズに動くことが求められ、高い耐久性も当然のように必須。今回のようなスケールのねじの製造には手間のかかる熱処理や切削が行われ、大きなねじやナットの真円度を高めるのにも高い技術力が必要とされます。

「ちなみに、今回の波力発電は新しい試みとして出品しましたが、再生可能エネルギー関連で言えば、当社の技術はすでに風力発電や太陽光発電にも使われています。風力発電では、羽が回って得られたエネルギーを効率よく発電力に変える部分に使用されていますし、太陽光発電の製造にはNSKのボールねじの精密位置決めが不可欠です。当社の技術は日本だけでなく、もちろん世界各地で使われています」

NSKの技術は再生可能エネルギー創生に大きく貢献しているのです。

NSKは、企業理念で円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全を目指すことを掲げています。自動車の普及が進む中、地球温暖化を食い止めるため、自動車の電動化が急速に進んでいます。特にCO2を排出しない電気自動車(EV)は、有力な解決手段であると言えます。しかし、そのEVの電力をどのように得るかが重要です。クリーンなEVのための電力を自然界の再生可能エネルギーで走らせるのは、人々が今後もモビリティを享受していく上で非常に重要です。また、NSKが社会課題を解決していくことは、NSKという企業自体の持続可能な成長に繋がります。さらには、国内外のベンチャー企業とのオープンイノベーションを通じて、社内外に「あたらしい動き」を起こそうとしています。

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