2019年07月25日

技術力と好奇心から生まれる メイド・イン・ジャパンのおもちゃ開発 前編:ヨーヨー王者とベアリングの出会い

技術力と好奇心から生まれる メイド・イン・ジャパンのおもちゃ開発 前編:ヨーヨー王者とベアリングの出会い

左から、ヨーヨーマスターTAKA氏、有限会社ミツミ製作所 代表取締役社長 山田賢一氏、NSKマイクロプレシジョン株式会社 代表取締役社長 石井俊和氏

今年6月、「東京おもちゃショー2019」で初披露された二重振り子「カオスメーカー」。2018年のジャイロスコープ「TOKYOジャイロ」に続き出展の目玉となったこの商品は、モノづくりに挑む3社の共同開発によるものでした。その魅力を探るべく、最新技術でおもちゃをつくることの意義、モノづくりの精神などを伺いました。

プロフィール

長谷川 貴彦

ヨーヨーマスターTAKA
株式会社そろはむ(スピンギア) 代表取締役 長谷川貴彦

ヨーヨー元世界チャンピオン、秋葉原にあるヨーヨーショップスピンギアオーナー。ヨーヨーのデザインはもちろん、スポーツ競技用投げこまやひねりこま、ジャグリング用こまのディアボロ、ハンドスピナーなど回るおもちゃ全般のプロデュースを手がけ、"回転おもちゃ研究家"を自認しています。ヨーヨー、こま、けん玉など進化した伝承遊び=スキルトイをおもちゃ業界に仕掛けるプロデューサー。メディアへの出演も多数あり。
URL:https://spingear.jp/

山田 賢一

有限会社ミツミ製作所 代表取締役社長 山田賢一

1920年創業の葛飾区の金属加工町工場。
時計職人だった曾祖父が時計部品やおもちゃの歯車といった金属加工業で開業し、現在では主に自動車、医療機器、半導体関連などの精密金属加工を手掛けています。
開業当時の曾祖父の想いと「おもちゃのまち葛飾のプライド」を胸に先端の加工技術を駆使して、現代に蘇るメイドインジャパントイを通じて、子供たちへモノづくりの大切さを伝えていければと日々努めています。
URL:https://mitsumi-seisakusyo.co.jp/

石井 俊和

NSKマイクロプレシジョン株式会社 代表取締役社長 石井俊和

ベアリングでは日本一のシェアを誇る日本精工(NSK)グループの中で、パソコン、船舶、釣具、歯科治療用医療機器向けなどの小さなサイズのベアリングを専門に開発・製造・販売しています。「クールジャパン」の具体化のために、ハンドスピナー(製品名:サターンスピナー)、ヨーヨー用ベアリング、こまのベアリング制作にも携わっています。
URL:https://www.nskmicro.co.jp/

ヨーヨーの世界チャンピオンが来た!

石井 3社が出会う契機になったのは、2008年に開催された展示会で、NSKマイクロプレシジョンのブースに、ヨーヨーで使用するベアリングを探していた長谷川さんが来てくれたことです。実はそれまで、ヨーヨーにベアリングが使われていることを知りませんでした。精密なベアリングの開発・製造には、自負がありますから「ヨーヨーの世界チャンピオンが求めているベアリングをつくりたい!」と思うようになったのです。

長谷 川ヨーヨーに用いられるベアリングは、残念ながら競技中によく壊れるのです。みんな自分の人生をかけて競技をしているのに、ベアリングの不具合で結果が出ない人がいることが残念でした。それなら自分が勝つためにも、長く回って壊れないヨーヨーのベアリングが欲しかったわけです。とはいえ手探りだったため、メーカーに声をかけては断られ続けていました。そんなときに石井さんにお会いして快く引き受けてくれたばかりか、すぐに試作機までつくってくださったのです。今ではNSKマイクロさんの精密で信頼性の高い競技用ベアリングが、世界大会の上位入賞者の間でトップシェアを誇るまでになりました。

山田 ミツミ製作所と長谷川さんの出会いは、ヨーヨーを開発していた当社からアプローチしました。まだ粗い試作機でしたが、長谷川さんに見ていただくと、それを操って次々と妙技を披露するわけです。「なんだ、この人は!」と驚くとともに、「下町の町工場から、世間を驚かすモノをつくりたい」という気持ちがわいてきました。それを伝えて、長谷川さんと共同でヨーヨーづくりに取り組むようになったのです。

長谷川 貴彦

ユーザー視点の発想が気づきになる

石井 とにかく長谷川さんはアイデアマンですね。私達のようにメーカーで設計をしていると、与えられた仕事はできても、新たに生み出すことは苦手なんです。長谷川さんの発想や企画力に、我々もうまく乗せられたところはあるでしょうね(笑)。長谷川さんには、「ベアリングを使って、おもちゃを進化させたい」という情熱があり、いつも良い刺激を受けています。

長谷川 2017年ごろ、石井さんと山田さんのそれぞれの会社でハンドスピナーをつくっていたんですよね。どちらの製品もヒットして、ブームの火付け役になりました。そのときは「回転時間が長いものが、今の主流です」とアドバイスさせてもらいました。試作の段階で2分ぐらいしか回らないものもあり、ダメ出しをするのはとてもつらかったのですが、妥協するといいモノはつくれないですから。

山田 ユーザーとしての長谷川さんの視点から、気づきをもらうことも多いです。今までミツミはBtoBの仕事しかしていなかったのですが、ハンドスピナーのおかげでBtoCの仕事ができるようになりました。エンドユーザーの声が直接聞けるようになったのは、とても意義深いことでしたね。

山田 賢一

3社でたどりついた「66%」というブランド

長谷川 そうした試行錯誤を繰り返すうちに、NSKマイクロさん、ミツミさんと何か共同開発ができるのではと考えるようになりました。オーソドックスなヨーヨーの直径は55mmですが、ミツミさんの技術力を生かせば、直径38mmのヨーヨーをつくれる。そこに他社の追随を許さないNSKマイクロさんの高精度ベアリングを使えば、「使いやすい」「持ち運びしやすい」「よく回る」と三拍子そろった、これまでにないヨーヨーになります。この発想を元に取り組みを進めたことで、部品などすべて日本製にこだわった「66%」というミニヨーヨーのブランドを立ち上げることができました。いつも試作機をつくっていただく両社に、ようやく恩返しができたかなと思います。

石井 ヨーヨーは1分間に1万回転ぐらいする上に、ランダムに縦横斜めから荷重を受けているんです。ベアリングにとっては過酷な状況で、わずか1週間でベアリングが壊れてしまうこともあります。つくる側からすると、実はとんでもない競技なんですよ(笑)。でも、それに負けない、壊れにくいベアリングをつくることは、私たちにとって大きなチャレンジでした。さらには、そこで培った技術やノウハウを、ヨーヨー以外で使用するベアリングにもフィードバックしています。

石井 俊和