転がり軸受用樹脂保持器のウエルド強度向上技術開発および適用

2026年7月
技術開発本部 コア技術研究開発センター
第二研究開発室 高分子研究グループ

1. はじめに

従来、転がり軸受の保持器は金属製であったが、軽量であり、形状の自由度が高いなどの理由から、近年は保持器の樹脂化が推進されている。樹脂保持器にはガラス繊維や炭素繊維で補強された繊維強化樹脂を用いることが多い。しかし、円環状の樹脂保持器を射出成形で製造する際に形成される樹脂の合流部(ウエルド)では、繊維が狙いである円周方向に配向せず、補強効果が発現しないため、保持器の樹脂化を推進する上で課題となっている。NSKでは射出成形用金型に樹脂溜まりと呼ばれる構造を設けることで、ウエルドの繊維を円周方向に配向させ、樹脂保持器のウエルド強度を向上させる手法を開発した。実験と解析の両面からその効果を検証・再現し、樹脂溜まりの容量および位置がウエルド強度に及ぼす影響を解析で表現する指標を定義した。さらに、この指標のしきい値を定め、ウエルド強度を向上させるための適正な樹脂溜まりの設計手法を考案した。この手法を用いて設計した樹脂保持器が、すでに一部の転がり軸受に適用されている。本稿では、本技術の開発について振り返るとともに、関連特許の出願および権利化状況、NSKの転がり軸受への適用状況について紹介する。

2. 開発した技術の概要
2.1 樹脂溜まり適用による効果の検証

図1に示す単純な円環形状の試験片(円環試験片)を用いて、樹脂溜まりの容量および位置がウエルド強度に及ぼす影響を検証した1)。X線CTを適用した繊維配向観察では、ウエルド形成位置からずれた位置に樹脂溜まりを設けることで、ウエルドの繊維がほぼ円周方向に配向することを確認した(図2)。ウエルド強度の測定により、樹脂溜まりの容量が大きい場合、樹脂溜まりをウエルド近傍に設けた場合にウエルド強度の向上効果が大きいことを確認した(図3)。一方、ウエルド形成位置に樹脂溜まりを設けた場合は、樹脂溜まりの容量に関わらず強度向上効果はほぼ得られなかった。

図1 円環形状の試験片

図1 円環形状の試験片

図2 円環試験片のウエルド周辺の繊維配向

図2 円環試験片のウエルド周辺の繊維配向

図3 円環試験片のウエルド強度測定結果

図3 円環試験片のウエルド強度測定結果

2.2 解析におけるウエルド強度評価指標の提案

前述した円環試験片のモデルを用いて、樹脂の流動挙動を樹脂流動解析で再現することに取り組んだ1)。解析においても実験結果と同様に、ウエルド形成位置からずれた位置に樹脂溜まりを設けることで、ウエルドの繊維がほぼ円周方向に配向することを確認した(図4)。解析におけるウエルド強度の評価指標として、樹脂の流動時間と流速の積で定義される樹脂移動量を導入した。樹脂移動量は、流路の特定の断面を通過した樹脂の体積をその断面積で除して得られる移動距離に相当する量である(図5)。この指標を用いて解析結果を整理したところ、樹脂溜まりの容量が大きく、位置がウエルドに近いほど、樹脂移動量が大きくなるという実験結果と良く一致する結果が得られた(図6)。解析で求めたウエルドの樹脂移動量と実験で得られたウエルド強度との関係をさらに検証し、樹脂移動量が2.7 mm以上に到達するとウエルド強度が飽和することが判明した(図7)。そこで、樹脂溜まりによるウエルド強度向上効果の有無を樹脂流動解析で判定するためのしきい値を「樹脂移動量2.7 mm」に決定した。

図4 円環試験片のウエルド周辺の繊維配向解析結果

図4 円環試験片のウエルド周辺の繊維配向解析結果

図5 樹脂移動量の概念図

図5 樹脂移動量の概念図

図6 円環試験片におけるウエルドの樹脂移動量計算結果

図6 円環試験片におけるウエルドの樹脂移動量計算結果

図7 ウエルド強度(実測)とウエルドの樹脂移動量(解析)の比較

図7 ウエルド強度(実測)とウエルドの樹脂移動量(解析)の比較

2.3 保持器形状での検証

円環試験片の検証で得た知見を冠型樹脂保持器およびもみ抜き型樹脂保持器に適用し、その効果を確認した1)。保持器に樹脂溜まりを設けた解析モデルを用いて樹脂流動解析を実施し、ウエルドの樹脂移動量を算出した。樹脂移動量が2.7 mmを超える結果を得た容量および位置の樹脂溜まりを設けた金型で冠型保持器およびもみ抜き型保持器を試作し、ウエルド強度を測定した。冠型保持器において、樹脂溜まりなしの場合のウエルド強度はウエルド以外の部位(非ウエルド)の62%に低下するが、適正な樹脂溜まりを設けることにより、非ウエルドと同程度までウエルド強度が向上する結果を得た(図8)。もみ抜き型保持器において、樹脂溜まりなしの場合のウエルド強度は非ウエルドの47%に低下するが、適正な樹脂溜まりを設けることにより、非ウエルドの85%までウエルド強度が向上する結果を得た(図9)。以上から、保持器形状に対して、樹脂流動解析を適用して容量および位置を適正化した樹脂溜まりの設置により、ウエルド強度を向上できることが示された。

※一般的なもみ抜き保持器を模して射出成形で作製した保持器を本稿では便宜的にもみ抜き型保持器と呼ぶ

図8 冠型保持器とその強度測定結果

図8 冠型保持器とその強度測定結果

図9 もみ抜き型保持器とその強度測定結果

図9 もみ抜き型保持器とその強度測定結果

3. 関連特許の出願および権利化状況

樹脂溜まりを適用してウエルド強度を向上させた保持器およびその製造方法については、特許出願を行っており、日本で28件登録済みである。海外でも権利化を進めており、米国で2件、中国で1件、英国で1件登録済みである。

4. NSKの転がり軸受への本技術の適用状況

前述したウエルド強度向上技術は、高速アンギュラ玉軸受「SURSAVE™」保持器の一部名番に適用されている。SURSAVE保持器は工作機械主軸向けの軸受に適用され、従来保持器を適用した場合と比較して軸受の振動低減および低トルクを実現している2)。特に、薄肉であるポケット底にウエルドが形成される場合は保持器の強度低下が懸念される。そこで、ポケット底にウエルドが形成される名番に対しては、前述した指標を適用して容量および位置を適正化した樹脂溜まりを設けた金型を用いて、ウエルド強度を向上させた保持器を製造することとした。本技術を適用した名番は2019年から量産を開始しており、2026年6月時点で3名番に適用されている。今後は適用名番のさらなる拡大を予定している。

ここでは、本技術を適用した名番の樹脂保持器の試作段階における強度評価事例を紹介する。この名番の保持器では、薄肉であるポケット底にウエルドが形成され、強度低下が懸念される。そこで、ポケット底のウエルド強度向上のために容量および位置を適正化した樹脂溜まりを適用して保持器を試作した。試作した樹脂保持器から、本技術によりウエルド強度向上が見込まれるポケットと、ポケット底にウエルドが形成されないポケットを切り出し、ポケット底の強度を測定した。その結果、ウエルド強度向上が見込まれるポケット(ウエルド(樹脂溜まりあり))では、ポケット底にウエルドが形成されないポケット(非ウエルド)と同等以上の強度を有することが確認された(図10)。以上の結果から、本技術を適用してウエルド強度を向上させることで、SURSAVE保持器における強度低下の懸念を解消できることを確認した。

図10 本技術を適用したSURSAVE保持器の試作段階における強度測定結

図10 本技術を適用したSURSAVE保持器の試作段階における強度測定結果

5. おわりに

本稿では、射出成形用金型に樹脂溜まりと呼ばれる構造を設けることで、転がり軸受用樹脂保持器の製造時に形成されるウエルドの繊維を円周方向に配向させウエルド強度を向上させる技術の概要、関連特許の出願および権利化状況、NSKの転がり軸受への適用状況について紹介した。今後、本技術を適用して樹脂保持器の適用範囲を拡大することで、転がり軸受の軽量化を推進し、カーボンニュートラルに貢献していく。

なお、2章で本技術の概要を紹介したが、詳細に知りたい方は参考文献1)を参照いただきたい。

参考文献

1) 日本精工株式会社、“樹脂溜まり適用による転がり軸受用樹脂保持器のウエルド強度向上”、NSK TECHNICAL JOURNAL、No.694、(2022) 91–101

2) 日本精工株式会社、“工作機械主軸軸受用超高速アンギュラ玉軸受ロバストシリーズ高機能保持器SURSAVE採用高精度P3Wクラス“、NSKカタログ、CAT. No.1288、(2019) 1–6