食用油を長持ちさせる新技術 ~食用油劣化抑制フィルター~

2026年3月
技術開発本部 コア技術研究開発センター
第二研究開発室

1. 背景と課題

食用油は、生命維持に欠かせない三大栄養素の一つである脂質を主成分とし、体の健康維持に重要な必須脂肪酸も豊富に含まれています。私たちは、揚げ物などの食事を通じて日常的に食用油を摂取しますが、高温で調理すると加熱により油の劣化が進み、食品の風味や品質が損なわれるだけでなく、これら栄養素の摂取効率も低下してしまいます。そのため、日本では食用油の品質管理に表1に示すように「酸価(Acid Value;以下、AV)」という指標が広く使われています。AVは油の劣化度を示す数値で、工場や飲食店でも管理しやすく、交換時期の判断に役立ちます。

近年、図1に示す円安や異常気象による原料不足などの影響で、食用油の価格は2020年を基準に4年間で1.4倍から1.7倍1)に上昇し、経営を圧迫する要因の一つとなっています。このため、油をできるだけ長く使い、総使用量を減らしたいという強いニーズがあります。

そこで、NSKはAVの上昇を抑える技術に着目し、潤滑油技術を応用したろ過機向け「食用油劣化抑制フィルター」(図2)を開発しました。本稿では、その概要を紹介します。

表1 各食品に対する基準値

表1 各食品に対する基準値
図1 食用油価格上昇の要因一例

図1 食用油価格上昇の要因一例

図2 開発した「食用油劣化抑制フィルター」

図2 開発した「食用油劣化抑制フィルター」

2. 開発した食用油劣化抑制フィルターの概要

本製品は、“NSKビジョン2026”の方針「あたらしい動きをつくる。」に基づき開発しました。揚げ物調理用のろ過機に取り付けるフィルターであり、食用油の寿命を延ばすことを目的としています。展示会に出展(図3)した際には、「なぜNSKがフィルターを?」と驚かれることが多いですが、この技術は、NSKが軸受開発で培った工業用潤滑油の劣化抑制技術を食用油向けに応用展開して開発した新商品です。以下にその構造と特徴を紹介します。

図3 FOOMA JAPAN 2022の出展時の様子

図3 FOOMA JAPAN 2022の出展時の様子

2.1 構造と仕組み

食用油の劣化には、光、熱、酸素、揚げ種などの因子が関与します。特に揚げ物調理では、これらが複雑かつ同時に作用し、酸化や分解が進行することで、AVが上昇する原因となる酸化劣化物が生成されます。NSKは、この酸化劣化物を取り除くことに着目し、これまでの油の酸化劣化メカニズムに関する知見と、添加剤の最適選定技術を活用することで、食品向けの安全基準を満たしながら食用油の劣化抑制に有効な添加剤を見出しました。

NSKが開発したフィルターは、立体的な網目構造を形成する繊維に、独自に選定した添加剤を付着させた構造となっています。食用油がフィルターを通過する際、繊維による網目構造で揚げカスなどの異物を除去し、添加剤がAV上昇の原因となる酸化劣化物を補足することで、AVの上昇を抑制します(図4)。揚げカスの除去と同時に食用油の劣化を抑制するフィルターの実用化は、2025年9月時点で世界初(NSK調べ)になります。

図4 フィルターの電子顕微鏡写真
図4 フィルター使用時の食用油劣化抑制作用イメージ

図4 フィルターの電子顕微鏡写真(左)とフィルター使用時の食用油劣化抑制作用イメージ(右)

2.2 特徴
2.2.1 性能:食用油の寿命を最大3割延長

加熱試験で使用した試験機の模式図を図5に示します。本試験装置は、油槽(フライヤー)、食用油を循環させるポンプ、そして試験フィルターをセットするホルダーで構成されています。

この装置を用い、菜種油を180℃に加熱し、常時循環ろ過を行う試験を96時間継続しました。比較評価として、市販フィルターを使用し、96時間経過後にAVを測定した結果、本製品は市販フィルターに比べてAV上昇を約3割抑制できました(図6)。これは、従来では3日に1回の油交換が必要だったところ、4日に1回に減らせることを意味します。

図5 加熱試験機の模式図

図5 加熱試験機の模式図

図6 96時間循環ろ過試験後のAV

図6 96時間循環ろ過試験後のAV

2.2.2 ろ過作業負担の軽減

従来、食用油の劣化物を除去する方法の一例として、ろ過助剤と呼ばれる粉体を使用する手法があります。しかし、この方法では、油を吸って重量が増した粉体の回収に伴う作業負担や、飛散した粉体を吸い込むことによる健康リスクが課題となっています。本製品は、油劣化抑制機能を持つ添加剤をフィルター内部に付着させる構造を採用することで、従来の粉体使用時に発生する健康リスクを軽減します。

2.2.3 安全性の高い材料組成

本技術の中核となる添加剤は、安全性が確認された食品添加物として認可されているものを採用しています。さらに、フィルター本体は、厚生労働省が定める食品・添加物等の規格基準に基づく材質・溶出試験を参考にして設定した自主基準をクリアしており、安心してお使いいただけます。

3. 用途と導入効果

本製品は、揚げ物調理時に油をろ過する機器に取り付けるフィルターであり、既存フィルターからの置き換えが可能です。食用油の寿命を延ばすことで、食品加工メーカー(図7)や飲食店(図8)における食用油の購入コスト削減に貢献できます。また、使用済み食用油の廃棄量を減らすことで、環境保全にも寄与します。

図7 フィルター使用例:食品加工メーカー工場(左)、食用油ろ過機(右)

図7 フィルター使用例:食品加工メーカー工場(左)、食用油ろ過機(右)

図8 フィルター使用例:飲食店の厨房用電気フライヤー(左)、食用油ろ過機(右)

図8 フィルター使用例:飲食店の厨房用電気フライヤー(左)、食用油ろ過機(右)

4. 受賞実績

本製品は、第22回(2025年)「“超”モノづくり部品大賞」(https://award.cho-monodzukuri.jp/)で、日本力(にっぽんぶらんど)賞を受賞しました7)。この賞は、日本の産業・社会の発展に貢献することを目的に2003年に創設され、2008年から現在の名称「“超”モノづくり部品大賞」に変更されました。モノづくり産業のグローバル競争力の源泉である部品・素材に焦点を当て、「機械・ロボット」「電気・電子」「モビリティー関連」「環境・資源・エネルギー関連」「健康福祉・バイオ・医療機器」「生活・社会課題ソリューション関連」の6分野で優れた製品を表彰しています。

日本力(にっぽんぶらんど)賞は、「日本のモノづくりの強み・良さが十分に発揮された部品・素材」に贈られる特別賞です。今回の受賞は、食用品を含む多様な産業資源の高騰というグローバルトレンドを踏まえ、廃油削減・作業負担軽減・コスト削減という一石三鳥の課題解決を実現した点が高く評価されたものです。

5. 今後の展望

本稿では、新開発の食用油劣化抑制フィルターの概要や特徴を紹介しました。本製品は、食用油の劣化を抑えることで寿命を延ばし、食品の風味や質を保つ効果があります。さらに、人手不足の解消や業務効率化にも貢献できものと考えています。

今後は、ユーザーのさらなる要求に応えるため、性能向上に取り組むとともに、ろ過機を持たないユーザーへの提案など、ビジネスの拡大を目指していきたいと考えています。

参考文献

1) 総務省、“調査品目の年平均価格”、2024年小売物価統計調査、食用油(2024)、政府統計の総合窓口:https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003420453

2) 厚生労働省、“食品衛生法”

3) 農林水産省、“日本農林規格”

4) 厚生労働省、“菓子指導要領”

5) 農林水産省、“地域食品認証基準”

6) 厚生労働省、“弁当及びそうざいの衛生規範”

7) 日刊工業新聞、2025年12月11日、第2部、p.1、p.6:https://d3ukgu32nhw07o.cloudfront.net/space_pdf/pdf_file693917fa863f8.pdf