電動車向け小型軽量化深溝玉軸受

2026年1月
自動車技術総合開発センター
パワートレイン軸受技術部

1. はじめに

地球温暖化などの環境問題を背景として、ハイブリッド車を含む電動車の普及が進んでいる。環境負荷が小さい電動車の普及に向けた重要課題の一つが航続距離の延長である。燃費・電費の向上のため、電動車駆動ユニットには小型軽量化/高効率化が要求されている。駆動ユニットの小型化は、車室空間や車体デザインの自由度向上にもつながる。

駆動ユニットの小型軽量化のためにはモータの小型化が有効である。モータの出力はトルクと回転数の積で決まるため、出力を維持したまま小型化するためにはモータの回転数を高めることが必要である。よって、電動車駆動モータに用いられる深溝玉軸受には、小型化に加えて高速化や、さらには高効率化が求められている。

電動車駆動ユニットのうち、EVに搭載されるeAxleの減速機は一般的に平行3軸構造と2軸/同軸構造に大別される(図1)。現在は構造が単純な平行3軸構造が主流であるが、近年、ユニットの高さや車両前後方向の小型化に有利な2軸/同軸構造の開発が増加傾向にある。2軸/同軸構造eAxleでは部品が同軸上に配置されるため、軸受には小型化や高速化、高効率化に加え、軸受幅を短縮する「幅狭化」も要求される。NSKではこれらの要求に対応した「電動車向け小型軽量化深溝玉軸受」(図2)を開発した。

図1 eAxle減速機の構造

図1 eAxle減速機の構造

図2 小型軽量化深溝玉軸受

2. 電動車向け小型軽量化深溝玉軸受の特長

電動車向け小型軽量化深溝玉軸受では、新開発の「幅狭組合せ樹脂保持器」を採用し、他の既存技術と組み合わせることで大幅な小型軽量化を達成した(従来品に対して外径10%、幅38%、重量51%、トルク25%減)(図3)。以下に電動車向け小型軽量化深溝玉軸受に採用した技術を説明する。

図3 電動車向け小型軽量化深溝玉軸受の特長

図3 電動車向け小型軽量化深溝玉軸受の特長

2.1 幅狭組合せ樹脂保持器

高速回転用の深溝玉軸受では、一般的に樹脂保持器が採用される。従来の冠形樹脂保持器(図4)は軸受の片側から組み付ける構造で、軸受を高速回転させた際に変形しやすく、許容回転数を超えるとポケット底で破断したり、外輪と接触して破損する。破損を防ぐためにはポケット底厚を増やす必要があり、それに伴って軸受幅も増加し、駆動ユニットの軸長も必要となる。

こうした課題を解決すべく、NSKでは肉厚を増やさずに変形を抑制した「幅狭組合せ樹脂保持器」を開発した(図5)。幅狭組合せ樹脂保持器は軸受の両側から一対の保持器を組み付ける構造で、両側を円環形状とすることで保持器の剛性を確保している。そのため冠形樹脂保持器よりポケット底の肉厚を小さくでき、軸受の幅狭化、駆動ユニットの軸長短縮が可能になった。

図4 従来の冠形樹脂保持器の課題

図4 従来の冠形樹脂保持器の課題

図5 幅狭組合せ樹脂保持器

図5 幅狭組合せ樹脂保持器

2.2 小型軽量化に伴う静的強度低下への解決策

玉軸受の小型軽量化に伴う課題として、衝撃荷重に対する強度低下が挙げられる。

玉軸受に軸方向の衝撃荷重が入ると、鋼球が軌道面の溝肩部に乗り上げて表面に圧痕が発生する。この圧痕が外内輪軌道面の表面疲労を進行させ、軸受寿命を低下させる。これに対し小型軽量化深溝玉軸受では、軌道面の溝肩形状を滑らかな曲面にすることで、鋼球が溝肩部に乗り上げたときの圧痕の発生を防止した(図6)。

また、深溝玉軸受に強い衝撃荷重が入ると、鋼球によって外内輪軌道面に圧痕が発生し(図7)、軸受の音響性能や寿命を低下させる。小型軽量化深溝玉軸受では、評価試験により外内輪軌道面の圧痕が及ぼす軸受の音響や寿命への影響を見極め、衝撃荷重に対する軸受強度設計の精度向上を図った。

図6 溝肩特殊形状による乗り上げ圧痕防止

図6 溝肩特殊形状による乗り上げ圧痕防止

図7 衝撃荷重による軌道面の圧痕

図7 衝撃荷重による軌道面の圧痕

2.3 小型軽量化に伴う軸受寿命低下への解決策

玉軸受の小型軽量化に伴うもう一つの課題として、軸受寿命の低下が挙げられる。

これまでの知見から、使用による鋼球の表面粗さの悪化が外内輪軌道面の表面疲労寿命を低下させることがわかっており、これに対してNSKは独自に開発した特殊熱処理技術であるEQTF™を鋼球に施し、鋼球の表面粗さの悪化を抑制することで玉軸受の長寿命化を図っている(図8)。電動車向け小型軽量化深溝玉軸受では、EQTF™鋼球を盛り込むことによって小型軽量化に伴う寿命低下を抑制した。

また、深溝玉軸受の負荷能力を表す基本動定格荷重Crは、軌道溝半径を含む軸受の諸寸法から算出されるもので、Crが大きいほど軸受は長寿命となる。電動車向け小型軽量化深溝玉軸受では、鋼球と軌道輪の実際の接触状態を考慮したCr算出方法を用いることで軸受寿命の予測精度向上を図った。

図8 EQTF™鋼球の表面粗さの変化

図8 EQTF™鋼球の表面粗さの変化

2.4 電動車向け小型軽量化深溝玉軸受の高速回転性能

電動車向け小型軽量化深溝玉軸受は、幅狭組合せ樹脂保持器の開発と既存技術の組合せによって深溝玉軸受の大幅な小型軽量化/低フリクション化を実現すると同時に、樹脂保持器の剛性アップにより許容回転数も大幅に向上させた。dmn値214万相当(従来仕様はmax.180万)での高速回転試験においても、保持器破損や軸受内部に焼き付きを生じることなく完了した(図9)。

図9 高速回転試験(dmn214万)後の軸受の状態

図9 高速回転試験(dmn214万)後の軸受の状態

3. 電動車向け小型軽量化軸受の効果

小型軽量化深溝玉軸受を電動車駆動ユニットに適用することで、ユニットの小型軽量化および軸長短縮と、それによる電費向上が可能となる。小型軽量化深溝玉軸受を同軸構造eAxle(図10)のモータ用軸受に適用した場合、eAxleの軸長16 mm短縮、重量2.2 kgの軽量化が可能であり、車両の電費(1 km走行するために必要な電力量)は0.09%向上する。電費向上により960円分※1のバッテリーを削減することができ、航続距離を370 m※2延長することができる。さらに、小型軽量化深溝玉軸受を出力軸にも適用すると、軸長32 mm短縮、重量4.4 kgの低減によって電費は0.14%の向上し、1,665円分※1のバッテリー削減と、航続距離590 m※2の延長が可能となる。これは小型軽量化深溝玉軸受を同軸構造eAxleに適用した一例であり、本開発品は平行3軸構造や折り返し2軸構造eAxle、ハイブリッド車駆動ユニット(DHT)など、さまざまな電動車駆動ユニットに適用可能である。

 

※1:バッテリー価格を13,500[円/kWh]と仮定

※2:1回の充電で走行できる距離

図10 同軸構造eAxleへの小型軽量化深溝玉軸受適用部位

図10 同軸構造eAxleへの小型軽量化深溝玉軸受適用部位

4. おわりに

電動車向け小型軽量化深溝玉軸受は、新開発の幅狭組合せ樹脂保持器と既存技術の組合せによって従来の深溝玉軸受に対して大幅な小型軽量化/低フリクション化/高速化を実現した。本軸受はeAxleやDHTだけでなく、従来のトランスミッションや、自動車以外のアプリケーションへの適用も可能で、様々な場面で軸受および搭載されるユニットの小型軽量化、高効率化に貢献できるものと考える。