工作機械向け低フリクションボールねじ「MT-Frix™」
2026年3月
産業機械技術総合開発センター
直動製品技術部 BS技術室
1. はじめに
ボールねじは工作機械をはじめとして、半導体製造装置や射出成形機、搬送装置や自動車部品など、今日では多岐に渡って利用されている。こういった用途の広がりに応じて、ボールねじに求められる機能は多様化、高度化してきており、そういった要求に応えるため、NSKは日々研究・開発を行っている。そこで本稿では、工作機械向け低フリクションボールねじ「MT-Frix™」について紹介する。
2. ボールねじの発熱について
ボールねじは転がり要素部品として高い効率と剛性を有しており、また高いリード精度により、モーターの回転を高精度に直線運動に変換できるため、工作機械における送り系の基幹部品として広く採用されている。一方で回転運動を直線運動に変換する際、ボールねじにも少なからずエネルギー損失が発生しており、その大半はボールが溝を転がる際に発生する摩擦損失であることが分かっている。この摩擦損失は発熱としてボールねじに影響を与え、具体的には1 mあたり1℃の温度上昇により、約12 μm伸長することで、ボールねじのリード精度が悪化し、工作機械の位置決め精度に悪影響を与える。またボールねじが発熱すると、機台やその周辺部品に熱が伝わり、変形させてしまうことで、加工精度悪化の一因ともなる。そのため、特にボールねじの発熱が精度悪化の要因となるような用途・設備の場合、強制冷却によるボールねじの温度上昇抑制対策がたびたび行われる。ボールねじの強制冷却には、軸心に冷却液を流すことでボールねじの温度上昇を抑制する軸心冷却と、ナットに冷却液路を形成し、そこに冷却液を流すことで温度上昇を抑制するナット冷却があり、いずれの冷却方法においても、ボールねじの発熱対策としては非常に有効である。一方、強制冷却を行う際には、その配管経路の整備や、冷却液を循環させる専用装置が必要であることから、コストやメンテナンス性の観点から課題があった。
そこでNSKでは、これまで培った解析技術を用いて、2点接触予圧において、ボールが転がる際の摩擦損失を詳細に解析することで、従来に比べてボールが転がる際の摩擦損失を大幅に低減し、ボールねじの発熱低減に貢献する、低フリクションボールねじMT-Frix™を開発した。
3. MT-Frix™の特徴
MT-Frix™の特徴の1つ目は、剛性に対する予圧動トルクの低減である。ここで予圧動トルクとは、予圧を付与した際に発生する、ボールねじを駆動させるための動摩擦トルクであり、ボールねじは剛性の向上やバックラッシュの抑制のために予圧を付与するが、大きな予圧を付与すればするほど、剛性が向上するとともに予圧動トルクも増大する。そして予圧動トルクが増大することで発熱も増大するため、過度に予圧を大きくすることはボールねじの発熱に悪影響を与えることが知られている。そこでMT-Frix™は、従来仕様と剛性を同等としたときに、予圧動トルクを大幅に低減したり、あるいは予圧動トルクを従来同等とした際に、剛性を向上させることが可能となる。ここで従来仕様とMT-Frix™について、剛性と予圧動トルクの関係の理論値と実験値の結果を図1に示す。これより、MT-Frix™は従来仕様に比べて、剛性を同等としたときの予圧動トルクがおおよそ半減していることが分かる。つまり、ボールねじの剛性を向上させるために予圧を付加するが、それによって発生する摩擦損失を従来に比べて大幅に低減することが可能となっている。また同様に図1より、予圧動トルクを従来同等とした際は、剛性を25%程度向上させることが可能となる。
図1 従来仕様とMT-Frix™における剛性と予圧動トルクの関係
MT-Frix™の特徴の2つ目は、発熱の低減である。ここで、剛性同等とした従来仕様とMT-Frix™について、水平姿勢にて往復運転を行った際のナット外径温度の時系列変化結果を図2に示す。これより、MT-Frix™は従来仕様に比べて発熱量が約40%低減していることが分かる。つまり、従来仕様と同等剛性でありながら、ボールねじの摩擦損失および、それによる発熱を大幅に低減可能となっている。また比較試験時のボールねじを赤外線サーモグラフィーカメラで撮影したものを図3に示す。これより、従来仕様はMT-Frix™に比べて明らかに発熱が大きく、またナットで固定されたテーブルに、ボールねじから伝熱されていることが分かる。つまりMT-Frix™は、軸の伸長によるリード精度低下の低減に加えて、テーブルの熱変形の低減にも効果が期待できる。
図2 従来仕様とMT-Frix™における発熱試験結果
図3 従来仕様とMT-Frix™における発熱試験の赤外線サーモグラフィーカメラ画像
実際の工作機械で使われるボールねじにおいては、予圧動トルクに加えて、荷重の負荷によって発生する動摩擦トルクも発熱の原因となる。それらを評価するため、縦型マシニングセンタにおける主軸の上下軸(垂直軸)を模して、図4のような1軸テーブルを垂直に配置し、テーブルに錘を固定することで、ボールねじに軸方向荷重が負荷された状態で往復運転を行い、そのときのボールねじの発熱を評価した。従来仕様とMT-Frix™について、剛性を同等としたときのナット外径温度の時系列変化結果を図5に示す。ここで軸方向荷重を決定するための錘は、定格寿命が工作機械向けボールねじにおいて一般的な目安となる、20,000時間になるような荷重を設定した。これより、MT-Frix™は従来仕様に比べて、発熱量が約33%低減しており、工作機械における垂直軸のような、荷重による動摩擦トルクも常に発生するような状態においても、発熱低減効果があることを確認した。以上より、垂直軸で使用した場合における主軸ユニットなどの自重による負荷がかかった場合や、水平軸で使用する際、加減速が多く、テーブルなどに発生する慣性力によって、ボールねじに軸方向荷重が高頻度に負荷されるような使用条件においても、発熱低減効果が期待できる。
図4 垂直軸試験機概要
図5 従来仕様とMT-Frix™における垂直軸での発熱試験結果
4. おわりに
工作機械向け低フリクションボールねじ「MT-Frix™」は、ナット剛性を従来同等に維持しながら摩擦とそれによる発熱を大幅に低減している。これにより、工作機械の発熱による精度悪化を低減し、加工精度の維持・向上に貢献する。