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表面応力に着目したマイクロピッチング損傷メカニズムの研究

2026年10月
コア技術研究開発センター
第一研究開発室

1. はじめに

転がり軸受は、自動車、産業機械、鉄道車両、風力発電設備をはじめとする多くの回転機械に広く使用されている。その主な役割は、荷重を支持しながら低摩擦でスムーズな回転運動を実現することである。近年、多くの分野において、エネルギー効率の高い機械システムに対する要求が高まっている。これに対して、低粘度潤滑油を用いることで摩擦損失を低減し、エネルギー消費の削減に寄与することができる。しかしながら低粘度化は、転がり軸受の接触面間に形成される潤滑油膜を薄くする効果があり、転動体と軌道面が潤滑油膜によって完全に分離されない低Λ条件下での運転は、軸受接触面における表面損傷のリスクを高める要因となっている。

転がり軸受において観察される損傷形態の中でも、転がり接触疲労(Rolling Contact Fatigue: RCF)は最も一般的な損傷メカニズムの一つである。図1に示すように、RCFは一般に内部起点型疲労と表面起点型疲労に分類される1、2)。内部起点型疲労は主として非金属介在物や白色組織を起点とする一方、表面起点型疲労には圧痕起点疲労やマイクロピッチングが含まれる。本稿では、低粘度油の使用などに起因する稀薄な潤滑条件下で発生する表面起点型疲労の一種であるマイクロピッチングに焦点を当てる3、4)。

図1 転がり軸受における転がり接触疲労(RCF)損傷の分類

図1 転がり軸受における転がり接触疲労(RCF)損傷の分類1、2)

2. マイクロピッチング損傷における表面応力の役割の解明

Λ値は、転がり軸受の潤滑状態を評価するための重要な指標として長年用いられてきた。一般に、Λ値が低いほど潤滑油膜は薄くなり、表面損傷が発生する可能性は高くなる。マイクロピッチングは、このような油膜形成が不十分な潤滑条件下において、微視的な疲労き裂が発生・進展することによって軌道面上に多数形成される微小なはく離である。これまでの研究により、マイクロピッチングの発生は潤滑油膜厚さだけでなく、表面粗さに強く影響されることが示されている5-7)。低Λ条件下では、潤滑油膜が接触面を完全に分離するための十分な油膜厚さを確保できず、微小な表面の突起部同士が直接接触するようになる。このような局所的な接触は、表面近傍に応力集中を生じさせると考えられる。このことから、表面応力はマイクロピッチングの発生および進展に深く関与していると考えられる8、9)。

このような背景から、表面粗さが接触表面およびその近傍で発生する応力に与える影響、さらにそれらの応力が塑性変形、き裂発生、およびき裂進展にどのように関与するのかを理解することが重要である。

図2に、マイクロピッチング発生メカニズムの仮説を示す。潤滑条件および表面粗さは表面突起部同士の相互作用に影響を与え、その結果として接触表面に局所的な応力が発生する8)。これらの応力は疲労損傷を促進し、最終的にマイクロピッチングの形成につながる。こうした考え方を検証するため、表面粗さ、応力発生および疲労損傷の関係について、実験および数値解析の両面から検討を行った。以降の章では、その結果として得られた知見を示し、マイクロピッチング発生メカニズムにおける表面応力の役割について説明する。

図2 低Λ条件下におけるマイクロピッチング形成プロセス

図2 低Λ条件下におけるマイクロピッチング形成プロセス

3. 低Λ条件下における表面損傷特性

潤滑条件および表面粗さが表面損傷に及ぼす影響を調査するため、図3(a)に示すスラスト軸受試験機を用いて転がり接触疲労(RCF)試験を実施した10)。潤滑油粘度、回転速度および転動体(ボール)表面粗さを変化させることで、広範囲のΛ値を実現し、接触条件が表面損傷に及ぼす影響を体系的に評価した。試験の結果、軌道面の損傷形態は、摩耗(Wear)、マイクロピッチング(Micro-pitting)、および表面損傷なし(No surface damage)の3種類に分類できた10)。

図3(b)に、ボール表面粗さとΛ値をパラメータとして整理した表面損傷マップを示す。この図は、潤滑条件と表面粗さの両方が、最終的な損傷形態に影響を及ぼすことを示している10)。極めて低いΛ値領域では、表面粗さにかかわらず摩耗(●)が支配的な損傷形態であった。この条件では、潤滑油膜が接触面を十分に分離できず、金属同士の直接接触が広範囲に発生するため、摩耗が進行したと考えられる。Λ値の増加に伴い摩耗の発生頻度は低下し、損傷形態は徐々にマイクロピッチング(◆)へと移行した。

図3 低Λ条件下における表面損傷の実験的評価 (a) スラスト軸受RCF試験機の模式図

(a) スラスト軸受RCF試験機の模式図

図3 低Λ条件下における表面損傷の実験的評価 (b) Λ値とボール表面粗さの関係に基づく表面損傷分布

(b) Λ値とボール表面粗さの関係に基づく表面損傷分布

図3 低Λ条件下における表面損傷の実験的評価10)

また、同じΛ値であっても損傷形態が異なる場合があることが分かる。ボール表面が粗い軸受では、同程度のΛ値条件で運転されたボール表面の粗さの良い軸受と比較して、マイクロピッチングが発生する傾向が高かった。これらの結果からは、摩耗とマイクロピッチングが競合する損傷メカニズムであることが示唆される。すなわち、直接接触が支配的となる条件では、表層部に疲労が蓄積する速度よりも、疲労を受ける表層が摩耗によって除去される速度の方が速いため、疲労損傷の発生は抑制され、摩耗が優先的に進行する。一方、潤滑状態が摩耗をある程度抑制するには十分でありながら、なお粗面突起部同士の相互作用が生じる条件では、表層が摩耗によって除去される速度を上回って疲労が蓄積する。その結果、き裂が発生・進展し、マイクロピッチングが生じやすくなる。

4. 塑性流動およびき裂観察による表面損傷評価

マイクロピッチングに伴う疲労損傷の進展過程を調査するため、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)および電子線後方散乱回折法(EBSD)を用いた詳細な表面形態観察を実施した。試験はΛ値を約0.18の一定とし、ボール表面粗さを約0.5 μm、0.3 μmおよび0.1 μmに変化させて行った11)。

図4に、Λ値が約0.18の条件で観察された損傷形態を示す。ボール表面粗さの増加に伴い、損傷形態は摩耗からマイクロピッチングへと移行した。粗いボールではより深刻なマイクロピッチングが発生した一方、最も平滑な条件では主として摩耗損傷が観察された。断面観察の結果では、粗いボールの場合にき裂の発生角度が大きくなり、き裂はより深くまで進展するとともに、塑性流動層も厚く形成されていた。これに対し、最も平滑な条件では、限定的な塑性変形のみが観察され、顕著なき裂形成は認められなかった11)。

図4 Λ値約0.18一定条件下において、異なるボール表面粗さで観察された表面損傷の比較

図4 Λ値約0.18一定条件下において、異なるボール表面粗さで観察された表面損傷の比較11)

これらの結果は、マイクロピッチングが塑性変形とき裂形成を伴う疲労過程を通じて進行することを示している。さらに、き裂形態および塑性流動層厚さが表面粗さに強く依存していることから、損傷進展は粗面突起部同士の相互作用によって発生する接触応力状態と密接に関連していることが示唆される。

5. 数値解析による表面応力の可視化

表面粗さと損傷進展の関係をより詳細に理解するため、マイクロEHL解析と内部応力解析を連成した数値解析を実施した11)。解析手順を図5に示す。実測した表面粗さデータおよび運転条件を入力条件として用い、接触表面における接触状態と接触部内部の応力状態を評価した。

図5 異なる表面粗さ条件下における表面および内部応力の発生を評価するためのマイクロEHL・内部応力連成解析の概要

図5 異なる表面粗さ条件下における表面および内部応力の発生を評価するためのマイクロEHL・内部応力連成解析の概要11)

図6に算出した油膜厚さ分布および接線応力分布を示す。表面粗さが増加するにつれて、潤滑油膜の分布は不均一となり、より顕著な応力集中が発生することが確認された。一方、最も平滑な表面条件では、油膜厚さ分布は比較的均一であり、応力集中も小さい結果となった。これらの結果は、同一のΛ値であっても、表面粗さの大きい表面ほど過酷な接触状態となることを示している。

図6 ボール表面粗さ0.5 μm、0.3 μmおよび0.1 μmにおける油膜厚さおよび接線応力のマイクロEHL解析結果

図6 ボール表面粗さ0.5 μm、0.3 μmおよび0.1 μmにおける油膜厚さおよび接線応力のマイクロEHL解析結果11)

対応する内部応力分布を図7に示す。ミーゼス応力およびせん断応力はいずれも表面粗さの増加に伴って大きくなり、接触表面近傍およびその内部において強い応力集中が形成された。さらに、これらの応力集中が生じる位置は、塑性流動およびき裂が確認された領域と良く一致していた。

実験結果と数値解析結果を組み合わせることで、損傷進展過程をより詳細に理解することができた。すなわち、粗面突起部同士の相互作用によって発生する応力状態によって、塑性変形およびき裂発生・進展が起こっていると考えられる8、11)。これらの知見は、表面粗さの増加に伴って損傷がより進行するという傾向を、よく説明することができる。次章でマイクロピッチング損傷メカニズムについてまとめる。

図7 ボール表面粗さ0.5 μm、0.3 μmおよび0.1 μmに対して発生するミーゼス応力およびせん断応力の内部応力解析結果

図7 ボール表面粗さ0.5 μm、0.3 μmおよび0.1 μmに対して発生するミーゼス応力およびせん断応力の内部応力解析結果11)

6. 提案するマイクロピッチング損傷メカニズム

実験および数値解析の結果に基づき、低Λ条件下で運転される転がり軸受における統一的なマイクロピッチング発生メカニズムを提案する。本研究の結果から、Λ値や表面粗さは、表面の突起部同士の相互作用の結果として生じる応力状態に影響を与え、それが疲労損傷の発生および進展を支配していると考えられる。

図8(a)に示すように、低Λ条件下では表面突起部同士の接触により接線力が発生する9、11)。この接線力は表面粗さの増加に伴って大きくなり、局所的により厳しい接触条件を生じさせる。発生した接線力は、図8(b)に模式的に示すような局所的な表面応力を生じさせる。これらの応力は表面近傍に塑性変形を引き起こすとともに、応力集中が生じる箇所においてき裂発生を促進する9、11)。疲労損傷の蓄積に伴い、き裂は接触表面近傍で発生し、その後徐々に進展する。図8(c)には、実験的に観察された代表的な疲労損傷層を示す。この損傷層では、塑性流動、き裂発生およびき裂進展が同時に観察されており、マイクロピッチングが段階的に進行する現象であることを示している。さらに転がり接触が継続すると、き裂は材料内部へと進展し、最終的には表面材料が脱落することでマイクロピッチングが発生する。

図8 低Λ条件下におけるマイクロピッチング損傷メカニズム (a) 粗面突起部同士の相互作用により接触界面に接線力が発生する

(a) 粗面突起部同士の相互作用により接触界面に接線力が発生する。

図8 低Λ条件下におけるマイクロピッチング損傷メカニズム (b) 発生した接線力により局所的な表面応力が生じ、接触表面近傍の塑性流動およびき裂発生が促進される。

(b) 発生した接線力により局所的な表面応力が生じ、接触表面近傍の塑性流動およびき裂発生が促進される。

図8 低Λ条件下におけるマイクロピッチング損傷メカニズム (c) 転がり接触の繰り返しによりき裂が進展し、疲労損傷が蓄積して、最終的にマイクロピッチングが発生する

(c) 転がり接触の繰り返しによりき裂が進展し、疲労損傷が蓄積して、最終的にマイクロピッチングが発生する。

図8 低Λ条件下におけるマイクロピッチング損傷メカニズム11)

すなわち、マイクロピッチングは、表面突起部によって誘起された応力が疲労損傷の発生および進展を支配する「応力支配型の転がり接触疲労(RCF)現象」と考えられる。

7. 結論および今後の展望

本稿では、低Λ条件下で発生する転がり軸受のマイクロピッチングを表面応力の観点から検討した。実験および解析の結果、粗面突起部同士の相互作用によって発生する局所応力が、損傷発生の主要因であり、表面応力はき裂発生、内部応力はき裂進展に寄与することを示した。表面粗さの低減はΛ値向上と応力集中緩和の両面で有効であり、本研究で提案した応力に基づく解釈は、今後の軸受設計、損傷予測手法および耐久性評価の基盤となることが期待される。

参考文献

1) 日本精工株式会社、“ベアリングドクター(軸受の損傷と対策)”
https://www.nsk.com/jp-ja/tools-resources/troubleshooting/

2) Komata H.、Iwanaga Y.、Ueda T.、Ueda K.、Mitamura N.、“Mechanisms of Surface Initiated Flaking and Long-Life Technology of Rolling Bearings by Improving Rolling Elements”、Tribologie und Schmierungstechnik、62、54-60、2015.

3) Laine E., Olver A.V., Beveridge T.A., “Effect of Lubricants on Micropitting and Wear”, Tribology International, 4, 11, 1049-1055, 2008.

4) Morales-Espejel G.E., Brizmer V., “Micropitting Modelling in Rolling-Sliding Contacts: Application to Rolling Bearings”, Tribology Transactions, 54, 4, 625-643, 2011.

5) Morales-Espejel G.E., Rycerz P., Kadiric A., “Prediction of Micropitting Damage Considering Concurrent Effects of Surface Fatigue and Mild Wear”, Wear, 398-399, 99-115, 2018.

6) Wainwright B., Takeuchi H., Makino T., Kadiric A., “The Influence of Lambda Ratio and Surface Roughness on the Initiation and Progression of Micropitting Damage”, Wear, 508-509, 204473, 2022.

7) Fujita T., Hasegawa N., Kamura N., Sasaki T., “Rolling Contact Fatigue of Thrust Ball Bearing under Low Lambda Condition”, Tribology Online, 14, 4, 163-172, 2019. 

8) Everitt C.-M., Alfredsson B., “Surface Initiation of Rolling Contact Fatigue at Asperities”, Tribology International, 137, 76-93, 2019.

9) Persson B.N.J., “Surface Roughness-Induced Stress Concentration”, Tribology Letters, 71, 66, 2023.

10) Yazid I.I.M., Komata H., Hashimoto S., Ueda K., “An Experimental Study of Surface Damage on Rolling Bearings in Low Lambda Conditions”, Tribology Online, 18, 1, 1-9, 2023.

11) Yazid I.I.M., Yanagisawa H., Aikawa F., Komata H., “Surface Damage Evaluation of Rolling Bearings Operating under Low Lambda Conditions”, Tribology Online, 19, 6, 560-572, 2024.