モビリティやロボットに対応した軽量・低コスト磁歪式トルクセンサ

2026年8月
自動車技術総合開発センター
新製品開発部 製品開発室

1. はじめに

近年、モビリティやロボット分野において、トルク情報を活用した制御技術の高度化が進んでいる。e-Bikeでは運転者の踏力アシスト制御、ロボットでは協調動作や接触力制御、自動車では駆動力や制動力の最適制御など、トルク情報は重要な制御パラメータとなっている。

弊社ではこれまで、自動車パワートレイン向けを中心に、高速回転軸へ適用可能な磁歪式トルクセンサを開発してきた。磁歪式トルクセンサは、シャフトと非接触でトルクを測定できるため、高耐久、高信頼、小型化が可能である特長を有する。

一方、近年はe-Bikeやロボット用ロータリーアクチュエータに代表される低速回転軸用途への適用要求が高まっている。また、安全性および信頼性向上の観点から、故障検知機能を備えた二重化構成への要求も高まっている。そこで、従来の高速回転軸向けセンサヘッドをベースに、低速回転軸向けとして軽量・低コスト化を図った第4世代センサヘッドを開発するとともに、信頼性向上に向けた二重化仕様の磁歪式トルクセンサを開発した。

2. 磁歪式トルクセンサの概要
2.1 磁歪式トルクセンサの構成

本磁歪式トルクセンサのシステム構成とセンサヘッド外観を図1および図2に示す。本磁歪式トルクセンサは、センサヘッド、シャフト、演算器の3つの要素部品により構成される。

センサヘッドは、図2に示すようなリング状の部品であり、内部にはフレキシブルプリント基板(Flexible Printed Circuits、以降FPCと呼ぶ)が備えられ、コイルパターンが形成されており、トルク測定対象のシャフトを中に通して用いる。FPCとシャフトは非接触で配置されるため、回転するシャフトへのセンサ素子の貼り付け等は不要で耐久性および信頼性が高い。

演算器は、センサヘッドを励磁する機能と、センサヘッドからの電気信号を演算する機能、車載コントローラ等の上位の制御装置へトルク値を出力する機能を有する。

図1 システム構成

図1 システム構成

図2 第3世代センサヘッド外観

図2 第3世代センサヘッド外観

2.2 トルク検出の流れ

本磁歪式トルクセンサでトルクを検出する際、はじめに演算器がセンサヘッドへ電流を流す。この電流により、センサヘッド内部のコイルが励磁され、シャフトとの間に磁界が発生し、シャフトの表面に磁束が通る。この状態で、シャフトが捩じられ(トルクが負荷され)、シャフトに応力が発生すると、逆磁歪効果と呼ばれる現象が発生する1)。逆磁歪効果とは、鉄などの磁性体に外力が加わることで結晶構造が歪むと磁気特性が変わる現象である。これにより、トルクが負荷されたシャフトの透磁率が変化する。シャフトの透磁率が変化すると、センサヘッド内部のコイルが生成している磁束の量が変化し、コイルのインダクタンスが変化する。インダクタンスの変化は電気信号として取り出すことができるため、演算器にて信号増幅やフィルタリング等の信号処理を施すことで、トルクに応じて変化する電気信号として出力できるようになる。

2.3 トルク検出精度

本磁歪式トルクセンサのトルク検出精度には、主に3つの誤差がある。

第1の誤差は、図3[A]に示すように、トルク負荷によるシャフトの捩じれに伴って発生する出力変化誤差である。この誤差にはヒステリシス誤差と非直線性誤差が含まれる。これはシャフト材料の磁歪特性による影響と考えられ、これを「トルクによるヒステリシスを含む非直線性」と呼ぶ。

第2の誤差は、図3[B]に示すように、環境温度の変化に伴って発生する出力変化誤差である。これを「温度によるゼロ点変動」と呼ぶ。

第3の誤差は、図3[C]に示すように、シャフト回転角に応じて発生する出力変化誤差である。センサ出力信号はシャフトの回転に伴い周期的に変動する。この現象は、シャフトの透磁率が周方向に不均一である場合に生じるものと考えられ、これを「軸回転角によるゼロ点変動」と呼ぶ。

本磁歪式トルクセンサの開発では、上記3種類の誤差の総和を総合精度と定義し、性能評価の指標とした。

図3 トルク検出精度

図3 トルク検出精度

3. 低速回転軸向けセンサヘッドの開発
3.1 開発背景

従来の第3世代センサヘッドは、自動車パワートレインなどの高速回転軸向けとして開発されたものである。

一方、e-Bikeやロボット用アクチュエータでは回転数が比較的低く、従来設計で要求されていた高温対策や軸に非接触である構造を必ずしも必要としない。そのため、低速回転軸向けには更なる軽量化・低コスト化の余地があった。

3.2 センサヘッド構造の改良

図4に第4世代センサヘッドの構造を示す。本センサヘッドでは、検出対象シャフトによってセンサヘッドを支持・案内する構造を採用した。また、従来構造で使用していたバックヨークを廃止し、樹脂主体の構造へ変更した。これにより、部品点数の削減、軽量化および低コストを実現した。開発したセンサヘッドの重量は14 gとなり、従来構造比で約80%の軽量化を達成した。

3.3 センサ精度の評価結果

センサ精度として、トルクによるヒステリシスを含む非直線性、温度によるゼロ点変動および軸回転角によるゼロ点変動を評価した。

評価には、自動車パワートレイン向け磁歪式トルクセンサで開発したショットピーニング技術を適用したシャフトを用いた。本シャフトは、e-Bikeなどで採用されている高感度皮膜を使用することなく感度の向上を実現したものである。シャフト材には機械構造用合金鋼を用い、外径φ30.8 mm、内径φ27.8 mmの中空軸とした。さらに、浸炭焼入れ・焼戻し処理を施した後、トルク検出部に研磨およびショットピーニング加工を実施した。

評価は、トルク範囲0~100 N・m、温度範囲-20~+85 ℃の条件で行った。図5に評価結果を示す。評価の結果、総合精度は10%以下であり、低速回転軸用途における基本性能を確認した。

図4 第4世代センサヘッド外観

図4 第4世代センサヘッド外観

図5 センサ精度

図5 センサ精度

4. トルクセンサ二重化の開発
4.1 開発背景

近年、モビリティやロボット分野において安全機能への対応が重要となっており、特にe-Bikeや協働ロボットなどで要求が高まっている。そこでトルクセンサには、故障検知やバックアップのため二重化構成が求められている。

4.2 二重化構造

図6に二重化仕様の構成を示す。本開発では、第4世代センサヘッドの内部FPCのコイルパターンを最適化することで、同一センサヘッド内に2系統の独立したコイルを配置した。これにより、サイズおよび重量を維持したまま二重化構造を実現した。さらに、各系統へ異なる励磁周波数を適用することで、磁気的な相互干渉を抑制し、独立したトルク検出を可能とした。

4.3 センサ精度の評価結果

図7に3.3項と同条件で、二重化仕様のセンサ精度を評価した結果を示す。評価の結果、二重化構造においても、独立した2系統の検出系によるトルク検出が可能であることを確認した。一方、総合精度については改善の余地があり、特に軸回転角によるゼロ点変動の影響が大きいことが確認された。今後は、センサヘッドおよびシャフトの改良により各誤差要因を低減し、総合精度の向上を図る。

図6 二重化仕様の構成

図6 二重化仕様の構成

図7 二重化仕様のセンサ精度

図7 二重化仕様のセンサ精度

5. おわりに

本開発では、低速回転軸向けに軽量・低コストな第4世代センサヘッドを開発するとともに、適用するシステムの安全機能対応に貢献する二重化技術を確立した。さらに、同一センサヘッド内に独立した2系統の検出系を実装した二重化磁歪式トルクセンサを試作し、その基本性能を確認した。これらの技術は、e-Bike、協働ロボット、ヒューマノイドロボットなどへの適用が期待できる。

今後はさらなる高精度化、小型化および信頼性向上を進め、モビリティやロボティクス分野への実用化を推進していく。

なお、本磁歪式トルクセンサは、弊社と株式会社プロテリアルケーブルソリューションズ様で共同開発をしている。

参考文献

1) 中村 晃之、杉山 雄太、清水 悠輝、“車載トランスミッション用磁歪式トルクセンサー”、日立金属技報、Vol.35(2019)18–23.

2) 福田 晃大、小野 潤司、宮﨑 知之、岡田 伸治、“磁歪式トルクセンサのEV への適用提案”、自動車技術会学術講演会予稿集(春)、20195291(2019)

3) 中井 貴美子、福田 晃大、小山 智史、“磁歪式トルクセンサシステムの開発”、自動車技術会学術講演会予稿集(春)、20245154(2024)