潤滑寿命式(潤滑ペンタゴン理論)

2026年1月
技術開発本部 コア技術研究開発センター
第二研究開発室 東京科学大学駐在

1. はじめに

SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルを背景に、転がり軸受には更なる低トルク化が求められています。よって、軸受に使用される潤滑剤の低粘度化や少油量化が求められています。しかし、そのようなアプローチは転がり軸受の接触域における油膜が薄くなることを意味し、油膜破断による様々な損傷(摩耗、焼付き、はく離)が生じて寿命に至る原因となります。つまり、図1に示すように、低トルク化だけでなく、長寿命化も両立する必要があります。しかし、転がり軸受の寿命に対する理論的な予測式は未だ存在していないのが実状です。したがって、NSKでは転がり軸受の接触域における油膜が破断するまでの時間を潤滑寿命と定義し、理論的な潤滑寿命式の導出に取り組んでいます。次のセクションでは、この潤滑寿命式を導出する上で重要な潤滑ペンタゴン理論の概要について説明します(図2参照)。

図1 低トルク化と長寿命化の両立

図1 低トルク化と長寿命化の両立

図2 潤滑ペンタゴン理論

図2 潤滑ペンタゴン理論

2. 潤滑ペンタゴン理論

潤滑寿命式は、図3に示す通り5つの予測式(軸受トルク予測式、潤滑剤温度予測式、潤滑剤劣化予測式、粘度予測式、および枯渇潤滑1) における油膜厚さ予測式)で構成されています。NSKでは、これを潤滑ペンタゴン理論(動画:https://www.youtube.com/watch?v=_-bTzQnbFjI)と呼んでいます。図3に示す5項目を時計回りに繰り返し計算することで、時間と共に油膜が薄くなっていくプロセスを予測することができ、潤滑寿命式を導出することができると考えています。図3からもわかる通り、この潤滑寿命式は軸受トルクを考慮した予測式であるため、軸受に求められる2大機能(低トルク&長寿命)に対して理論的な最適解を導くことができることを意味します。

図3 潤滑寿命式の構成

図3 潤滑寿命式の構成

3. NSKオリジナルの可視化技術

上記5つの予測式の精度を検証するため、軸受の潤滑状態を可視化する技術(動画:https://www.youtube.com/watch?v=VrNQ5K9QRMk&t=4s)も重要です。軸受の接触域における油膜の厚さと破断率を同時にモニタリング可能な電気インピーダンス法(EIM、electrical impedance method2)~5) )や、軸受に使用される潤滑剤の劣化診断が可能な電気インピーダンス分光法(EIS、electrical impedance spectroscopy6) )などのNSKオリジナルの可視化技術を開発しており、高精度な潤滑寿命式の導出に向けて取り組んでいます。

図4 可視化技術を用いた理論の検証

図4 可視化技術を用いた理論の検証

4. NSKと東京科学大、すずかけ台キャンパス内に研究拠点を設置

潤滑ペンタゴン理論に基づく潤滑寿命式の導出には、極めて広範な学問分野の知見が不可欠であり、NSK単独での取組みは容易ではありません。そこで2023年12月、NSKは東京科学大学すずかけ台キャンパス内に「NSKトライボロジー協働研究拠点(通称:N-TRIBO、図5 )」を設立し、産学連携でこの難題に挑んでいます(研究室HP:https://nsktrib.labby.jp/)。拠点名にある「トライボロジー」とは、運動する2物体間の接触現象(潤滑、摩擦、摩耗、焼付きなど)を解明する学問です。本拠点では、NSKの強みであるトライボロジー技術を大学との連携により深化させ、潤滑ペンタゴン理論を通して持続的に革新技術を生み出す研究環境を構築します。また、キャンパス内に拠点を置く利点を活かし、異分野の研究室とも積極的に連携することで、高度な基礎研究を牽引する人材育成にも注力しています。NSKは、グローバルNo.1のトライボロジー技術を通じて、社会に新たな価値を提供し続けていきます 。

図5 NSKトライボロジー協働研究拠点のロゴ

図5 NSKトライボロジー協働研究拠点のロゴ

参考文献

1) Maruyama T. and Saitoh T., “Relationship between supplied oil flow rates and oil film thicknesses under starved elastohydrodynamic lubrication”, Lubricants, 3, 2(2015) 365. doi.org/10.3390/lubricants3020365:
https://www.mdpi.com/2075-4442/3/2/365

2) Maruyama T. and Nakano K., “In situ quantification of oil film formation and breakdown in EHD contacts”, Tribol. Trans., 61-6(2018) 1057-1066. doi:10.1080/10402004.2018.1468519:
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/10402004.2018.1468519

3) Maruyama T., Maeda M., and Nakano K., “Lubrication condition monitoring of practical ball bearings by electrical impedance method”, Tribol. Online, 14 (5) (2019) 327–338. doi:10.2474/trol.14.327:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/trol/14/5/14_327/_article

4) Maruyama T., Radzi F., Sato T., Iwase S., Maeda M., and Nakano K., “Lubrication condition monitoring in EHD line contacts of thrust needle roller bearing using the electrical impedance method”, Lubricants, 11(2023) 223. doi:10.3390/lubricants11050223:
https://www.mdpi.com/2075-4442/11/5/223

5) Maruyama T, Kosugi D, Iwase S, Maeda M, Nakano K and Momozono S, “Application of the electrical impedance method to steel/steel EHD point contacts”, Front. Mech. Eng., (2024) 10:1489311. doi: 10.3389/fmech.2024.1489311:
https://www.frontiersin.org/journals/mechanical-engineering/articles/10.3389/fmech.2024.1489311/full

6) Iwase S., Maruyama T., Momozono S., Maegawa S. and Itoigawa F., “Studies on dielectric spectroscopy of oxidatively degraded poly(α-olefin)”, Front. Mech. Eng., (2024) 10:1504347. doi: 10.3389/fmech.2024.1504347:
https://www.frontiersin.org/journals/mechanical-engineering/articles/10.3389/fmech.2024.1504347/full