風力発電機主軸用高信頼性自動調心ころ軸受
2026年1月
産業機械技術総合開発センター
ころ軸受技術部 ころ軸受第二技術室
1. はじめに
近年、地球環境保全意識の高まりとともに、再生可能エネルギーとして風力発電への期待は益々高まっている。風力発電機は20年間の稼動を前提に設計されているが、発電効率向上のために大型化・洋上化の技術トレンドがあり、これに伴うメンテナンス時の部品交換作業の複雑化および高コスト化が課題となっている。そのため、風力発電機に搭載される軸受には高信頼性が期待されている1)。
風力発電機主軸用軸受は風による外部荷重およびブレードやドライブトレインの自重を支持するために使用される(図1)。そのため、他の軸受形式に比べ荷重負荷容量が大きく、また調心性があり取付け誤差の許容能力が高い自動調心ころ軸受が主軸用軸受として多く使用されてきた。一方で、風力発電機主軸用自動調心ころ軸受の主な損傷モードとして、摩耗及びピーリングといった表面損傷の発生が確認されており、部品交換に伴うダウンタイム低減のために対策が必要となっている。
このたび、NSKでは高負荷容量かつ耐表面損傷に優れた風力発電機主軸用高信頼性自動調心ころ軸受を開発し、販売を開始した1)(図2)。
図1 風力発電機ドライブトレインの主要構造
図2 風力発電機主軸用高信頼性自動調心ころ軸受(開発品)
2. 風力発電機主軸用自動調心ころ軸受の使用条件と課題
風力発電機主軸用軸受は、風を受ける際に発生する変動荷重とブレードやドライブトレインの重量を支持する必要があり、大きなラジアル荷重及びアキシアル荷重が負荷されるため非常に高い荷重負荷容量が求められる。
その一方で、10~20 min-1程度の非常に低速で使用されるため、風力発電機主軸用軸受では十分な油膜が形成されにくいことが想定される。加えて、自動調心ころ軸受では構造的に転動体とリング軌道面間で滑りが生じるため、転動体とリング間の金属接触によって表面性状の劣化が加速し、摩耗やピーリングといった表面損傷を引き起こしやすいことが大きな課題となっている2)。
3. 開発品の特長
3.1 高負荷容量化
本開発品では、保持器のポケットを特殊形状とすることにより案内輪を排除したころ案内保持器(ECAタイプ)を適用した。従来の標準自動調心ころ軸受CAタイプ(図3)では保持器を案内する案内輪を設ける仕様であったが、ECAタイプ保持器では案内輪を廃止することで保持器との摺動が無くなり摩耗紛の発生を抑制しつつ、保持器柱及び円環部形状を最適化することにより柱部を薄肉化しながら保持器強度の向上を実現している(図4)。これにより軸受内部設計見直し、転動体サイズを大きく、更に転動体数を増やすことが可能となり軸受の高負荷容量化及び接触面圧の低減化を実現した1),2)。
荷重負荷容量は従来のCAタイプ保持器と比較して1.1倍に、軸受寿命としては1.3倍を達成することが可能となった(表1)。
図3 従来品:自動調心ころ軸受(CAタイプ)
図4 開発品:自動調心ころ軸受(ECAタイプ)
表1 荷重負荷容量(風力発電機主軸向け主要名番)
3.2 耐摩耗性
3.2.1 材料・熱処理技術
摩耗紛などの異物が発生・混入する環境下において、表面損傷は異物圧痕を起点として発生することが知られている。NSKでは、残留オーステナイト量を最適化することで異物混入下での圧痕起因応力集中を低減する技術を基に、炭化物形成元素(クロム、モリブデン)を適量添加した鋼種に対し、特殊熱処理を施すことで残留オーステナイトの総量を増やしながら、表面硬さを向上する独自の材料・熱処理技術(Super-TF™)を開発3)しており、本開発品の内輪と外輪に適用した。これによって一般的な軸受鋼軸受に対して軌道面の耐摩耗性の向上を実現した(図5)。
図5 耐摩耗特性比較(サバン式摩耗試験)
3.2.2 被膜技術
転動体には数μmオーダーの高硬度DLC(Diamond Like Carbon)被膜処理を施した。本開発品仕様では、特殊な積層構造により母材との密着性と被膜硬度を両立させ、被膜耐久性を向上させている(図6)。DLC被膜は油膜形成不足による転動体と外輪・内輪軌道面の金属接触時の表面状態劣化、それに伴う転動体と軌道面間の接線力増加を抑制することができ、その結果、従来の被膜無し品に対して軌道面の表面摩耗を1/10以下まで低減した(図7)。
図6 被膜はがれ性試験結果
図7 外輪軌道面の摩耗深さ試験結果
4. おわりに
NSKでは新形式保持器の採用による軸受内部設計の見直し及び材料・熱処理技術/被膜技術の適用によって、低回転速度かつ高荷重条件下においても高信頼性および高耐久性を有する風力発電機主軸用自動調心ころ軸受を開発した。
本開発品の特徴として、従来標準品に対して約1.3倍の軸受寿命を達成しつつ、摩耗量は約1/10以下に低減することが可能となる。
本開発品は2024年6月から北米の風力発電機向けに販売を開始しており、今後も補修市場を中心にビジネスを拡大していき、大型化及び洋上化が進む風力発電機の安定稼働に貢献していく。
参考文献
1) 日本精工株式会社、“風力発電機主軸用高信頼性軸受”、NSK TECHNICAL JOURNAL、No.697、(2025) 80–81
2) 日本精工株式会社、“風力発電用軸受“、NSKカタログ、CAT. No.1285a、(2025) 7–11
3) 日本精工株式会社、“大形スーパーTF軸受”、NSKカタログ、CAT. No.1203、(1999) 3–6