転がり軸受の基本定格寿命(計算寿命)を延長 ~「NSK Micro-UT™ を用いた高精度寿命予測」を実用化し、転がり軸受の基本動定格荷重を向上~

2026年1月
産業機械技術総合開発センター
スマートデザイン推進室

1. はじめに

現代社会において転がり軸受は、自動車や鉄道車両などの輸送機器分野をはじめ、工作機械や産業用ロボットなどの産業機械分野、さらには風力発電などのエネルギー分野などさまざまな分野1)~5)の回転軸を支持して、摩擦低減によるエネルギー消費の削減や摩耗の抑制、焼付きの防止など、機械の安定稼働に広く貢献している。

2. 転がり軸受の寿命と計算方法

転がり軸受は荷重を受けて回転すると、内輪・外輪の軌道面及び転動体の転走面は絶えず繰り返し荷重を受けるので、材料は疲れによってうろこ状に表面が剥がれ落ちる損傷(=フレーキング)が発生する。この最初のフレーキングが生じるまでの総回転数(もしくは時間)を転がり疲れ寿命と呼ぶ。フレーキング発生のメカニズムはその起点となる欠陥の種類によって分類されるが、最も典型的なものに内部(介在物)起点型がある(図1)。

この形態のフレーキングは、軸受材料の中に不可避に残留している不純物(非金属介在物)が応力集中源となり生じる。その為、軸受鋼の清浄度(=非金属介在物の含有量や大きさを意味する)は軸受寿命に大きな影響を及ぼす。これまでに軸受メーカーは製鋼メーカーと共に鋼中酸素量の低減に取組み、酸化物系介在物を減らすことで清浄度の改善を達成してきた。近年の軸受鋼の清浄度は極めて良好であり、転がり軸受寿命も著しく向上している6)7)

一方でISO規格(ISO281-2007)に定められている転がり軸受の寿命計算法は、非金属介在物のサイズや量が寿命におよぼす影響を考慮していない。その為、ISO規格の寿命計算値に対して実際の転がり疲れ寿命は充分長寿命なので、大きく乖離した結果となっている(図2)。

軸受を選定する際は、使用環境の情報をもとに十分余裕のある寿命を有していることを確認し、フレーキング発生のリスクが低い軸受を選定することが一般的である。ところが、前述の通りISOに則った手法で計算した予測寿命は過剰な安全代を取っている。すなわち、真に最適な軸受サイズよりも大きい、もしくは最適仕様よりも過剰なスペックの軸受を選定している。実用上十分な安全代を持った過不足のない軸受を選定することが出来れば、材料や製造時に消費するエネルギーも削減でき、従来以上にカーボンニュートラル社会の実現に貢献できる。

図1 介在物起点はく離の発生メカニズム

図1 介在物起点はく離の発生メカニズム

図2 ISO規格の寿命計算値に対して実際の転がり疲れ寿命

図2 ISO規格の寿命計算値に対して実際の転がり疲れ寿命

3. 高信頼性を数値化する高精度寿命予測技術

前述の通り、転がり軸受の寿命性能には材料の清浄度が強く寄与しており、これを定量的に示すことが技術的課題を解決するキーポイントである。このような背景から、NSKは独自開発した探傷技術を用いて測定した鋼材中の非金属介在物の大きさや量の統計データと、微小な人工欠陥を用いた耐久寿命試験およびそのシミュレーション解析結果をもとに、非金属介在物を起点にして生じるはく離寿命を高精度に予測する技術を確立した。

次にNSK Micro-UT™ と名付けた超音波探傷による内部欠陥(非金属介在物)検出技術と破壊力学の考え方を取り入れた新しい寿命予測技術について解説する。

3.1 NSKオリジナルの材料評価技術:NSK Micro-UT™

鋼材中の非金属介在物の評価法は、図3に示したような光学顕微鏡を用いた直接観察による手法が従来から採用されてきた。この手法は介在物の大きさや量を直接的に評価しているため、清浄度の優劣を見極める手段として非常に有効であった。

一方で、製品軸受の体積に比べて評価体積が小さいことや、評価に必要なリソースが大きいことから、はく離寿命予測に用いるパラメータの観点では十分とは言えなかった。加えて、損傷の起点となるMicroサイズの非金属介在物が検出でき、且つ工業利用可能な検査技術も存在しなかった。そこで、非金属介在物レベル(Microサイズ)の欠陥を検出でき、且つ工業的に実用可能な超音波探傷技術を開発し、NSK Micro-UT™ と名付けた。

NSK Micro-UT™ では、図4に示したように直径数十mm×長さ数百mm程度の棒鋼を水槽に入れて超音波探傷を行う。従来、微小な非金属介在物を検出する超音波探傷法はラボレベルでのみ実施可能であったが、探傷条件の適正化及び多数の非金属介在物の実寸法測定などの多くの試験と確認を重ねて、従来の工業的な超音波探傷法では検出が困難であった100 μm未満の大きさの非金属介在物を正確に検出することが可能になった。これにより従来の方法と比較して短時間で大体積の評価が可能となり、非金属介在物の分布に関わる信頼性の高い統計データの取得が可能となった。

図3 従来の材料清浄度評価法の例

図3 従来の材料清浄度評価法の例

図4 NSK Micro-UT™技術の運用イメージ

図4 NSK Micro-UT™技術の運用イメージ

3.2 高精度寿命予測技術

高清浄度鋼を使えば転がり軸受のはく離寿命を延ばすことができる。これは一般に知られていたが、それを計算式によって精度よく推定する手段はこれまではなかった。そこで、NSK Micro-UT™ 技術の開発と並行して、NSK Micro-UT™ によって得られる非金属介在物の大きさと量の数値データを活用してはく離寿命を予測する技術の開発にも取り組んできた。

介在物を模した人工欠陥として微小なドリル穴を軌道輪に付与し、その後耐久評価試験を行う手法を開発した。この開発手法を用いた場合、ドリル穴のエッジ部分を起点としてき裂が発生し、それが進展してはく離に至る。その結果、図5に示したように非金属介在物と同様なはく離が再現される。これにより、非金属介在物のサイズや位置が転がり軸受のはく離に及ぼす影響を定量的に評価することが可能となった。

さらに図6に示したように人工欠陥周りに発生する応力をFEM(有限解析法)によって解析し、力学的な観点からの評価も行われている。既往の研究により、フレーキング寿命の大部分はき裂の進展過程であることが知られている。そこで、き裂進展を定量的に取り扱うことのできる破壊力学パラメータ=応力拡大係数を用いて寿命を整理した。応力拡大係数は、変数として欠陥サイズと応力を含んでおり、これらの影響を同時に評価できる指標である。前述の耐久試験によって得られた寿命データは応力拡大係数によって一律に整理できることが確認でき、応力拡大係数を用いたフレーキング寿命の定量的予測が可能となった8)9)

図5 人工欠陥を用いた疲労試験

図5 人工欠陥を用いた疲労試験

図6 欠陥まわりの力のシミュレーション解析

図6 欠陥まわりの力のシミュレーション解析

4. 高信頼性の見える化
4.1 動的負荷容量=基本動定格荷重Cの見直し

2項で示したように、転がり軸受の寿命性能には材料の清浄度が強く寄与しており、近年の軸受鋼の清浄度は極めて良好で転がり軸受寿命も著しく向上し、ISO寿命計算値に対して大きく上回っている(図7)。このISO規格の寿命計算値を大きく上回ったはく離寿命に対して、これまでに述べたようにNSK Micro-UT™技術による鋼中非金属介在物の統計データ取得と前述のはく離寿命計算式により、近似した寿命値を予測することができる(図8)。その結果、最適な軸受の選定が可能となる。

また、この技術を応用することにより、一般的な軸受の寿命計算に用いられるパラメータ:基本動定格荷重Cを最適な値に見直すことも可能となった。

具体的には、本開発技術によって求めたはく離寿命の予測値と、従来法で求めた計算結果の比較に加え、そこに安全率を考慮して基本動定格荷重Cを逆算し見直す。見直したCは市場で求められる信頼性を十分に確保した狙い値である。これにより、ラジアル玉軸受では基本動定格荷重Crを軸受寿命で約1.3倍相当、ラジアルころ軸受では基本動定格荷重Crを軸受寿命で約2倍相当に向上することが可能である。図9はその一例である。

図7 ISO計算値と実際の転がり疲れ寿命の関係

図7 高精度寿命予測技術を使った寿命計算例

図8 高精度寿命予測技術を使った 寿命計算結果

図8 高精度寿命予測技術を使った寿命計算結果

図9 Cr見直し前後の寿命計算例(深溝玉軸受、円筒ころ軸受)

図9 Cr見直し前後の寿命計算例(深溝玉軸受、円筒ころ軸受)

4.2 対象品種
対象品種
5. 本技術によりNSKが提供する価値

NSK軸受の高信頼性を反映した基本動定格荷重Cを用いることにより、従来よりも長いフレーキング寿命計算値を得ることができる。

これによって、これまでよりも安心してNSK軸受を長く使うことができる他、寿命計算値を基準とした定期メンテナンスの場合には、その頻度を安心して減らすことが可能となる。また、従来よりも小さな軸受を選定する(最適設計化)ことも可能となり、機械の小型化や高速化などにも貢献することができる。これらは、省エネルギー・省資源化やカーボンニュートラル社会の実現にも寄与する。

5.1 小型化・軽量化

軸受の基本動定格荷重が向上すると、より高負荷環境で使用可能になるため、従来使用していた軸受をより小型な軸受に置き換えることも可能となる。

例として円すいころ軸受HR32306Jの場合、より小型のHR33206Jに置き換えが可能となり、小型化(軸受外径:約14%、軸受組立幅:約13%)・軽量化(軸受重量:約38%)となる(図10)。

図10 円すいころ軸受HR32306JをHR33206Jに置換えた場合の効果

図10 円すいころ軸受HR32306JをHR33206Jに置換えた場合の効果

5.2 省資源化・低トルク化・CO2削減

基本動定格荷重の向上によって、既存製品からより小型の軸受への置き換えが進むことで、製造過程での省資源化が可能となる。また、より小型な軸受への置き換えによって従来よりも軸受トルクが低減し、その結果、消費電力が下がり、製品の使用段階でのCO2排出量の削減に繋がる。

例として円すいころ軸受HR32306Jの場合、より小型のHR33206Jに置き換えが可能となり、軸受トルクおよび消費電力で約18%、製品の使用段階での年間電力削減量は約 48 kWhと見積もられ、これをCO2排出量に換算すると約 22 kg削減となる(図11)。

図11 円すいころ軸受HR32306JをHR33206Jに置換えた場合の効果(いずれも当社基準による計算結果)

図11 円すいころ軸受HR32306JをHR33206Jに置換えた場合の効果

(いずれも当社基準による計算結果)

6. まとめ

NSK Micro-UT™ と名付けた超音波探傷による非金属介在物検出技術と破壊力学の考え方を取り入れた新しい寿命予測技術について紹介した。

これによりNSK軸受の高信頼性を反映した基本動定格荷重Cを用いることで、従来よりも長いはく離寿命計算値を得ることができる。これによって、お客様はこれまでよりも安心してNSK軸受を長く使用することができ、定期メンテナンスの頻度を安心して減らすことができる。また、従来よりも小さな軸受を選定することも可能となり、機械の小型化にも貢献でき、省エネルギー・省資源化やカーボンニュートラル社会の実現にも寄与する。

NSK オンラインカタログ

NSK オンラインカタログ 製品情報:https://www.oss.nsk.com/jp/products.html

参考文献

1) 山本幸一:月刊トライボロジー、No.405(2021)、22-26.

2) 亀子峰雄、城崎善彦、遠藤茂:NSK Technical Journal、Vol.691(2019)、39-45.

3) 前田吉則:月刊トライボロジー、No.431(2023)、12-14.

4) 石黒博:NSK Technical Journal、Vol.691(2019)、13-18.

5) リーキムリョン:NSK Technical Journal、Vol.691(2019)、19-27.

6) 川上潔:Sanyo Technical Report、Vol.14、No1(2007)、22-35.

7) 西森博、増田孜、川上潔、古村恭三郎、橋爪一弘:日本金属学会会報、第32巻、第6号(1993)、441-443.

8) 橋本翔、小俣弘樹、松永久生:日本機械学会論文集、Vol.83、No.852(2017)、p.16-00584:https://doi.org/10.1299/transjsme.16-00584

9) 橋本翔、小俣弘樹、松永久生:日本機械学会論文集、Vol.83、No.852(2017)、p.16-00585:https://doi.org/10.1299/transjsme.16-00585