新アルミナ系セラミック球の転がり軸受への適用検討
2026年8月
技術開発本部 コア技術研究開発センター
第一研究開発室
本記事は、一般社団法人日本トライボロジー学会の許諾を得て、トライボロジー会議2025秋函館予稿集の内容を本記事用に再編集したものです。詳しくは本記事最下部をご覧ください。
1. はじめに
カーボンニュートラルや持続可能な社会の実現に向け、自動車の分野においてはEV化が推進されており、高機能化、高効率化のための高電圧化が進むことでモータ支持軸受の電食損傷が報告されています。セラミック球軸受は電食対策として実績が多く、セラミック材料には窒化けい素(Si3N4)が用いられています。窒化けい素は軸受鋼と同等以上の転がり寿命と耐荷重性能をもつことから、転がり軸受用セラミックスとして幅広く使用されています。しかしながら、窒化けい素は、原材料が高価で、焼結工程において厳密な雰囲気管理を要し、また軸受鋼に比べ高硬度であるため加工時間が長くなるなど、生産性においても課題があり、EV需要の逼迫により供給量の不足も懸念されています。
セラミック材料の中でアルミナ(Al2O3)は原材料の入手性が良く、生産性にも優れるため工業的に広く使用されています。しかし、軸受分野においては転がり疲労特性が低いため、窒化けい素が適用できない耐食用途かつ極軽荷重の一部の用途しか適用されていません。筆者らはこれまでにジルコニア(ZrO2)をベースにアルミナを複合化させることで、機能と生産性を兼ね備えた酸化物系セラミック転動体を開発してきました1)。しかし、ジルコニアは100~200℃程度の高温環境下で相変態し、その体積膨張で発生したき裂に起因する強度低下が起こるため、耐熱性に課題がありました2)。そこで、高い生産性を有するアルミナ系セラミックスに着目し、幅広い用途に適用できるよう耐熱性を改善し、耐荷重性等の各種機能評価を行い、転がり軸受の転動体としての適用可能性を検討しました。
2. 実験方法
2.1 供試材
供試材として、アルミナをベースとしジルコニアを複合化した複合化アルミナ-ジルコニアおよび窒化けい素を用いました。表1に各供試材の材料特性を示します。硬さ測定はJIS R 1610に準拠し、押し込み荷重196 N、保持時間30 sの条件でビッカース圧子を押し込み、各材料で3回ずつ測定しました。破壊靱性値測定はJIS R 1607に準拠し、IF法により前述の硬さ測定と同一条件でビッカース圧子を押し込み、各材料でn=3測定しました。
2.2 転がり疲労特性の評価
転がり疲労特性の評価するため、スラスト型寿命試験を実施しました。表2に試験条件を示します。試験軸受は、スラスト玉軸受51305(外径φ52 mm、内径φ25 mm)であり、軌道輪にはSUJ2焼入れ焼戻し材、転動体には複合化アルミナ-ジルコニアを用いました。
2.3 耐摩耗性の評価
耐摩耗性の評価として、ボールオンディスク試験を実施しました。表3に試験条件を示します。摩耗量はレーザ顕微鏡を用いてボール及びディスクの摩耗体積を測定しました。ディスクの摩耗体積は、走行跡の4個所の平均断面積Aと摺動半径rを用いて2πrAより算出しました。
2.4 耐食性の評価
耐食性の評価には49%のフッ化水素酸溶液を用いました。腐食を加速させるため、溶液の温度は60℃、浸漬時間は24 hとしました。腐食前後の転動体の表面粗さを3点測定し、その算術平均高さSaを測定しました。
表1 サンプルセラミックスの材料特性
表2 疲労寿命試験条件
表3 ボールオンディスク試験条件
3. 実験結果および考察
3.1 転がり疲労寿命
表4に試験結果を示します。本試験の計算寿命Lcalは約1.1×107 cycleです。試験数5個のうち、2個にリングはく離が発生し、3個はLcalの約3倍で試験を打ち切りました。球の表面観察の結果、3.6 GPaの面圧においても、アルミナ単体の損傷で見られるような粒子の脱落や欠け1)は見られず、損傷は確認されませんでした。
複合化アルミナ-ジルコニアの疲労特性は、複合化による結晶粒径の微細化1)、アルミナとジルコニアの線膨張係数の違いによる圧縮残留応力の効果が影響していると考えられ3)、本セラミック球に関しても同様の長寿命効果が発揮されたと推測しています。また、本試験は120℃の高温環境下で実施しており、ジルコニアの相変態に起因する強度低下は起きていませんでした。本材料では、ジルコニアの量を減らし、ジルコニアをアルミナ中に均一に分散させることで、イットリアが偏析しにくくなり、ジルコニアの相変態が抑制されたため4)と推測しています。
表4 転がり疲労試験の結果
3.2 ボールオンディスク試験後の摩耗量
図1に球及びディスクの摩耗体積を示します。軸受鋼製のディスクの摩耗体積は同等ですが、複合化アルミナ-ジルコニア球の摩耗体積は、窒化けい素球に対して非常に小さく、複合化アルミナ-ジルコニアは耐摩耗性に優れる結果となりました。アルミナは窒化けい素より硬質でありヤング率が大きく、球とディスクの接触面積が小さいことなどが影響していると推測しています。
3.3 腐食試験後の外観及び表面粗さの変化
図2にセラミック球の腐食前後の外観写真、図3に腐食前後の算術平均高さSaを示します。複合化アルミナ-ジルコニアは外観及び粗さの変化が小さく、窒化けい素では大幅に悪化しました。アルミナはフッ化水素酸に対し耐食性が高く、ジルコニアは低いことが知られています。複合化アルミナ-ジルコニアでは表面粗さの変化が小さいことから、大部分のアルミナは腐食されず、ジルコニアのみが腐食されることで表面粗さの悪化が起きたと推測しています。
図1 ボールオンディスク試験の結果
図2 フッ化水素酸溶液浸漬試験の結果
図3 フッ化水素酸溶液浸漬による表面粗さ変化
4. おわりに
アルミナ系セラミック球の転がり軸受への適用を検討した結果、以下の結論が得られました。
①複合化アルミナ-ジルコニア球は120℃の高温環境かつ3.6 GPaの面圧において、高い転がり疲労特性を有します。
②ボールオンディスク試験の結果、複合化アルミナ-ジルコニア球は窒化けい素球よりも耐摩耗性に優れます。
③フッ化水素酸浸漬において、窒化けい素球よりも表面粗さの劣化が少なく、耐食性に優れます。
参考文献
1) 遠藤雄一、清水康之、植田光司、三田村宣晶、“複合化した酸化物系セラミック材料の転がり疲労特性”、トライボロジー会議2015春 姫路 予稿集、(2015) F17、430-431
2) T. Masaki、“Mechanical Properties of Y-TZP After Aging at Low Temperature”、Int. J. High. Tech. Ceram.、2、(1986) 85-98
3) 田中・松井・四方・西川、“ジルコニア・アルミナ複合セラミックスの3 軸残留相応力のX線測定”、材料、41、464、(1992) 593-599
4) 松井、“ファインセラミック用ジルコニア粉末の製造方法”、J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy、68、(2021) 103-110
出典について
本記事は、下記予稿集に掲載した内容をもとにNSK Technical Review用に修正したものです。
| 会議名: | トライボロジー会議2025 秋 函館 |
| 発表番号: | G47 |
| 予稿集掲載ページ: | 640 - 641 |
| タイトル(和文): | 新アルミナ系セラミック球の転がり軸受への適用検討 |
| タイトル(英文): | Study on the Implementation of Original Alumina-Based Ceramic Ball for Rolling Bearings |
| 著者: | 坂井 祐太(日本精工株式会社) 内田 啓之(日本精工株式会社) 植田 光司(日本精工株式会社) 茂木 淳(日本特殊陶業株式会社) 阿野 亮介(株式会社天辻鋼球製作所) |