環境負荷物質対策
基本的な考え方
近年、化学物質に関する国際的な規制が強化される中、企業には迅速かつ的確な法令対応が求められています。NSKグループでは、こうした環境変化に対応するため、法令遵守の徹底を企業活動の基本と位置づけ、国内外の法規制に対する対応力の強化に取り組んでいます。
その一環として、法改正情報をいち早く把握するために、関連セミナーへの参加、官報の定期的な確認、関係当局への問い合わせなどを通じて、最新の法規制情報を積極的に収集・分析し、社内への展開を行っています。EUでは2026年以降、製品情報をデジタルで管理・提供する「デジタル製品パスポート(DPP)」の導入が予定されており、より高度な情報管理体制が求められています。NSKグループでは、DPPへの対応を見据え、製品に含まれる化学物質や材料に関する正確かつ網羅的な情報を体系的に管理・提供できる体制の構築を進めています。化学物質管理システムの導入と情報基盤の整備により、製品に含まれる化学物質のデータを一元的に管理し、法規制への的確な対応と社内外への情報提供を効率的かつ確実に行える体制を構築しています。
さらに、「NSK環境負荷物質リスト」に基づき、開発・設計から調達、生産・物流までの各段階で化学物質の厳格な管理と使用削減に取り組んでいます。工場の排気ガスや排水による環境影響についても、法規制を上回る自主基準を設定し、環境保全に努めています。また、サプライヤーに対しても「NSKグループ グリーン調達基準書」等に基づく管理の徹底を求め、サプライチェーン全体での化学物質管理を推進しています。
NSKグループは今後も、国際的な規制動向を的確に捉えながら、製品の安全性と環境配慮の両立を目指し、持続可能なものづくりに貢献してまいります。
体制
NSKグループは、バリューチェーン全体の環境負荷低減に向けて、管理すべき化学物質に関係する法規制・業界基準などをもとにして、環境負荷物質管理に関する規定類の整備を行い、環境負荷物質管理体制の維持に努めています。
環境負荷物質の管理

目標と実績
◆中期経営計画2026(MTP2026)目標と各年度の目標・実績
MTP2026 | 2024年度目標 | 2024年度実績 | 取り組み | 2025年度⽬標 | |
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開発・設計、調達、生産 | 欧州RoHS指令10物質への完全対応 | 完全対応(法令準拠) | 開発製品および製造⼯程からの完全撤廃取り組み継続 | ⾮含有部品の開発製品への適⽤ 製造⼯程からの含有資材の撤廃 | 含有調査および成分分析の実施継続による管理徹底 |
調達 | NSK環境負荷物質含有調査の実施 | サプライヤーへの環境負荷物質管理体制監査の実施 | サプライヤーへの監査、是正活動継続 | サプライヤーの管理体制の確認と改善 | サプライヤーへの環境負荷物質管理体制監査の実施 |
サプライヤーからの回答取得 | サプライヤーからの回答取得継続 | NSK環境負荷物質のサプライヤー調査実施 | サプライヤーからの回答取得 | ||
生産 (日本) | PRTR法対象物質の取扱量原単位 前年度比で1%削減を継続 | 2023年度比-1%以下 | 2023年度比-10.4% | PRTR法対象物質の管理と削減 | 2024年度比-1%以下 |
取り組み
- 2006:欧州RoHS指令※1、ELV指令※2に準拠した製品設計・管理を実施
- 2020:欧州改正RoHS指令※3に準拠した製品設計・管理を実施(フタル酸含む)
- 2022:欧州REACH規制に基づき、PFOAを含有する材料の完全撤廃完了
- 2023:PFASに関する規制動向を踏まえ、対応に向けた調査・検討開始
- 2024:欧州DPPへの対応を視野に、化学物質情報管理体制の整備開始
※1 RoHS指令:電気・電子機器への有害6物質の使用を制限するEU指令。
※2 ELV指令:廃車となった自動車のリサイクル推進のため、自動車部品や材料への鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの使用を禁止するEU指令。
※3 改正RoHS指令:2014年に発行した改正RoHS指令、2019年からフタル酸エステルなどを対象に加え、10物質の使用を制限。
グリーン調達と環境負荷物質管理
NSKグループでは、深刻化する地球環境問題への対応には、自社だけでなくサプライチェーン全体での取り組みが不可欠であると考え、グリーン調達を積極的に推進しています。法令や業界標準をもとに独自に抽出した環境負荷物質を「NSK環境負荷物質リスト」※1に登録し、禁止物質を含有・付着した部品や材料、油剤、包装資材などが生産工場に納入されないよう、「NSKグループ グリーン調達基準書」を策定しています。これに基づき、サプライヤーの皆様には管理の徹底と体制の維持・向上をお願いしています。具体的には、 NSKグループでは、グリーン調達基準書同意書の取得、環境負荷物質の定期調査、主要サプライヤーへの監査を実施し、問題が確認された場合には速やかに是正を求めることで、取引先との連携を強化しています。2024年度の調査・監査では、新たにNSK製品に使用される部品・原材料に禁止物質の含有・付着は確認されませんでした。
NSK製品は、グローバルなお客様にご使用いただいており、それらが組み込まれる最終製品は、自動車や電機・電子業界をはじめ、世界各国の法令や環境負荷物質規制への対応が求められます。NSKグループでは、こうした規制動向に的確に対応するため、毎年「NSK環境負荷物質リスト」を定期的に更新しています。2024年度は、REACH規則※2を中心に新たな規制対象物質を追加し、法令遵守の徹底を図りました。加えて、NSKグループでは、サプライヤーの皆様との連携を強化するため、毎年環境負荷物質に関する調査を実施しています。これにより、規制対応の精度を高めるとともに、お客様からの情報提供依頼にも迅速かつ的確に対応できる体制を整えています。
※1 NSK環境負荷物質リスト:環境負荷物質を、禁止物質(納入製品に含有・付着されてはならない物質)、削減物質(計画的に削減していく物質)、管理物質(含有を把握しなければならない物質)に分類した一覧表。なお、2024年度はREACH規則を中心に新たな物質をリストへ追加しました。2025年度版については現在作成中であり、サプライヤーの負担軽減と社内管理の効率化を考慮し、物質単位での管理から法規制単位での管理への移行を検討しています。
※2 REACH規則(Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals):欧州連合における化学物質の登録、評価、認可および制限に関する規則。
製品安全と化学物質情報の提供
NSKでは、製品を安全にご使用いただくため、安全データシート(SDS)を作成・提供しています。一部の製品については、当社ウェブサイト上でもSDSを公開し、情報の透明性とアクセス性を高めています。2025年4月に施行された労働安全衛生法の改正に対応し、対象製品のSDSを法施行前に改訂のうえ、お客様への提供を完了しました。さらに、製品の推奨用途や必要な保護具の種類など、安全な使用に関する情報をより明確に伝えるため、SDSの内容を順次見直しています。
安全データシート (関連ページ)
欧州RoHS指令への対応と製造工程における有害物質管理
NSKグループでは、欧州RoHS指令に基づく使用禁止10物質の非含有を確実にするため、サプライヤー調査の結果に基づき、対象物質が含まれていないことを確認した部品のリストを作成しています。このリストは、製品設計段階での確認に加え、各工場における部品受入時にも活用されており、禁止物質の混入を未然に防ぐ管理体制として運用されています。欧州RoHS指令では、カドミウム、鉛、水銀、六価クロムなどの6物質に加え、2019年7月よりフタル酸エステル類4物質が新たに追加されました。これらの物質は、接触を通じて他の部材へ移行する性質(移行性)を有していることが知られており、製品の安全性確保において特に留意すべき点となっています。NSKグループでは、製品自体の材料や部品への非含有を確保するのみならず、製造工程において使用される樹脂、ゴム製手袋、包装資材などの接触部材についてもグローバルに調査を実施しています。これにより、製造過程におけるフタル酸エステル類の移行リスクを排除し、製品の品質と安全性を維持するための取り組みを継続的に推進しています。
PRTR法対象物質の管理・削減
NSKグループは、国内の主な生産拠点で、PRTR法※の対象物質の管理・削減を進めています。毎年、継続してPRTR法対象物質の取扱量原単位を前年度⽐1%削減することを目標に取り組みを進めており、2024年度は洗浄剤を第三石油類に変更する施策等を進め、取扱量原単位は、前年度比-10.4%となりました。また、揮発性有機化合物(VOC=Volatile Organic Compounds)を含む溶剤や接着剤などを使用する製造工程では、低VOC製品への切替や工程改善といった活動を進めています。2024年度のVOC排出量(グローバル)は、136トンとなりました。
※PRTR法:特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律。化学物質の環境への排出量を把握し行政機関に報告することで、管理の改善を促す日本の法律。
法令対応
新製品を上市する際には、各国の法規制に基づき、届出、登録、数量報告などの対応が求められます。NSKグループでは、各国で改定・施行されている既存化学物質に関するデータ提出義務を含む法規制に対し、適切かつ確実に対応しています。海外の法規制への対応としては、REACH規則に基づく輸出数量の管理を継続し、規制内容を精査した上で、必要な措置を講じました。2024年度においては、化学物質の登録・届出に関する法令違反は一切発生しておりません。現在は、韓国のK-REACH※における既存化学物質の登録に向けた準備を進めており、登録期限である2027年12月末までに必要な対応を着実に進めています。これらの取り組みを通じて、NSKグループは、法令遵守はもとより、環境保全と安全確保への責任を果たし、持続可能な事業活動の推進に貢献しています。
※ K-REACH(韓国化学物質の登録および評価に関する法律):韓国内で製造または輸入される化学物質について、年間輸入量に応じた段階的な登録が義務付けられている制度。
製品化学物質のリスク評価とサプライチェーン管理の高度化
NSKグループでは、製品に含まれる化学物質のリスク評価を強化するため、REACH規則および韓国REACH規則などの主要市場の規制に準拠し、ECHA※1やEPA※2などの有害性データベースを活用した評価を実施しています。2024年度には、売上のほぼ100%の製品についてリスク評価を完了し、製品安全性と環境配慮の両立を推進しています。サプライチェーン管理においては、JAMP監査チェックシートを活用したサプライヤー監査を毎年実施し、調達方針説明会を通じて化学物質管理の取り組みを共有しています。これにより、サプライヤーとの連携強化と情報の透明性向上を図っています。また、生産工程で使用される化学物質については、各工場がSDSを取得・管理し、PRTR法対象物質の記録と第三者による検証を通じて、環境負荷物質への対応と外部信頼性の確保に努めています。
※1 ECHA:欧州化学品庁(European Chemicals Agency)。欧州REACH規則の運用・管理を担う機関。
※2 EPA:米国環境保護庁(Environmental Protection Agency)。化学物質の有害性評価や規制を行う米国の行政機関。