地球にやさしい乗り物に軸受で貢献し安全で快適な社会を実現させる
クルマ、鉄道、旅客機、船舶など、さまざまな移動手段がある中で、CO2の排出量が最も少ないと言われているのが鉄道です。そんな地球にやさしい乗り物の安全・安心を実現するために、鉄道車両用軸受の設計や開発・評価に取り組んでいるエンジニアに話を聞きました。彼らの語る姿からは、鉄道に携わる使命感と喜びが伝わってきました。
プロフィール
富田 泰弘(写真左)
産業機械技術総合センター 産業機械軸受技術センター 鉄道・航空技術部 副主務
田口 明樹(写真中)
産業機械技術総合センター 産業機械軸受技術センター 鉄道・航空技術部
堀井 庸児(写真右)
産業機械技術総合センター 産業機械軸受技術センター 鉄道・航空技術部 副主務
鉄道車両のさまざまな部位に貢献
堀井 鉄道における一般的な車両は、人や物を乗せる車体と、車体を支え、走行するための台車という装置で構成されています。台車には車体を支える車軸と、車軸に取り付けられている車輪を駆動させるための主電動機(モータ)、駆動装置(ギアボックス)が搭載されています。私たちの軸受は、これら車軸、主電動機、駆動装置のすべての部位で採用され、鉄道車両を支えています。
鉄道車両の足元に台車があります。
台車には3種類の軸受が。
富田 高速回転への対応や、低騒音の実現、電流が軸受内を通過することで発生する電食の予防など、使用される部位によって求められる機能が異なるため、それぞれに最適な軸受の設計・開発を行ない、鉄道車両の信頼性向上に貢献しています。
鉄道車両の進化とともに成長を続けてきたNSKの技術力
堀井 鉄道は、安全性と定時性に優れた乗り物であり、それらの実現に欠かせないのが定期的なメンテナンスです。国・地域によって使用環境も異なるため、それぞれで要求されるメンテナンス期間まで使用可能な耐久性が軸受には求められています。近年では、生産労働人口が減少し、熟練工の方も減ってきており、社会の流れとしてもメンテナンスしやすい軸受のニーズが高まってきています。
富田 NSKは、1932年に日本国有鉄道のガソリン車車軸用に円すいころ軸受を開発して以来、なかでも新幹線の開発とともに成長してきたと言えると思います。1964年に営業を開始した初代新幹線0系以降、すべての国内新幹線にNSKの軸受を採用いただいており、2020年7月に営業運転を開始した東海道・山陽新幹線N700Sにも採用されています。潤滑性能の向上や軽量化などを実現するために、試行錯誤もしながら開発に取り組みました。
N700Sの駆動装置に採用されたつば付き円筒ころ軸受
田口 日本国内におけるNSKの実績や技術力を評価いただき、2000年代からは、海外の鉄道車両市場にも本格的な進出を果たしました。現在では、中国や韓国、ヨーロッパ、アジア圏など世界の多くの鉄道車両に軸受を提供しています。NSKの軸受が搭載された鉄道車両がグローバルに採用されるようになった背景には、これまで蓄積してきた技術力や知見を活用し、各国の走行環境を考慮するなどした設計や開発・評価を進めてきたことが挙げられます。
責任感とそれぞれの想いを持って
堀井 私たちの部署に新しい社員が入ってきたら、第一に話すことが、私たちの製品は人の命を預かるということです。また設計をする際は、表面だけを見るのではなく、その根底にある理由を見るように周りのメンバーにも話しています。
今後は、ますますグローバルのお客様も増えてくると思いますが、海外の技術センターとの連携をより深めて、市場の違いを理解しながら、技術を進化させていきたいと考えています。鉄道という大事な事業に携わらせてもらっていることを、NSKの鉄道事業に関わるメンバーと改めて認識しながら、業務を進めていきたいです。
富田 責任を持って高品質で信頼性の高い製品を世に送り出す、これが私たちの使命だと思っています。そのためにも、業務をしているときに疑問を抱いた際はそれを曖昧にせずに、徹底的につぶしこむようにしています。自分が設計した製品が搭載された鉄道に乗ると、嬉しいですし、それがモチベーションにもなります。これからも、実際に鉄道に乗る人の喜ぶ顔を思い浮かべながら、業務に取り組んでいきます。将来的には、NSK製品が搭載された安全で信頼性の高い鉄道がどの国でも乗れるような未来を実現できればいいなと思います。
田口 鉄道という人の暮らしにかかわる産業に関与できていることを嬉しく思っています。鉄道は、部品が1つでも壊れたら多くの人命に関わる大事故につながってしまう可能性がある乗り物です。評価試験を行う際には、常に責任感を持ち、得られたデータを忠実に受け止め、小さな変化点も見逃さずに熟考することを徹底しています。
日本の鉄道車両の安全性を支えてきたNSKの技術は、グローバルでも、安全で快適な生活の実現に貢献できると思います。また、鉄道はCO2の排出量が少ない地球にやさしい乗り物です。鉄道に携わる事業者とも積極的に会話をしながら、世界の環境にさらに貢献していくためにNSKとしては何ができるのかを考えていきたいと思います。