2019年09月04日

既存の素材を組み合わせたら"未知の製品"に 「難しさと面白さは表裏一体」

既存の素材を組み合わせたら"未知の製品"に 「難しさと面白さは表裏一体」

日本精工(以下、NSK)が描いた未来のありたい姿"NSKビジョン2026"。ここで掲げられた「あたらしい動きをつくる。」という方針のもと、全く新しい製品が生まれようとしています。日本トップシェアのベアリングでもなく、また慣れ親しんだ自動車業界の製品でもない。なぜこのような「未知の製品」が生まれたのか、開発メンバーに話を聞きました。

プロフィール

磯 賢一

磯 賢一

コア技術研究開発センター 有機機能材料領域 新素材研究グループ 主務
1992年入社。潤滑剤、自動車用軸受の開発を経て、グループ会社「NSKワーナー」に出向し摩擦材の開発に携わる。2014年より現職。新素材の開発を担当する。

津村 加奈子

津村 加奈子

コア技術研究開発センター 有機機能材料領域 新素材研究グループ 副主務
2007年入社。潤滑剤、表面処理技術の開発を経て2014年より同グループにて新素材の発案を担当する。産休・育休を取得後、工業用新素材の開発に関わる。

渡辺 祐也

渡辺 祐也

コア技術研究開発センター 有機機能材料領域 新素材研究グループ
2012年入社。材料技術開発部門で樹脂の開発に携わる。2017年より同グループに所属となり、磯さんのもと食用油劣化抑制フィルターの開発を担当する。

既存の素材の組み合わせが 全く新しい製品に

現在、量産化を目指している開発品「食用油劣化抑制フィルター」は、揚げ物をつくるフライヤーで使われます。食用油フィルターは、食品を揚げた際のコゲなどを取り除くものですが、NSKのフィルターは油の劣化抑制効果があるため、食用油の交換、フライヤーの清掃回数が減る(=稼働率が上がる)というメリットがあります。しかし開発当初、NSKにも開発メンバーにも食品業界との接点はほとんどなかったといいます。

磯以 前、グループ会社で紙を原料とした摩擦材の開発をしていました。またNSKでは普段、潤滑油の酸化劣化を防ぐために添加剤を使っています。紙素材と添加剤を組み合わせて新しいものをつくれないか、と考えたのが、今回の開発品の始まりです。具体的な提案にまとめてくれたのが津村さんでした。

津村 普段、NSKは機械製品の一部を開発していますが、このアイディアは食品加工で使われるフライヤーに使えると思いました。食用油の濾過フィルターにし、さらに油の劣化を抑制できたら、機械を清掃する回数も減り、フライヤーの稼働率も上がります。開発がスタートしたのは約4年前です。

磯 賢一さん(コア技術研究開発センター 有機機能材料領域 新素材研究グループ 主務)

磯 賢一さん(コア技術研究開発センター 有機機能材料領域 新素材研究グループ 主務)

津村 加奈子さん(コア技術研究開発センター 有機機能材料領域 新素材研究グループ 副主務)

津村 加奈子さん(コア技術研究開発センター 有機機能材料領域 新素材研究グループ 副主務)

Yuya Watanabe

渡辺 祐也さん(コア技術研究開発センター 有機機能材料領域 新素材研究グループ)

渡辺 私は途中からグループに合流したのですが、話を聞いて、以前自分が開発に携わった樹脂が、添加剤の付着に生かせると思いました。

磯紙 素材、酸化を防ぐ添加剤、そして添加剤を紙に付着させるための樹脂……開発するための材料は揃っていました。

渡辺 ただ、問題は形にするところです。なにせ食品加工の現場で使われるものですから、一般の製造機械とは違って、素材の使用基準が厳しかったのです。使う素材をすべて植物由来にすべく、いろんな素材を試しました。

「ベアリングの会社なのになぜ?」

会話のなかで手応えが生まれた

全く未知の業界に、作ったことのない製品を届ける。そもそも勝算はあったのでしょうか。
そして開発中は、どこにモチベーションを見出していたのでしょうか。

4コアテクノロジー

磯従 来品のリサーチのため展示会に行ったのですが、私たちが考えている高品質のフィルターはなく、ニーズがあると感じました。ただ、ヒアリングに伺った食品加工会社さんからは、ことごとく「ベアリングを作っている会社なのになぜ?」と聞かれましたね(笑)。そのたびにNSKの4コアテクノロジーが活用されていることを説明しましたが、それが結果として共感につながり、私のモチベーションにもなったと思います。

渡辺 以前は材料の開発部門にいたのですが、そこではお客さまと直接接することはありませんでした。でも、今は生の声を聞き、その意見を開発に生かすことができるのが喜びです。2017年に説明員として展示会に参加したのですが、お客さんの反応が良くて嬉しかったのを覚えています。

津村 私は、新製品の発案に関わることそのものに魅力を感じていました。今までの研究を生かし、組み合わせ、何をどうしたら製品としてモノになるのかを考える。こんな機会が多くあるのがNSKの魅力だと思います。

食用油劣化抑制フィルター

食用油劣化抑制フィルター(茶色)
白いフィルターの繊維表面に、手前にある添加剤を担持してつくる。

NSKの歴史と信頼が新しいものを生み出す力に

「食用油劣化抑制フィルター」は現在、量産化を目指し、製造パートナーを探している最中です。新しいものを世に出す。それは大きな苦労を伴いますが、喜びでもあるようです。

フライヤー
フライヤー

フィルターはこのような揚げ物をつくるフライヤーで使われる。

 いま所属している新素材研究グループでは、アイディア出し、材料の選定、生産工程の検討、お客さまの発掘まですべてに関わらねばなりません。とても大変ですが楽しくもあります。難しさと面白さは表裏一体ですね。

渡辺 今回、全くお付き合いのない会社の方々とお話をさせていただきましたが、どこも温かく迎えてくださいました。このように普通に会話ができるのは、NSKがこれまで培ってきた信頼のおかげ。これまでとは違う分野でNSKの製品が広がることで、より認知度が上がったらいいなと思っています。

津村 私は現在、別の開発チームに異動してしまったのですが、いつもフィルターの進捗状況は気になっています。今後の展開が楽しみです。

 この製品が形になると、NSKだけでなく食品製造工場の業務、作業も変わるでしょう。また油の劣化が抑制されたらエコにも繋がります。一つの製品を開発することで、多くの人、会社、社会に影響を与えられるのも、開発に携わる面白さですね。お待ちいただいている皆さんの期待に早く応えたいと思います。

開発メンバー