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2. 取付け

軸受の取付けの良否は、精度、寿命、性能に影響します。そのため、設計及び組立部門で、軸受の取付けについて十分に検討し、作業標準に従がって取付け作業を進めて下さい。作業標準の項目は、通常、次の通りです。

  1. 軸受及び関係部品の洗浄
  2. 関係部品の寸法及び仕上り状況のチェック
  3. 取付け
  4. 軸受取付け後のチェック
  5. 潤滑剤の供給

軸受の包装は取付け直前に解くことをおすすめします。一般に、グリース潤滑の場合には、軸受を洗浄せずに、そのまま潤滑グリースを充てんします。油潤滑で使用する場合でも、普通、洗浄の必要はありませんが、計器用あるいは高速で使用する軸受などは、きれいな洗浄油で洗って、軸受に塗布されているさび止め剤を除去します。さび止め剤を除去した軸受はさびが発生しやすいので、そのまま放置しないで下さい。

なお、グリース封入軸受は洗浄しないで使用します。軸受の取付方法は、軸受形式や、はめあいの条件によって異なります。一般には、軸回転の場合が多いので、内輪にはしまりばめが必要です。円筒穴軸受では、プレスによる圧入や、焼ばめによって取付けることが多くあります。テーパ穴の場合には、テーパ軸に直接取付けるか、スリーブを用いて取付けます。

軸受のハウジングへの取付けは、一般には、すきまばめが多く、外輪にしめしろがある場合、通常、プレスで圧入します。また、軸受を冷却して取付ける冷やしばめの方法もあり、冷却剤としてドライアイスなどを使用します。このとき、軸受の表面には空気中の水分が凝結するので、適切なさび止め処置が必要となります。

円筒穴軸受の取付け

プレスによる圧入方法

内輪の圧入
小形の軸受では、プレスによる圧入方法が広く採用されています。図1に示すように、内輪に当て金を当てて、軸の肩に内輪側面が密着するまで、プレスで静かに押し込みます。外輪に当て金を当てて内輪を取付けることは、軌道面に圧こんやきずを付ける原因となるので、絶対に避けて下さい。
なお、作業を行うとき、はめあい面に油を塗布しておくとよいです。やむを得ずハンマーなどでたたいて取付ける場合にも、当て金を内輪に当てて作業します。この方法は、しばしば軸受損傷の原因となるので、しめしろが小さい場合にとどめておき、しめしろが大きい場合や、中形・大形の軸受には用いないで下さい。
内輪の同時押込み

深溝玉軸受のような非分離形の軸受で、内輪、外輪ともにしまりばめで取付ける必要がある場合には、図2に示すような当て金を用い、ねじや油圧で内輪、外輪を同時に押し込みます。自動調心玉軸受では、外輪が傾きやすいので、しまりばめの場合でなくても、同じように当て金を介して取付けるとよいです。

円筒ころ軸受や円すいころ軸受のような分離形軸受では、内輪、外輪をそれぞれ軸及びハウジングに、取付けることができます。別個に取付けた内輪及び外輪を組合せるとき、内輪、外輪の中心のずれがないように、静かに合わせることが大切です。無理に押し込むと、転動面にかじりきずを付けるおそれがあります。

焼きばめ方法

内輪の同時押込み

大形の軸受では、圧入に要する力が大きいので、圧入作業が難しくなります。したがって、油の中で軸受を加熱膨張させ、軸に取付ける焼きばめ方法が広く用いられています。この方法を用いると、軸受に無理な力がかからず、短時間に作業が行えます。

軸受の加熱温度は、軸受の寸法及び必要とするしめしろなどから、図3を参考にして決めることができます。

焼きばめ作業における注意事項は、次の諸点です。

(a) 軸受を120℃以上に加熱しない。
(b) 油槽の底に直接触れないように、軸受を金網台に載せるか、つるす工夫が望まれる。
(c) 作業中に内輪が冷えて、取付けが困難にならないよう、所要温度より20℃~30℃高めに軸受を加熱する。
(d) 取付け後、軸受が冷えると、幅方向にも収縮するので、内輪と軸の肩との間にすきまが生じないよう、軸ナットやそのほかの適当な方法で密着させておく。

NSKベアリングヒーター(誘導加熱装置)

油による焼ばめ方法のほかに、電磁誘導作用を利用したNSKベアリングヒーターが広く用いられています。

NSKベアリングヒーターは励磁コイルを内蔵しており、通電すると電磁誘導作用により被加熱体(軸受)に電流が流れ、それ自体の抵抗によって発熱します。したがって、火や油を使わずに短時間で均一加熱できるので、軸受の焼ばめ作業を能率よく、清潔に行うことが可能です。

取付け・取外しが比較的多く行われる場合、例えば、圧延機のロールネック用、鉄道車両の車軸用などの円筒ころ軸受では、内輪の取付け・取外しにNSKの専用誘導加熱装置を利用するとよいでしょう。

テーパ穴軸受の取付け

テーパ穴軸受では、内輪を直接テーパ軸に固定するか、アダプタ又は取外しスリーブを使って円筒軸に取付けます(図4及び図5)。

大形の自動調心ころ軸受では、油圧を利用して取付作業を行うことが多くあります。図6は油圧ナットを用いてスリーブを押し込み取付ける例であり、図7はスリーブに油穴を設け、加圧した油をはめあい面に送り込みながら、ボルトでスリーブを押し込む方法です。

自動調心ころ軸受では、表1の押込み量を基準とし、ラジアルすきまの減少量を調べながら取付けます。すきまの測定にはすきまゲージを用いますが、その際、図8に示すように両列のすきまを同時に測り、ほぼ等しい測定値が得られるよう注意することが必要です。

軸受の寸法が大きくなると、軸に取付けたとき、外輪が自重などにより、だ円状に変形します。変形している軸受の最下部で、すきまを測ると、真のすきまより大きく測定されます。この誤ったラジアル(内部)すきまを用い、表1を目安に取付けると、しめしろが過大となり、本当の残留すきまが過小となることがあるので、注意しなければなりません。このような場合、図9のように、水平方向の横の位置における2か所のすきまa、b と最下部のすきまc との総和の半分を残留すきまとすることができます。

自動調心玉軸受をアダプタを用いて軸に取付けるときには、残留すきまが過小にならないよう、外輪が容易に調心できる程度のすきまを確保して下さい。

テーパ穴軸受の取付け

表1 テーパ穴自動調心ころ軸受の取付け

表1 テーパ穴自動調心ころ軸受の取付け

備考

上表のラジアル(内部)すきまの減少量は、CN すきまの軸受のときの値である。
C3 すきまの軸受の場合、ラジアルすきまの減少量として、この最大値を目安とする。