AI×IoT×振動診断士で予知保全を実現
状態監視ソリューション(CMS)の開発

製造業の現場では、突発的な設備の故障が生産性を大きく左右します。そのような状況を防ぐために、NSKは、AIとIoTを活用し、設備の異常を事前に察知できる「状態監視ソリューション(以下、CMS)」を開発。振動データを独自のノウハウで状態監視データに変換することで設備の状態を可視化、設備保全を最適化し、品質確保の阻害要因を特定できるようにしました。今回のプロジェクトは、もともと風力発電所向けに開発された技術を、NSK独自のデータを活用し、いかにして幅広い産業へ展開するかに挑戦したものです。グローバルなチームで試行錯誤しながら開発を進めているこのプロジェクトの裏側を、主要メンバーに聞きました。

プロジェクトメンバー

  • ドイツ B&K Vibro社 駐在
    チーフテクノロジー
    アドバイザー Sさん
    新卒入社
    大学院卒業後、NSKに入社。MEMSセンサーの基礎研究やスマートベアリングの開発に従事。その後、カリフォルニア州サンノゼに3年間駐在し、新規ビジネス開発に取り組む。帰国後はCMS開発センターで理論と機械学習を活用した振動診断アルゴリズムの開発を主導。現在はドイツに駐在し、Brüel & Kjær Vibro GmbH社(以下、 B&K Vibro社)のチーフテクノロジーアドバイザーとして技術ロードマップの策定やプロジェクト推進、B&K Vibro社とNSKとの技術連携を担う。
  • プラットフォーム開発グループ
    開発リーダー Hさん
    新卒入社
    大学院卒業後NSKに入社し、直動技術センター試験研究部でボールねじの振動解析や技術開発に従事。2017年にCMS開発センターへ異動し、基礎技術やアルゴリズム開発などに携わる。現在はCMSプラットフォームの開発を担当し、クラウド技術や生成AIを導入し、本プロジェクトの成功に貢献している。また、社内でデザイン思考のワークショップ講師も務め、顧客価値を最大化する製品開発を目指す。
  • 産業機械事業本部 CMS本部
    マーケター Mさん
    キャリア入社
    アパレル商社、メーカー、IT企業を経て2022年にNSK入社。産業機械事業本部CMS本部でマーケティング業務に従事。Webサイト制作やSNS・Web広告を活用した情報発信により、認知向上や新規顧客開拓に取り組む。本プロジェクトではB&K Vibro社と連携し、CMSの市場拡大を推進。マーケティングコミュニケーションを通じた顧客との関係構築や戦略的プロモーションの企画・実施を担う。

※所属部署はインタビュー取材当時のものです.

生産現場での「予知保全」の重要性が高まることを踏まえ、
状態監視ソリューション(CMS)の開発を推進

状態監視ソリューション(CMS)

近年、少子高齢化による労働人口の減少や熟練労働者の不足にともない、生産現場では機械設備の異常を早期に検知し、トラブルを未然に防ぐ「予知保全」の重要性が増しています。

NSKはこの課題に対応するため、状態監視ソリューション(以下、CMS)市場の専業大手であり、今後も急速な成長が見込まれるB&K Vibro社を2021年にグループの一員に加えました。同社の回転機構向け監視技術とNSKの直動機構向け診断技術、経験豊富な設備診断エキスパートの知見を融合し、ワイヤレスセンサーやクラウドサービスを活用した新たなCMSの開発を進めています。これにより、リアルタイムでのデータ収集・分析が可能となり、設備の異常検知や故障予測の精度が向上しました。

自動化・省人化・スマート化・環境対策などの社会的ニーズに貢献するため、さらなる予知保全の高度化を目指し、人工知能(AI)や機械学習を活用した開発を進めています。

開発年表
Timeline

  • 2021年3月

    B&K Vibro社がNSKグループにの一員に

    2021年3月、CMS事業の強化を目的にB&K Vibro社がNSKグループの傘下に入る。予知保全技術の高度化に向け、B&K Vibro社の技術や顧客基盤、ビッグデータへのアクセスなどを活用し、自動化・省人化・スマート化といった社会的ニーズへの対応力強化を目指す。

  • 2024年1月

    ワイヤレスソリューションの国内市場投入開始

    配線工事が不要で、クラウドを活用してインターネット経由でどこからでも設備の状態を確認できるワイヤレスソリューションの国内市場投入を開始。​独自の診断指標をAIでチェックし、設備異常の早期発見を可能にした。

  • 2025年4月

    事業体制の強化

    CMSおよびPLM※1技術の開発・展開を加速させるために組織変更を実施した。

  • 2023年9月

    直動製品の状態監視システム実用化に向けた開発を開始

    NSKが培ってきたトライボロジー技術を生かし、軸受だけではなくボールねじやリニアガイドなどの直動製品に対応した独自診断技術を、B&K Vibro社の状態監視システムに実装。この診断技術により設備の安全稼働と保全の効率化に貢献する。

  • 2024年10月

    CMSの拡充

    従来の有線タイプの状態監視システム(状態監視装置「VCM-3」を用いたシステム)にクラウドサービスとのデータ連携機能を追加。これにより、一般産業機械においてもより高度な状態監視を求める顧客向けに、NSKの高度診断AIと診断エキスパートによる状態監視ソリューションの提供が可能となった。

※1Product Lifecycle Managementの略。製品のライフサイクルを管理すること。NSKでは、製品販売後の設備メンテナンスや補修も含め、製品ライフサイクル全体でのサービス提供体制の強化を進めています。

  • 2021年3月

    B&K Vibro社がNSKグループにの一員に

    2021年3月、CMS事業の強化を目的にB&K Vibro社がNSKグループの傘下に入る。予知保全技術の高度化に向け、B&K Vibro社の技術や顧客基盤、ビッグデータへのアクセスなどを活用し、自動化・省人化・スマート化といった社会的ニーズへの対応力強化を目指す。

  • 2023年9月

    直動製品の状態監視システム実用化に向けた開発を開始

    NSKが培ってきたトライボロジー技術を生かし、軸受だけではなくボールねじやリニアガイドなどの直動製品に対応した独自診断技術を、B&K Vibro社の状態監視システムに実装。この診断技術により設備の安全稼働と保全の効率化に貢献する。

  • 2024年1月

    ワイヤレスソリューションの国内市場投入開始

    配線工事が不要で、クラウドを活用してインターネット経由でどこからでも設備の状態を確認できるワイヤレスソリューションの国内市場投入を開始。​独自の診断指標をAIでチェックし、設備異常の早期発見を可能にした。

  • 2024年10月

    CMSの拡充

    従来の有線タイプの状態監視システム(状態監視装置「VCM-3」を用いたシステム)にクラウドサービスとのデータ連携機能を追加。これにより、一般産業機械においてもより高度な状態監視を求める顧客向けに、NSKの高度診断AIと診断エキスパートによる状態監視ソリューションの提供が可能となった。

  • 2025年4月

    事業体制の強化

    CMSおよびPLM※1技術の開発・展開を加速させるために組織変更を実施した。

    ※1Product Lifecycle Managementの略。製品のライフサイクルを管理すること。NSKでは、製品販売後の設備メンテナンスや補修も含め、製品ライフサイクル全体でのサービス提供体制の強化を進めています。

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海外拠点と協力しながら、アジャイル開発を行う

今回のプロジェクトにおけるそれぞれの役割を教えてください。

Sさん

本プロジェクトの開発は、ドイツと日本のグローバルな体制で進めています。その中で私は、開発チームのマネジメントや、各国の拠点と連携した開発ロードマップの策定といった役割を担っています。さらに、世界中にいるお客様の声をヒアリングし、開発プランに反映させることも私の重要な使命です。

Hさん

私は、主に機能開発や機能追加を担当しています。お客様のニーズに対応するため、アジャイル開発で小規模な試作を繰り返しながら、最適なソリューションの構築に取り組んでいます。

Mさん

私はマーケティング全般を担当し、製品の市場展開やブランディングに携わっています。Webサイトや広告を活用し、製品の認知度向上や新規顧客の獲得に取り組んでいます。本プロジェクトに関しては、これからが本格的に私の出番ですね。

CMSの開発に着手した経緯は、どのようなものですか?

Sさん

NSKでは、アフターマーケットを伸ばす目的も含めて、お客様の機械の状態をより詳細に知る必要があると考え、CMSの技術開発を進めてきました。しかし、実際にCMSをサービスとして構築するには、センサーやデバイス、データベース、お客様に導入していただくための助言や提案など実にさまざまなリソースが必要です。そこで、風力発電向けのCMSに強みを持ち、長年のサービス提供実績を持っているB&K Vibro社をグループの傘下に加え、その技術とNSKの強みを融合させることで、より幅広い産業に対応できるソリューションを開発することにしました。

インタビュー写真01

今回の開発で一番のポイントは何ですか?

Sさん

今回の開発の大きなポイントであり、課題でもあるのは、B&K Vibro社の風力発電向けCMSを、NSKの持つ機械部品に関する知見やデータを生かして、他の産業に適用することです。試行錯誤の連続ですね。

Hさん

その点では、新規のシステム開発に「これが正解」というものがありません。ですから、小さく開発したMVP(プロトタイプ)を実際にお客様の工場で試してもらい、改善点があればまたアジャイルかつ素早くブラッシュアップする形で開発を進めています。

Mさん

B&K Vibro社を含むNSKの海外拠点とワンチームで進めていることもポイントだと思います。「B&K Vibro社とNSK、異なるバックグラウンドを持った人たちとのコミュニケーション」という点で苦労もありますが、課題を一つずつ、一緒に乗り越えています。私自身は、コミュニケーションと情報共有の量を増やすことで、相互理解を促し、より深いマーケティング戦略を立案するよう心がけています。

Sさん

NSKは拠点ごとにITインフラが異なっていました。しかし、MさんがCMSのプロジェクトに関して共通のプラットフォームを整備してくれたんです。そのおかげで、各リージョンの人たちがスムーズに情報共有ができるようになりました。開発視点でも、作りたいシステムは国によって違い、各国で開発するとその国にしか合わないサービスになりがちです。しかし、共通のプラットフォームがあることで、「世界中どこでも使ってもらえるサービスを作り上げよう」と、同じ目標を目指して共に協力していく意識づくりに非常に役に立っています。

Hさん

そういう意味では今回のCMSが、オンプレミスではなく、クラウドサービスになっているのがポイントではないかと思います。グローバルを見据えているからこそのクラウドです。NSKのクラウドサービスはこのCMSだけなので、NSKとしても新たな取り組みと言えるのではないでしょうか。

インタビュー写真02

AI技術を活用しているそうですが、NSKならではの活用法を教えてください。

Mさん

NSKとB&K Vibro社には設備診断のエキスパートである「振動診断士」*がいます。彼らの知見とAIを組み合わせることで、若手技術者でも熟練技術者と同じレベルの診断ができることを目指しています。
*ISO18436-2 準拠 機械状態監視診断技術者(振動)

Hさん

まだAIに重要な判断を任せてしまうには、安心感が足りないと感じるユーザーは多いと思っています。その際に振動診断士が結果を保証してくれて、具体的な提案もしてくれるシステムであることが、NSKならではの価値だと考えています。

Sさん

今後は、その信頼性を担保した上で、ベテランが担っている部分をAIがサポートできる幅を広げていくことが目標です。

インタビュー写真03

開発中、特に大変だったことがあれば教えてください。

Sさん

NSK社内だけでは故障した機械のデータがほぼ得られないことですね。機械はそう壊れるものではないので、一般的に故障したデータはなかなか集められません。そのため、AI開発がとても難しいんです。以前から、故障のタイミングや原因をわかるように、ベアリングにセンサーを入れて情報収集できるようにしたいと考えていたのですが、コスト面などなかなか実現へのハードルが高くて。しかし、B&K Vibro社は数十年にわたって風力発電の機械をモニタリングしているため、豊富な故障データを持っています。ただ、風車のデータなので、他の産業にどう生かすかがこれからの課題ですね。

今回の開発で、面白かったことは何ですか?

Sさん

私は今まで日本とアメリカで働いた経験しかなかったので、ドイツの働き方を学べたのが良かったですね。また、どうすれば異文化コミュニケーションを上手く進められるか試行錯誤する過程で、新しいプロセスを見出す能力を開発できたと感じています。

Hさん

元セールスや生産技術、データアーキテクトなど実に多様なメンバーが集まっています。そのメンバーで対等に意見を出しあって、それを収束させるのが大変でもあり面白くもありました。その試行錯誤中で、自分は今までゼロから新しく発想することが得意だと思っていたのですが、デザイン思考※2にあるようなフレームワークを駆使して、議論を整理することが得意だと再発見できたことが印象深いです。
※2ユーザー視点で課題を発見し、創造的に解決する手法。共感・問題定義・アイデア創出・試作・検証のプロセスを重視するものです。

Mさん

マーケティングも、グローバルで取り組めるのが面白いところです。B&K Vibro社のマーケティング担当者と定期的にミーティングを行い、サービスの成長とともにマーケティング戦略が進化していくのを肌で感じられるのも楽しいです。

インタビュー写真04

NSKでソフトウェア開発に携わる面白さはどこにあると思いますか?

Sさん

NSKにはソフトウェア専門の人が少ないので、キャリア入社であってもすぐに仕事を任され、頼りにされるのではないでしょうか。また、NSKでのソフトウェア開発は、実際の機械や設備にリンクするので、自分の作ったものの成果が目に見える形で表れるのはやりがいになると思います。

Hさん

NSKでのソフトウェア開発というのとは少し話がずれてしまうのですが、CMSのソフトウェア開発では、まずは必要最小限の機能開発を行い、それを改善しながら成長させていくアジャイル開発を行っています。そのため、ウォーターフォールでの開発とは異なるライブ感が楽しめる点が面白いところでしょうか。「どの顧客にアプローチし、どのように顧客の声を集めるか」「そのためにはどんな機能が必要か」など、NSKの幅広い活動を生かしながら、その都度議論して進めていくことができます。各フェーズのスコーピングを行い、優先順位を立てて進めるため、アジャイルのデメリットを感じさせない進め方ができているように感じています。

Mさん

NSKのソフトウェア開発は、お客様の市場や設備を理解する必要があるので、そういった点がIT企業と異なり、面白いのではないでしょうか。また、NSKはグローバルに活動しているので、海外の方々と仕事する機会が多いのも魅力だと思います。