位置決め時間の短縮には、
- (1) モ-タ回転速度の高速化
- (2) モータ動作中、位置指令に対する実際のモ-タの追従性向上
- (3) 位置指令完了後の整定時間を早くする
(1)は永久磁石形同期モ-タで実現し、(2)と(3)は制御技術で実現した。
NSKでは、1985年から負荷を直接駆動できるダイレクトドライブモータ(以下DDモータ)を“メガトルクモータ“の商品名で販売してきている【 参考文献1),2),3) 】。DDモータは、「サーボモータ+減速機」や機械式インデックスで発生するガタやバックラッシュを取り除き、高精度、高速な位置決めを可能としている。また、駆動系として負荷を直接受けられる軸受を内蔵しており、付加的な支持機構を設ける必要がなく、コンパクト、省スペースの装置に寄与できるアクチュエータである。
開発当初は、産業ロボットのダイレクトドライブ化で注目を浴びたDDモ-タは、その後、FA用ダイレクトドライブモータとして実用化され、現在では、半導体・液晶製造装置、CD/DVD製造装置をはじめとして、組み立て機、検査機などのインデックス、搬送機構として広く使用されるようになり【 参考文献4) 】、FA用アクチュエ-タとして認知度が高くなってきている。
使用される分野が広がるにつれ、インデックス用途では、対象製品の微細化により高精度な位置決めが求められ、また、搬送用途では、生産性向上の要求から、より高速での位置決めが求められている。
本稿では、永久磁石形同期モータとして開発されたメガトルクモータ PSシリーズのモータ技術と高速位置決めを実現した新制御方法について紹介し、次にそれらの技術を応用して開発された製品の特長について紹介する。
以前のメガトルクモータはトルク発生原理として、小歯突極構造のリラクタンス変化によりトルクを発生させるVR形(バリアブル・リラクタンス形)を用いていた。磁石を使わず、小歯数を増やすことにより、多極化が簡単にでき低速で高トルクが得られている。反面、ロータとステ-タのギャップは研削加工を施し、0.1mm程度にギャップを管理する必要があった。 VR形は、巻線のインダクタンスが大きくなるため、駆動周波数が高くなる高速域では、モータ巻線電流の応答遅れによりトルクが減少する傾向がある。
図1は一般的なCD/DVDの製造ラインの搬送装置である。
ディスクのストッカ-テーブルとプロセス装置側との間でディスクの受渡しを行う搬送アームとで構成されている。搬送、ストッカ-はCD/DVDの付加価値には何ら寄与しないことから、搬送時間は極力短縮することが要求される。特に、搬送アームでは搬送する角度が大きい(180度以上)場合が多く、搬送時間を早くするためには、モ-タの最高回転速度を上げることが必須となり、また、搬送に要するスペ-スも出来るだけ小さく抑えることが要求されている。このため、DDモ-タには小型化、高速化が必要となり、従来のVR形での対応では限界が出てきた。
一方、永久磁石の中でも希土類Nd2Fe14B磁石(ネオジ磁石)はエネルギー積が高く(320~440 kJ/m3程度)、最近では低価格化が進み汎用モータに使用できるようになってきた【 参考文献5) 】。
以上の状況から、高速回転を可能にした永久磁石同期形のメガトルクモータを開発した。
モ-タの設計において、モータコアは磁束密度分布の解析に加え、トルクリプル、コギングトルクなどの高精度位置決めを達成するための特性を確認しながら設計を行った。
解析は有限要素法(FEM)を用いた磁界解析により行い、実機にて検証した。
多数のパラメータの影響を確認するため、主要寸法・諸元のリスト作成からFEMモデル作成、条件入力、解析実行までを自動的に実施可能なシステムを構築し、設計の効率化を行った。自動作成を行ったFEMモデルと、磁束密度分布図を図2に示す。
PS1006のトルク-回転速度特性(N-T特性線図)を3に示す。
従来品A、従来品Bと比較すると、最高出力トルクが2倍、また、高速領域でのトルク特性が大幅に改善されていることがわかる。
軽量物(負荷イナ-シャ:0.007 kgm2)の180°位置決め動作を例として、位置決め時間を比較した結果を図4に示す。
従来品の最高回転速度はいずれも3s-1である。PS1006は最高回転速度が10s-1のため、位置決めは従来品Aの約50%の時間で完了している。
高速位置決めを実現するためには「最高回転速度の向上」と「モータの高トルク化」が必要であることがわかる。
短時間整定を実現するためには、モータの回転動作中における追従偏差をできるだけ少なくさせることが有効である。そのため、本開発においては位置決め動作指令に対する位相遅れを補償し、応答性を改善する高追従制御を採用している。
フィードバック制御により安定化された制御対象は、一般に高い周波数領域において位相が遅れる。
高速位置決め動作を行うことを考えると、目標値(位置指令)から制御出力(モータの回転角度量)までは遅れがないことが望ましい。仮にフィードバック制御系の前に、その逆特性を有するフィードフォワード制御器で補償を行うことができれば、目標値から出力までの伝達特性が“1”になり、指令とおりの位置決めが実現できることになる。
このような考え方として零位相差トラッキングコントローラ(ZPETC)がある【 参考文献8) 】。
フィードバック制御により安定化された制御対象の離散時間モデルは 次のようになる。
従来のP-PI方式9) は、位置制御ループでは比例制御を行い、速度制御ループでは比例制御と積分制御を行うことにより、摩擦等の外乱による定常偏差を0としている。積分制御を用いた場合、積分ゲインを上げるためには、同時に比例制御のゲインも上げる必要がある。比例ゲインを十分に上げることができない場合には必然的に積分ゲインの上限が決定されるので、望まれる外乱抑圧特性を満足できず、制御性能の劣化や整定時間短縮に対する限界があった。
そのため、本開発においては、外乱抑圧特性の向上を図るため外乱オブザーバを採用している(図5)。
それは、トルク外乱 をモータへのトルク指令τと位置出力θから推定し、それに対してローパスフィルタQ(s)を介してフィードフォワード補償することにより、外乱の影響を打ち消す制御方式である。
このとき、位置出力θは次の伝達関数で表される。
図6は、図5を等価変換したブロック図である。
図6より、ローパスフィルタQ(s)のカットオフ周波数以下の外乱はその影響が抑えられる構造となっていることがわかる。
外乱オブザーバを用いた場合には、速度制御ループでのゲインによって制約を受けていた積分制御方式に比べて、外乱に対してより強い制御系を構成することができ、これまで以上に早い整定を実現することができる。
図7は同サイズの新旧メガトルクモータの位置決め性能比較試験結果である。
従来品AはメガトルクモータJS1003、新メガトルクモータはPS1006を用いた。180°の位置決め動作において、位置決め時間はJS1003で330msであるのに対して、PS1006では、146.5msとなり従来の1/2以下となっている。また、新開発の高追従制御方式により、動作時の追従偏差量がPS1006では約40パルス(位置検出器分解能を従来品と同じ614400カウント/revに換算した場合)であり従来の方式に比べて1/500と、非常に小さな値となる高追従が実現している。
また、整定時間は従来品Aが50msに対してPS1006は1msと大幅に短縮できている。
PSシリーズのモータ位置検出分解能は2,621,440パルスとなっている。図8に、1パルスのステップ送り位置決め試験結果を示す。
1秒の時間毎に1パルスずつの位置決めを行い、合計10パルス分時計方向に回転、その後反時計方向に同じパターンで回転させる動作を繰返したものである。測定データはモータ中心から200mmの位置での移動量をギャップセンサにて測定したものである。
2,621,440パルスに対する1パルスの移動が確実に行われて、高精度な位置決めができることが確認できる。
モータと負荷が細い軸で取付けられている場合や、剛性の低いアーム状の負荷が取付けられている場合などは、共振点の影響でモータが振動的になり、剛性の高い負荷を取付けた場合ほどには、ゲインを高く設定することができない。
このような場合に対処する方法として、次の方法がある。
ここでは、スプラインを介して取付けられたアーム(図9)に対する位置決め試験を行った結果を紹介する。
試験装置の周波数特性(図10)は68Hzに反共振点,260Hzに共振点を有する構造となっている。
従来のノッチフィルタは除去帯域の先鋭度をあらわすQ値を固定としていたが、今回は、適用している負荷の特性にあわせて、パラメータにより任意に設定可能とし、最適な調整が行えるようにした(図11)。
図12の(1)、 (2)、 (3)にそれぞれ、対策なしの場合、ダミーイナーシャを用いた場合、ノッチフィルタを用いた場合の90°位置決め試験結果を示す。
(1)では、共振周波数の影響で位置決め完了できずに残留振動があることがわかる。ダミーイナーシャを取付けた場合と、ノッチフィルタで共振点のゲインを下げた場合では、どちらも残留振動が殆どなく位置決め完了している。ノッチフィルタで補償した場合は、ダミーイナーシャを取付けた場合に比べ、慣性モーメントの影響で加減速度を高く設定することができるため、位置決め時間も短時間で実現できている。
メガトルクモータ PSシリーズ(図13)は次のような特長を持っている。
メガトルクモータ PNシリーズ(図14)は次のような特長を持っている。
また、PNシリーズはブレーキ付(図15)も対応し次のような特長を持っている。
メガトルクモータ PNZシリーズ(図16)は次のような特長を持っている。
※1 国際電気標準会議(IEC)で定められた規格において高圧噴流水の浸入を防ぐ保護等級IP66Mを実現したダイレクトドライブモータとして(2010年6月現在 NSK調べ)
※2 第三者機関テュフ ラインランド ジャパンに適合証明されました(IEC60529、IEC60034-5)
メガトルクモータ PXシリーズ(図18)は次のような特長を持っている。
高速、高精度のメガトルクモータ PSシリーズで用いられている技術を解説・紹介した。
また、PSシリーズの技術を応用して開発したPNシリーズ、PNZシリーズ、PXシリーズについて製品の特長を紹介した。
メガトルクモータに寄せられる様々な要求や期待に応えることにより、メガトルクモ-タをFA用アクチュエ-タとしてさらに使いやすくし、その用途の広がりを図るため、今後も新しい技術開発・製品開発を行っていく。
参考文献