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精機製品・技術レポート:工作機械用高剛性NSKリニアガイド

工作機械用リニアガイド

工作機械の高速化が進むなかで、高速対応力に優れたリニアガイドの採用が増加してきている。
NSKでは、工作機械用リニアガイドの特性のねらいを以下のように設定して製品の設計・開発を行っている。

  • 1) 適度な予圧で剛性が高く、かつ各方向にバランスが良いこと
  • 2) 適度な摩擦を持ち、減衰性を有すること
  • 3) 運動真直性など、高精度であること
  • 4) 長寿命で信頼性が高く、耐衝撃性に優れていること

1. NSKリニアガイド「LYシリーズ」

NSKは、工作機械用リニアガイドとして、LYシリーズを1980年代から市場に提供している。LYシリーズは、4列のゴシックアーク溝を有しており、予圧設定によりボールが溝と4点接触するような溝中心オフセット量になっている。このため、負荷を受ける点の数が多く、4溝で荷重を支えるので適度な予圧で高剛性を得ることができる。また、接触角と45°としており、上下左右の各方向にバランスが良く、さまざまな方向からの切削力に対して同じように高剛性である。
図1は、ドイツ工作機械協会(VDW)がアーヘン工科大学に委託して行った各メーカのガイド剛性測定結果からの抜粋である。ボールを用いたガイドのみを示したが、NSK・LYシリーズが他のガイドに比べて高い剛性であることが判る。

図1:各社ガイドの剛性比較(#45フランジタイプ、圧縮方向)

LYシリーズは4点接触とすることによって、適度な摩擦力を与えている。この摩擦力によって減衰性を高めており、滑り案内には及ばないものの、2点接触品にくらべて明らかに高い減衰性を示している。図2にダンピングの評価装置を、図3にその評価結果を示す。

図2:ダンピング評価装置&図3:ダンピングファクタの比較

2. 工作機械用リニアガイド「LYシリーズ」

前述のように、LYシリーズは「4点接触構造」によって高剛性を得るとともに、適度な摩擦によって減衰性を高めており、工作機械向けとして適したリニアガイドである。
しかしながら、最近の工作機械はマシニングセンタに代表されるように、さらなる高速化・高精度化が進んでおり、早送り速度では60m/min以上の機械も出てきている。機械の高速化は、当然のことながら高加減速化となって、案内系への負荷が増加する。また、高精度化の要求にともなって、機械のさらなる高剛性化が必要とされ、より剛性の高いリニアガイドが求められている。
以上のような背景から、LYシリーズをベースにさらなる高性能化を目指して、工作機械用リニアガイド「LAシリーズ」を開発した。
その基本コンセプトを以下に示す。

  • 1. レールの両側面に各3列の溝を配置することなどにより、剛性・負荷容量ともLYシリーズの1.4~1.5倍とする。
  • 2. 4点接触と2点接触とをバランスよく組み合わせることにより、摩擦はLYシリーズの50~60%とする。
  • 3. 取付け周りの寸法は、現在市場で多く使用されているガイドと同一とすることによって標準化を計る。
  • 4. 技術の発展と蓄積を背景に、いくつかの改善を加える。

LAシリーズとLYシリーズの断面形状を図4に示す。LAシリーズは、取付け周りの寸法をLYシリーズと同一として、片側3列合計6列の溝を配置している。玉径はLYシリーズと同じであり、上下溝は溝R比(溝半径/玉径)を従来よりも小さくしたサーキュラーアークとし、中央の溝は4点接触のゴシックアークとして、溝位置の高精度測定と高精度加工を確保している。これらの溝を組み合わせることによって、適度な摩擦力で高剛性・高負荷容量を実現している。また、接触角をLYシリーズと同様に45°とすることによって、どの方向に対してもほぼ等しい負荷容量・剛性となり、バランスのとれた構造となっている。表1に、LAシリーズとLYシリーズの代表的な型番についての特性比較を示す。

図4:LA・LY断面形状

また、図5にはLAシリーズの剛性と動摩擦力の実測データを示す。これらのデータから、LAシリーズがLYシリーズに対して約60%の摩擦力で1.4~1.5倍の剛性を有することが確認されている。

図5:LA45長型(重予圧)剛性・摩擦実測データ

以上のような基本的機能の向上と同時に、いくつかの改善を加えている。そのひとつとしてシール性能の向上がある。レールの断面形状をできるだけ単純な形状としてシールが密着しやすい形状とし、さらにシール自体の形状にも改良を加え、外部からの異物が浸入しにくく、ベアリング内部の潤滑ユニット「NSK K1」もオプションとして準備しており、上記のシール性の向上と合わせて、メンテナンスフリー化への対応も可能となっている。
現在LAシリーズは、工作機械に数多く使用されている型番を優先に、表2に示すサイズとベアリングの種類についてシリーズ化しており、予圧はZ3(中予圧)とZ4(重予圧)の2種類について対応している。

表2:LAシリーズ対応状況