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精機製品・技術レポート:位置決め精度に対するボールねじ・直動案内の影響

1. まえがき

機械構造においてテーブル送り系は,軸方向の精度を決定する重要な運動系である。
この送り系は、NC工作機械の精度向上や昨今の半導体製造設備、情報関連機器、超精密加工等の発展とともに極めて高い精度を要求されるようになってきた。
ここでは、その中でも重要な機械要素であるボールねじ、直動案内軸受を中心にして各要素の位置決め精度に及ぼす影響について概説する。

2. 精密位置決め要素

図1に精密位置決め系の構成要素を示す。位置決め精度と云っても必要とする機能や精度は様々であるので、使用される要素も種々の組合せが考えられることになる。問題はどの要素が良いかではなく目的とする機能や精度にどの要素が適しているかである。
また、当然のことながら、制御駆動装置は極めて重要な役割をもつ。位置決めシステムの高精度化のためには単に何らかの要素の高精度化だけでなく、系全体としての検討や最適化が重要となる。
伝達機構の要素として、送りねじは、最も多く使用されている。精度の面でも安価な滑りねじから、超精密角ねじや静圧ねじまで巾広い要素である。
微細位置決めという点では圧電素子、リニアモータ等の直接駆動や摩擦駆動等が種々実用化されている。
このように様々な伝達駆動要素があるもののコスト、長期間の安定性、ストローク・剛性・負荷容量・速度等への対応性、制御の容易さや使い勝手の良さを考えるとき、ボールねじは多くの特長を有している。
案内機構も種々の要素が利用され、その中でも滑り案内(動圧案内)は最も一般的である。しかしながら昨今の高精度高速性要求のなかで、案内部の遊び、摩擦力の速度・外力に対する変化、低速時のスティクスリップ、高速時の耐久性等の問題のため、静圧案内や転がり案内の使用が増加している。また真空などの環境用として磁気浮上案内も実用域に入ってきた。

図1:精密位置決め系の構成要素

3. ボールねじの位置決め精度への影響

3.1. リード精度

ボールねじのリード精度は、1980年にJIS化され、1987年に一部改訂され、(1)累積代表リード誤差、(2)変動(全長)、(3)変動(300mm)、(4)変動(1回転)の4特性で規定されている。
ボールねじに要求される機能は、組立体でのナット歩み精度であるが、一般にねじ軸単体のリード精度で評価されることが多い。リード精度を広範囲と狭範囲とに分けると、広範囲精度は相対的に加工精度も良く補正も容易なため問題となることは少ない。今後の高精度化のためには、狭範囲の精度が重要である。
図2に最高級精度であるC0級のリード誤差の一例を示す。累積代表リード誤差は1μm/208mm、全長に対する変動ねじ軸単体でも2μm、ナット組立体では0.9μmに過ぎず許容値の1/2以下である。
変動の特徴的成分は、ねじ研削盤親ねじの1回転成分(12mm周期)であり、単体では1~1.5μmであるがナット組立体では平均化効果により0.5μm以下に減少している。一般に狭範囲の誤差は単体の場合よりナット組立体では1/2~1/3に減少する。

図2:ボールねじのリード精度

3.2. 非同期成分

上述したリード精度は、その周期に違いがあっても軸の回転同期成分である。転がり要素には転動体の自転公転にからんだ非同期成分があり、超精密領域では問題となることがある。この原因は、軌道面の粗さ・うねりや転動体の径のばらつき・真球度不良等が考えられ、更に循環機構をもつ要素では、転動体の出入りによる振動が問題とされる。塚田ら1)は超精密テーブルにおいて0.4~0.5μmの送りむらの発生したボールねじをラップや合成樹脂のスペーサーボールの使用により0.1μm以下の送りむらにしたことを報告している。玉通過成分は振動としてだけでなくトルクの変動としても現れ、モータトルクと関連して送りむらとなり易い。
これらのジッタ的誤差は、同期成分と異り制御による補正が困難でボールねじを超精密領域で使用する場合の問題点とされていながら因果関係を含めた正確な評価研究例が少なく今後の重要な課題の一つと云える。

3.3. 取付部精度、取付誤差

リード精度が良好でも、その取付が正確でないと位置決め精度は悪くなる。1987年のJIS改正ではボールねじ取付部精度の重要性が認識され、厳しい許容値に変更された。今後更に向上が必要である。
ボールねじと軸受や案内系との芯出し精度が悪いと回転振れ誤差として現われることが多く、リード誤差と混同され易い。米田 2)はナットと支持軸受の同心部を従来の数分の1に管理することにより、超精密切削でのリードマークをなくした例を報告している。

図3にエア静圧案内にC0級ボールねじを直結しテーブル上の変位を測定したものを示す3)。回転振れ成分が現われているが大きさはかなり小さい。更に小さくしたい場合、ナットとテーブルを軸方向にだけ剛に拘束し他の方向には自由にする方法も実用化されている4~7)

図3:ボールねじの回転によるテーブルの振動5)

3.4. 剛性

図4:支持条件、ナットストローク位置と剛性の関係
ボールねじ周りの剛性が弱いと、ロストモーションの原因となる。ねじ周りの剛性はナット内剛性(鋼球とねじ溝間の剛性)のみでなく、ねじ軸の伸縮や支持軸受の剛性等を全体として評価することが必要である。一般にねじ軸の伸縮が最も大きな割合を占めることが多く、この剛性は軸の支持条件により大きく異なる。
図4に示すように、固定-支持(軸方向自由)ではナット位置による剛性の変化が大きいのに対し、固定-固定では剛性が高くなると同時に変化も小さくなる。
固定-固定の条件は高精度化には有利であるが、ねじ軸の熱膨張により支持軸受の過負荷等を生じることがあり、そのような場合には固定-半固定の構造がとられることが多い8)

3.5. トルク

図5:トルクの変動パターン

ボールねじの摩擦はもともと小さいので、剛性向上のために与えた予圧の結果という程度にしか考えられていなかった感がある。しかし、精密位置決めにおいてはボールねじや支持軸受のトルク(特にトルクむら)により、制御系のたまりパルスが変動し位置決め精度のばらつきとなる。このためトルクの安定性が重要となり、JISでも1987年の改正においてトルクの規格が定められ、基準トルクTpとそれに対する変動許容値が規定された。
トルクの変動にも広範囲と狭範囲の変動がある。広範囲変動の原因は、主にねじ軸溝径のばらつきのため予圧量が変化することによる(定位置予圧の場合)。剛性の問題がなければ定圧予圧にすればこの変動は十分小さくなる。狭範囲の変動は、ねじ溝の面精度・形状精度や循環路の設計・加工精度等によっている。狭範囲変動は、低速回転や揺動運動により顕著になる。狭範囲変動にはスペーサーボールの使用が効果的である。

ボールねじは、滑りねじに比べ微小トルクにおいて変動が大きいと云われてきたが、図6に示すように現在かなり改善されている。
後述するように高速時には、潤滑剤の粘度の影響によりトルクが増大する。逆に超低速時のトルクは、潤滑剤の性状により特徴的な影響を受ける。
前述したボールねじの取付誤差もトルク変動に関係する。取付精度が悪いと玉通過成分の変動が発生するとともに、そのこじり力によりトルクが増大し、特に低速領域では異常なトルク増大を生じることがある。

図6:低速摩擦トルク測定例

3.6. 熱膨張

高速化が進むなかでボールねじの熱変位の影響は、ますます大きくなってきた。
ボールねじの温度上昇は、1質点系に簡略化すると以下のような計算式で求められる。

ここで、
  • θ: 温度上昇 (°C)
  • t: 時間 (h)
  • Q: 単位時間当りの発熱量 (kcal/h)
  • β: 単位時間単位温度当りの放熱量 (kcal/h・°C)
  • CM: 熱容量 (kcal/°C)
熱変位は熱膨張係数と温度上昇値から算出できる。
熱変位対策は、以下のように整理される。
発熱量は実際の機械ではモータや支持軸受からの発熱も大きくボールねじのみで考えることはできないが、ここではボールねじのみの影響を考えるとすれば、摩擦トルクと回転速度の積となる。
摩擦トルクは、荷重項T F速度項TVの和で与えられる。ボールねじに与えられる荷重は予圧と外部荷重であるが、予圧ボールねじの場合外部荷重による影響は小さくTFは予圧トルクだけで計算して問題ない。前述したように、予圧量を大きくしても系全体の剛性はさほど向上しないので必要最小限の予圧にした方が良い。
速度項T Vは潤滑剤の粘性抵抗やかくはん抵抗による摩擦である。TVに対する粘度の影響は大きく潤滑剤の選択は極めて重要となる。筆者らは潤滑性能も考慮して、軽荷重・軽トルク領域では40°C(基油)粘度で10~30cSt、高荷重領域では35~50cStの潤滑剤を推奨している。
回転速度に発熱量は比例する。しかし、放熱量も回転速度に関係するので、温度上昇は回転速度の約0.5乗に比例する。いずれにせよ回転数は低い方が良いので、高速化とともにリードは大きくなる傾向にある。
放熱量は、(1) ボールねじ表面からの熱伝達、(2) ねじ軸端方向への熱伝導、(3) ナットブラケットヘの熱伝達、(4) 強制冷却による放熱 の和で決定される。
上述のような予圧量・潤滑剤の適正化によって温度上昇をかなり抑制することが可能となる。更に今後の高速精度化を考えると、何らかの強制冷却が必要になると思われる。
強制冷却には各種の方法がある。冷却対象としてナットと軸がある。ナット冷却の場合、問題となるねじ軸を直接冷却するわけでないので比較的効果が少なく、軸冷却のほうが良い。ねじ軸外周でも中空軸内周を冷却しても実用上違いない。冷却流体としては、その効果の順に水・油・空気があげられる。空気は流量の割に効果が少ないが流体回収が不要などの利点もあり目的によっては有効である。強制冷却用のボールねじとして中空ボールねじがシリーズ化されており、その効果も種々報告されている。
温度上昇の影響を避ける方法としても、種々の提案がなされている。ねじ軸を低熱膨張材で作れば熱変位は小さくなる。ただし、材料強度、コスト等の面から実用化は少し先になると考えられる。
最もよく行われているものにねじ軸に予張力を与える方法がある。ただし軸回転の場合は通常2~3°C、特別な場合でも5°C相当の予張力が限度と考えられる。前述した強制冷却と予張力を併用すると高精度な冷却能力が必要でなく効果的である。
垣野9)はモータにかかる負荷と速度を検出し温度上昇とねじ軸変位を時々刻々予測し補正する方法を提案し、その効果を報告している。
閉ループ制御を行えば熱変位は直接は影響しなくなる。この方式は高精度化には有効な方法であるが、コストアップや制御の難しさ等の問題もあり万能とは云えない。

4. 直動案内軸受の影響

前述したように直動案内には様々な種類がある。ここでは転がり案内軸受のなかでも近年多く使用されているクロスローラガイド(非循環ローラタイプ)と、リニアガイド(循環ボールタイプ)について位置決め精度に関連する問題について述べることにする。

4.1. クロスローラガイド

4.1.1. 取付けと取付け精度

この直動案内は、レールをテーブルとベッドに取り付け、そのすきま調整をして始めて所定の性能が得られる。したがって正しい取り付けが行なわれなければ高精度な案内を得ることができないので取り付け方法には十分な注意が必要である。
ガイドのレールは溝面の粗さや曲がりが小さいことはもちろんであるが、溝の直角度、形状も重要である。ガイドの取付面は結局レールがすきまなく取付けられることとなるので高精度な走り精度を出すにはレール精度と同等程度の精度が必要になる。通常、横押しボルトの締め付けにより予圧を調整することとなるが、その締め付けによりレールに変形が生じ走り精度を悪化させることがある。このためレールと横押しボルト間に押さえ板を入れボルト力を平均化する方が良い。

4.1.2. 走り精度

このタイプの案内は取付けが正確であれば、かなり良い走り精度が得られる。
クロスローラガイドは(他の非循環ガイドも同様)テーブルの位置により支持する転動体位置が相対的に移動するため予圧量や剛性が変化し、その結果走り精度が悪くなる。このため可能な限りストロークに対し転動体部全長を長くすることが望ましい。ローラ径のばらつきが走り精度の狭範囲な変動や非同期成分を生じると云われているが、筆者らの経験では上述のようにローラ部全長を長くした平均化効果の方がより走り精度に影響するようである。
これらの対策により、ストローク350mmのテーブルで水平・垂直直真度0.6μm、ピッチング1.9秒、ヨーイング0.5秒を得ている。

4.1.3. ミクロスリップ

このような非循環タイプの直動軸受はコンパクトであり、しかも循環タイプのような転動体の出入りによる非同期変動成分がないため高精度化にも適する。
しかしながら、非循環タイプ特有の欠点をもっている。その一つがミクロスリップ現象である。この現象は、テーブルの往復運動により保持器とレールの相対位置が少しずつずれて、最終的には保持器がレールを飛び出してしまう現象である。レールの両端にはストッパーが付けられているが保持器がストッパに衝突することにより走り精度が不良になったり、保持器破損が発生する。
この対策としてラックピニオンやワイヤ等によりレールと保持器の動きを矯正する方法も試みられているがその分構造を複雑にし、このタイプの特徴が損なわれることになる。
筆者らは、ミクロスリップの詳細な実験検討の結果、ローラやレールが正常な精度を保っていれば、ミクロスリップは、予圧の不均一や潤滑性能が良すぎると発生しやすく、逆にローラに特殊な表面処理を施せばかなり抑制できることを見いだした。これにより通常の使用範囲では、ほとんどミクロスリップを発生させないことが可能となった。ただし、負荷がテーブルをこじるように働く場合には、予圧不均一と同様な状態となるため注意を要し、前述したようにローラ部の長さをできるだけ長くとり、荷重の平均化をすることが必要である。

4.2. リニアガイド

リニアガイドのレールは長尺であるので、レールの精度は結果的にレールの取付面の形状にならってしまうことになる。したがって高精度な案内面を作るには取付面の真直度・取付面間の平行度を高精度に作らねばならない。この場合、取付面の粗さが問題ではなく、形状精度が重要であるので必ずしも研削加工によらなくてもよい。
このように基本的には取付面の精度に案内面の精度が影響を受けるのであるが、現実にはガイドのレールとベアリング間の相互干渉、接触部変形などの平均化効果によって取付面精度の影響はその1/2~1/10程度に低減される。図7に取付面精度から組立体精度までの実測例を示す。上述の現象がよく現われている。
特別な例として取付面をきさげにより1~2μmに仕上げた治具ボーラの例では、真直度としてピッチング方向に0.2μm/360mm、ヨーイング方向に0.8μm/390mmという静圧案内に迫る精度も得られている。
リニアガイドには(他の転動体循環タイプも同様)、このような真直度の広範囲な変動のほかに転動体循環等に関連した狭範囲の変動がある。

図7:リニアガイド案内のテーブル真直度

狭範囲の変動原因の一つはボルト締め付けによる誤差である。これはレールのボルト固定の締め付け力によりレール及びレール溝の変形が生じることによる。この誤差は、加工時に取付け時と同一の締め付け力でボルト固定し研摩することにより解消できる。
もう一つの原因は、ボールの負荷圏への出入りにより発生する玉通過成分である。この成分は傾き誤差を生じるので加工点等がテーブル面からオーバーハングしている場合には拡大され、真直度の狭範囲変動となる。
この変動は負荷圏へのボールの出入りにより発生するのでその出入りをスムーズにするためベアリングのボール転動溝端部に緩やかな傾斜(クラウニング)を設けることにより小さくできる。予圧は大きい方が変動値は大きい。ベアリング単体に比べテーブル組立体にすると、平均化効果によりかなり小さくなる。
このため、この変動を小さくするには要素側としてはボール接触部の剛性を高め、予圧及び予圧によるボール接触部の弾性変位を小さくできる設計をすること(NSK-LY型)、適切なクラウニングを正確に形成すること、系全体の設計としては誤差が角度により拡大されるのでオーバーハング量に対し十分なベアリングスパンを取ること、予圧は必要最小限とし、ベアリング個数を増やして平均化効果を高めること等が必要である。図8に測定例を示すがオーバーハング300mmの位置で標準品でも0.16μm程度であり、特殊なクラウニングを行ったものでは0.07μm以下が得られている。

図8:リニアガイドの玉通過振動

5. 位置決め精度の測定例と要因分析

位置決め精度という言葉は極めて広く使われていながら、それらをどう定義するかは必ずしも正確に規定されていない。あえて云えば米国工作機械工業会の提案10)が最も一般的に使われている。
この考え方は、任意に定めた位置に位置決めを繰り返し(7回以上)、そのデータから分散σを求め平均値Xのまわりに±3σのばらつきで位置決めされると考え の占める領域の最大・最小からシステム精度を定義し、±3σを繰り返し精度と定義するものである。この方法は一見合理的にみえるが、実際は誤差が正規分布する場合はよいが何らかの有意な意味をもつ場合等は全く誤まった繰り返し精度となる。また、この評価だけでは誤差の要因分析は困難である。
筆者らは別にテーブルの動きを連続的に測定し、そこに現われる周期的パターンから誤差要因を評価する手法をとっている。

5.1. 工作機械の位置決め精度測定

ある工作機械において(セミクローズド制御)機械精度をリニアスケールにより測定したところ、大きな誤差(30~40μm/240mm)が計測された。この原因をさぐるためレーザ測長器を使って位置決め精度、姿勢精度を測定した。各測定点を図9に示す。

図9:測定位置

図10にテーブルのピッチング、ヨーイング精度を示す。特にヨーイング誤差が大きい。図11に各測定点でのリニアスケール、レーザ測長器による位置決め精度の測定結果を実線で示す。各測定点により結果が大きく異なっている。図10で示した姿勢精度から各測定点位置であらゆる位置決め誤差を算出したものと別に、測定されたボールねじ単位のリード精度を加算したものを図11の破線で示す。位置決め精度とよく一致している。ただし、一点鎖線で示したボールねじのリード誤差は極めて小さく、位置決め精度はほとんど姿勢誤差の影響で決定されている。
テーブルの姿勢精度は真直度として測定されることが多く、この場合ストロークが短いこともあり、4μm程度にしかならず、十分良い精度と誤解しがちであるが、位置決め精度には大きな影響を与えることがわかる。
テーブルの姿勢精度が位置決め精度に与える影響は大きく、広範囲の変動誤差はこの例に限らず温度上昇か姿勢精度の影響といってよい程である 11)
姿勢精度の影響はクローズド制御でも同様に現われ、例えばこのリニアスケールで位置制御をしたとすればテーブル中心では大きな位置決め誤差となる。

図10:姿勢精度&図11:位置決め精度への姿勢精度の影響

5.2 ロストモーションの評価

図12にあるNC機械のステップ送りを行った場合の結果を示す。20μmのロストを生じている。
ところが同じ機械において送り速度を上げて測定すると、図13のようにロストモーションが負(行き過ぎ)となる。これは起動時に指令に対し実際の動きが遅れるとともに、停止時にオーバーランが生じていることによる。

図12:ステップ送りのロストモーション&図13:ロストモーション試験

図14に遅れとオーバーランの状態を力学的にモデル化して示した。このように遅れもオーバーランも力学的には同一の関係にあり、往復のロストモーションは立上り時の遅れと停止時のオーバーランの差の2倍となる。今、もし遅れのみ生じオーバーランがないとすれば、図12のようなロストモーションとなり、遅れに比ベオーバーランが大きいと図13のようになる。

図14:遅れとオーバーランの力学的関係

オーバーランは停止時の力学的状態によって変わるので、テーブル系を1自由度のバネマス系と仮定し、送り速度とロストモーションの関係を求めたものと実測値の比較を図15に示す。計算値と実測値がよく合っているのがわかる。

図15:ロストモーションと送り速度

5.3. 小型テーブルの測定

図16に精密位置決めテーブルのセミクローズドとクローズド制御の位置決め精度の測定例を示す。このテーブルはボールねじ(リード3mm)とクロストローラガイドで構成され、セミクローズドでは1回転当り1,000分割のエンコーダ、クローズドでは0.1μm分解能の光学式リニアスケールを使用している。この結果には測定上の誤差も含まれるが全体としてはかなり良い精度と云える。

図16:セミクローズドとクローズド制御での位置決め精度

この評価では、このテーブルがどのようなレベルの精度をもっているかは議論できるにしても、この精度にどのような誤差要因が含まれているかあまりよくわからない。その検討をするために連続送り精度を測定したものを図17に示す。これはモータに内蔵されたエンコーダの信号をトリガーにして1回転当り100点のデータを採取したものである。特徴的な周期成分誤差が発生していることがわかる。この狭範囲の変動成分の分析をするために傾き補正後スムージングし(移動平均)、縦軸拡大を行ったものを図18に示す。この測定にはレーザー測長器を使用したが±0.1~0.2μmの微振動や空気状態等の環境条件によるゆらぎがある。この成分をカットするためスムージング処理している。

図17:連続送り精度&図18:スムージングと拡大

図19に原波形の一部を周波数分析したものを示す。0.25~0.4cycle/rev.の付近と1cycle/rev.付近に特徴的成分があることがわかる。図20に逆フーリェ変換を使って0.5cycle/rev.以下をカットしたものを示す。高調波成分も含まれているが周期3mm(1回転)の成分がほとんどを占めている。この測定に使用したエンコーダの1回転当りの累積誤差を、基本分解能の1/10と考えても0.3μmの1回転周期誤差をもつことになる。実測の誤差が0.5~0.7μmであるから少なくとも半分以上は、エンコーダの誤差であり、残りがボールねじの振れ回りによる誤差かリード誤差と考えられる。

図19:周波数分析

図20には、逆に1回転周期成分(0.8~1.2cycle/rev.)をカットしたものを示す。高調波成分も含んでいるためくずれた波形となっているが周期12mm(0.25cycle/rev.)の成分が0.5~0.6μm現われている。この成分はねじ研削盤の親ねじのリードと一致し、このことからボールねじのリード誤差と考えてよい。このように連続送り精度の周期性を分析することにより各要素のもつ誤差を分離評価することが可能になる。

図20:周期成分の分離

6. あとがき

位置決め精度に及ぼす要素の影響を、ボールねじ、転がり案内を中心にして述べてきた。
今後の超精密位置決めという課題を考えるとき、種々の意味での課題が立ちはだかっているのを感じる。
ここでは動的応答の問題の議論を行っていない。高加減速応答や2軸位置決めでの輪隔精度の問題は別の機会に報告したい。

本報告は位置決め精度という点に限定したが実際の使用にあたっては、クリーン・真空・非磁性あるいは高速化に伴う振動・騒音等の課題もある。
内容的に不足している点や言葉足らずの点は御許し願うとして、位置決め機構の要素技術として本文がわずかでも御役に立てば幸いである。

参考文献

  • 1) 塚田, 他:精密機械設計便覧, 98, (社)精機学会
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