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課題を解決する新たな処理で、環境にも貢献
「高精度・長寿命ボールねじ」

NSKは、企業理念でうたっている「円滑で安全な社会に貢献し、地球環境の保全をめざす」の実現に、さまざまな側面から取り組んでいます。環境に貢献する製品を創出することが、NSKの大きな使命だと考えています。そこで、今回は、環境貢献型製品の一つである「高精度・長寿命ボールねじ」の開発者に、製品に込めた想いを聞きました。

プロフィール

川田 直樹(写真右)
産業機械技術総合センター 直動技術センター 試験研究部 副主務

大久保 貴史(写真左)
産業機械技術総合センター 直動技術センター BS技術部

運動方向の転換を可能にする部品、それがボールねじ

川田ボールねじは、ねじ軸、ナット、ボールと循環部品などから構成されている、モータなどの回転の動きを直線方向に変換する製品です。工作機械や半導体の製造装置などに使われています。皆さんが使っているスマートフォンのプラスチックのフレームを成形する射出成形機などにも使われています。また、電動油圧ブレーキシステムなど自動車部品にも使われるなど、産業を問わず、幅広いニーズがあります。また、直線方向の動きを回転の動きに変えることもできます。ビルの制振装置では、その特徴が活かされています。

大久保ボールねじは、精密な位置決めができるのも特徴の一つです。非常に微細な動きをすることができるので、機械の精度を高めることにつながっています。また、軽い回転力をボールねじに与えるだけで、大きな力にすることができます。プレス機械など、非常に大きな力を発生させたい機械には、この特性が活かされています。

ボールねじの基本的な構造イメージ

特殊な処理で、お客様の困り事を解決

川田技術の発展に伴い、機械の高度化・高精度化が進んでいます。これにより、ボールねじが従来よりも厳しい条件で使われるようになってきています。たとえば、非常にゆっくり動く装置や、ごく細かい移動を繰り返す装置などが近年お客様よりリリースされており、このような市場の変化に対し、新たな製品を生み出す必要がありました。そこで開発したのが、「高精度・長寿命ボールねじ」です。

高精度・長寿命ボールねじ

大久保低速の動きや細かい移動を繰り返す条件下では、ボールねじ内で溝とボールとの金属同士が接触して、それぞれがすり減ってしまうことがあります。この現象を「摩耗」と呼びます。潤滑剤を入れることで金属同士が接触する面に油の膜を形成し、摩耗を抑えています。しかし、低速でボールねじを動かすと、油の膜が形成されにくくなってしまい、摩耗が起きやすくなってしまいます。摩耗が起きると、ボールねじの部品同士の間に溝ができ、ガタつきが生じてしまい、機械の精度の劣化にもつながります。

そこで、「高精度・長寿命ボールねじ」には、材料表面に油膜を形成しやすくする処理(表面改質)を施しました。この表面改質により、溝とボールの接触面の間に油が入り込むすき間ができるので、摩耗を抑え、精度を長く保つことができます。

川田お客様の困り事が今回の製品の開発のきっかけになっています。これまで、お客様と意見交換をさせていただいた中で、ボールねじを使う上での困り事として「摩耗」が多く挙がっていたのです。現在、お客様に本製品のサンプルを試していただき、フィードバックをいただきながら、開発を進めています。表面改質を施すということは、従来の製品よりもひと手間かけることになりますので、高いコスト意識を持って取り組んでいます。

長寿命な製品が環境への貢献にもつながる

大久保NSKは、SDGsの17のゴールの中から重要課題を7つ設定し、その重要課題に対して取り組みを進めていますが、そのなかで「環境貢献型製品で地球環境負荷の低減に貢献すること」を宣言しています。その考えのもと、私たちも製品の設計をしています。

ボールねじやベアリングなど、NSKが提供する多くの製品は、摩擦を減らすことで、省エネ・省資源に貢献し、地球環境の保全に貢献しています。また、今回の開発品のように、ボールねじの精度を長く保つことができると、製品としての寿命が延びることにつながります。ボールねじを使ってくださっているお客様にとっては、メンテナンスが少なくてすむというメリットがあります。環境面では、新しい製品へ交換する頻度が減るので、省資源につながります。また、低速運転時でも摩擦が上昇しないので、モータなどにかかる負荷が減り、省エネルギーにも貢献しています。表面改質は、表面の粗さを変えるだけなので、従来のボールねじと同様に環境負荷物質を使っていないことも特長です。

川田「高精度・長寿命ボールねじ」のように、長持ちする製品をつくると、製品の材料や生産設備を稼働させるエネルギーや製品を運ぶための物流など、さまざまな削減につながります。効率の良い生産設備を導入し、生産にかかる時間を短くできれば、省エネルギーにもつながります。設備を導入する際も、設備が使われる状況をイメージしながら、環境を意識して進めていきたいと考えています。

大久保私は、環境にやさしい製品こそが、本当に産業へ貢献できる製品だと思います。例えば、ボールねじを動かすには、グリースなど潤滑剤が必要になりますが、潤滑剤を使用する量が削減できれば、もっと環境負荷を下げられると感じています。これからも、環境にやさしいボールねじの開発に取り組んでいきたいです。

本記事に関するプレスリリース:「高精度・長寿命ボールねじ」を開発