OUTLINE
2017年、NSKは鉄道車両の乗り心地向上と高速化の両立に貢献する、ボールねじ式の制振アクチュエータ「動揺防止アクチュエータ」を開発した。このアクチュエータは、車両の揺れを軽減し、人が感じる不快感や体への負担を抑えるプロダクトだ。2018年の超モノづくり部品大賞では、『日本力(にっぽんぶらんど)賞』を獲得。すでに、東日本旅客鉄道株式会社(以下JR東日本)の中央線「スーパーあずさ」新型特急車両E353系や、クルーズトレイン「TRAIN SUITE四季島」にも搭載されている。この新製品が開発された背景や目的について、最前線でこのプロジェクトを推進してきた4名に話を聞いた。
- MEMBER
-
-
K
製品先行開発
自動車技術総合開発センター
ビークルダイナミクス技術開発部長付/主幹
1986年入社 -
S
製品先行開発
新領域商品開発センター
技術開発第二部/グループマネジャー
1987年入社
-
H
営業・マーケティング
東京支社 営業部
第一営業グループ/グループ長
1998年入社
-
T
製造
桐原精機プラント 製造課
生産技術グループ
2010年入社
-
乗り心地向上と
高速化の両立に向けて
この国で初めて鉄道が正式に開業したのは、1872年のことだった。世界初の蒸気機関鉄道を実用化したイギリスの力を借り、新橋駅―横浜駅間で営業をスタートしてからおよそ150年弱。この間に、日本のモノづくり力は格段に上昇し、鉄道車両は劇的な進化を遂げている。
安全性・高速化・環境性能向上・快適性。様々な観点から技術革新が進められてきたが、その中でも近年大きく注目されてきたのが高速化だろう。人々をより早く移動させるために、車両の軽量化も含めた様々な研究開発が実施されている。しかし一方で、車両の軽量化・高速化に伴う新たな課題が浮上してきたことも事実。それが、車体の揺れによる乗り心地の悪化だった。
線路は一見真っすぐなように見えても、そこにはうねりが存在する。トンネルを出入りする際の風圧により、車体が揺れる。軽量化によって風の影響を受けやすくなるとともに、高速化そのものも、車両の揺れを増加させる一因となっていた。乗り心地向上と高速化を両立させるために、鉄道車両の振動を抑制する新たな技術が必要だった。より小型軽量で数多くの車両に搭載できる制振アクチュエータの開発を目指して、NSKのチャレンジがスタートする。
培ってきたノウハウを活かし、
アクチュエータの開発を提案
- K
- このプロジェクトは川崎重工業株式会社とタッグを組んで進めたのですが、最初に相談があったのは、アクチュエータに使用するボールねじを提供してほしいという内容でした。でも私としては、ねじだけの開発では面白くない。当時所属していたメカトロ技術開発センターは、メガトルクモータ™や電動パワーステアリングを開発してきた部署であり、周辺技術は持っていました。それにNSK全体を見渡してみれば、モータの技術、ソフトウェアの技術、電子回路を設計し実装する技術と、すべて揃っている。アクチュエータの開発そのものを任せてもらえませんか、と提案に行ったことで、本格的にスタートすることになったんです。
モノづくりにかける情熱と地力の高さを感じさせるNSKらしいエピソードだが、もちろん事はそう簡単ではない。周辺技術やノウハウを持っているとはいえ、電車用のアクチュエータについては経験があったわけではないからだ。
- S
- メカ設計と回路設計でそれぞれチームを組みまして、私は回路設計を担当することになりました。Kさんの言った通りメガトルクモータ™での回路設計の実績はありましたが、電車用となるとスペックも異なりますし、そもそも電源電圧が違う。一般的な工場は200ボルトなのに対し、電車は440ボルトの電圧でした。電車は数百人という人命を乗せて走るものですから、知見のない技術で進めるわけにはいきません。お客さんと相談して、電車の中で440の電圧を200に落としてもらうことが決定し、具体的な設計に進むことになりました。
- K
- 揺れを抑えるだけだと思われるかもしれませんが、もしも不具合があって鉄道がどんどん揺れていくと、減速運転などでお客様にご迷惑をおかけするリスクもゼロではありません。信頼性を最優先するために、我々のノウハウを活かせる方向で進めつつ、検証・テストも徹底しておこないましたね。
難しい。だから、面白い。
当然のことながら、初めての挑戦で壁にぶつかるのは、開発・設計に限った話ではない。
- H
- 営業的な観点で言うと、お客様への提案価格を決めるところで苦労しました。初めてのものなので、一体いくらが適正価格なのかもわからない。かかっているコストが高いのか安いのかも判断がつかない状況でした。なんとか提案金額を確定してお客様と折衝するのですが、なぜこの金額になるのかという説明をするのがまた難しくて。初めてのものはこんなに難しいのかと痛感しましたね。
- T
- 量産に向けた体制作りでも同じ悩みはありました。普段自分たちの工場で生産しているものとはまったく違う製品だったので、設備や作業工程などを一から考えることが多く苦労しました。どんな設備を入れるべきかというリサーチから始まり、品質とコストのバランスを見ながら工程作りをしていくのは難しかったですね。ただ、逆に言うと自分たちのやりたいようにできるとも言えますし、この製品作りのベースとなる生産ラインを構築するという面白みもありました。私自身はいろんな人に話を聞きながら新しい知識に触れることを楽しみながら進められたと感じています。
積み重ねていく、実績と自信


NSK動揺防止アクチュエータ(左:アクチュエータ、右:ドライバ)
2018年現在、すでにJR東日本の中央線「スーパーあずさ」新型特急車両E353系やクルーズトレイン「TRAIN SUITE四季島」にも搭載されているNSK発の電動アクチュエータ。初めてその車両に乗って体感した時は、揺れの少なさに感動を覚えたと言う。
- S
- 先日八王子から甲府まで新型車両に乗ってみたのですが、非常にスムーズでした。すっと滑らかに走っていくのでほとんど揺れを感じない。我々のアクチュエータだけのおかげではないにしても、改めて自信につながりました。
- K
- 山間部を走るので、元々は揺れの大きな区間です。そこで実績が出たわけですから、今後はもっと多くの特急路線や新幹線で使われるようになっていくと嬉しいですね。
- H
- 一度アクチュエータが搭載されれば、保守やメンテナンスをしながらも車両の想定寿命までの期間、長年に渡り使用されます。乗り心地向上のニーズが高まっていけば、国内外問わず多くの車両で採用されると自信を持っています。
これからのNSKに求められる人材とは
まさに視界良好と言ったところだろうか。安定的な技術力と世界的にも高いシェアを誇りながら、常に新たな領域にもチャレンジし続けているNSK。最後に、これからのNSKで求められる人材像について聞いてみた。
- S
- 新領域商品開発センターは、これまでのNSKにはない商品・事業を開発していくことがミッションです。色々なことに好奇心旺盛で、モノづくりが好きだという人に来ていただければ嬉しいですね。NSK全体としても新しい動きに力を入れて取り組んでいるところなので、非常にやりがいのある職場になると思います。
- H
- まずお伝えしたいのは、私のように技術的な知識があまりない人でもやっていけるということ。設計の方や製造の方の力を借りて、チームの力で新しいものを作り上げていく。その結果、実際に鉄道車両として運用されたり、様々なシーンで利用される姿を見られることは、大きな喜びにつながります。そうしたことにやりがいを感じられる人であれば、きっと活躍できるはずです。
- T
- 入社後は若手のうちから多くのことを経験してきましたが、特にこの動揺防止アクチュエータの案件では、これまで経験したことの無い生産ラインの立ち上げに一貫して取り組んだことで自分への自信になりました。私の在籍している桐原精機プラントでは、分からないことがあればすぐに周りの方に聞けますし、楽しみながら成長することができる素晴らしい環境だと思います。何事も楽しんで取り組める人は、成長していけると思います。
- K
- このプロジェクトは、ある意味で私のわがままから始まっています。ねじだけではなく、アクチュエータ全体の開発にトライしたいと。その想いに対して実現できる周りの環境があったことは非常に幸いですし、逆に言えばそうした環境があったからこそやりたいと思ったのかもしれません。NSK全体としても、これからは今まで以上に一人ひとりの『やりたい』に応えられる会社になろうとしています。そういった想いをもった人に来ていただければ、個人としても会社としても、もっともっと成長していけるのではないでしょうか。
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